Side 姫
雪の国・スノウフィリア、輝の月――

この日、私はシュニー君に呼ばれて城へ遊びに来ていた。なんでも紅茶の国・オランシェットのペコ王子から新茶を貰ったらしく、それが思いの外美味しかったそうで是非飲んでほしい、というものだった。

紅茶の国の茶葉……それも、ペコ王子が厳選した茶葉は他国でも高い評価を得ているものばかり。その紅茶をシュニー君が気に入っていると聞いて、興味を持ってしまうのは言うまでもない。

それに、スノウフィリアには何処かで時間を作って遊びに行きたいと思っていたから丁度良かった。

執事さんに案内してもらいながら、目の前に佇む扉をノックする。「入れ」という声が聞こえ、私は扉の取っ手に手をかけた。


「失礼しま……」


扉の奥には、優雅に飲み物を口にしているフロストさんと、「遅いよ下僕!」と言いながら唇を尖らせているシュニー君。そして……


(お、女の子……?)


雪の模様があしらわれたロングワンピースを着た、白髪長髪の女性が顔を下へ向けて座っていた。二人の知り合いなのかな……?


「? どうした、早く座ったらどうだ」

「は、はい!」


不思議そうに首をかしげるフロストさんに導かれるように、私は空いている席へと向かって腰を下ろす。丁度彼女の隣に座ったこともあり、チラリと横目で盗み見る。

透き通った綺麗な紅い瞳、長い髪には形を崩さないようにと雪の結晶をあしらった髪留めが付いている。顔が整っているから、とても美人で同性なのに思わず見とれてしまいそうだ。


「あの、フロストさん……この方は……?」

「嗚呼、姫は"初めて"会うのだったな。紹介が遅れてしまい、すまない」

「……?」


フロストさんの口から出た『初めて』という言葉に、若干違和感を抱くけれど……真相が分からず首をかしげる。あまり気にしないでおくことにしよう……


「この者は、俺たち兄弟の親戚で、グラシエと言う。高潔なる雪の一族の一員ではあるが、王族ではない一般人として生活をしている。こうして、時折俺たちと会って雑談をしている、と言ったところだ」

「そうだったんですね。では、私はお邪魔でしたか……?」

「いや、今日はシュニーが手に入れた紅茶を飲んで味を堪能し合っていただけだ。そう気にするな」


「お前も、シュニーに招待されてきたのだろう?」と付け足されたのと、私の前に紅茶が置かれたのはほとんど同じだった。

ふわり、と漂ってくる甘くて優しい香りに思わず頬がほころぶ。


「ペコが手紙と一緒に送ってきたんだ、今年は良い茶葉が出来たから家族やお友達と一緒に飲んでくれってさ!」

「それで、私を誘ってくれたの……?」

「まーね!」


お前は僕の下僕だからね! と、照れた顔を隠すようにそっぽを向くシュニー君に、自然と笑みを浮かべてしまう。とても可愛い反応に嬉しさがこみ上げてきそうだ……

そして、私は差し出された紅茶へと手を伸ばして一口飲んだ。

ほんのりと甘いはちみつの味が混ざっているおかげか、とてもさっぱりとしていて飲みやすい。


「美味しい……!」


なんだか心もポカポカと温かくなってきそうきそうだ、と思いながらチラリと横を見る。……そこに座る彼女は、紅茶を少しずつ飲んでいるだけで会話に入ってくる気配がない。うう……折角会えたから、仲良くなりないなって思ってるんだけど……どう話かければいいのかな……?

少しだけ眉を下げると、何故かニヤニヤさせながらシュニー君が人差し指を立ててきた。


「ソイツ、小心者であまり他人と関わろうとしないんだ。あまり気を落とさなくて平気だからね!」

「そ、そうなの……?」

「うん! ついでだ、下僕はこれから時間ある?」

「?」


首をかしげながらも、「この後は用事はないよ」とだけ話すとシュニー君はニヤニヤと笑みを浮かべた。


「実はさ〜、グレ兄がまーた何処かに行っちゃってさー。折角の紅茶が無駄になっちゃうし、ソイツと一緒に探しに行ってくれない?」

「え……!?」


グレイシア君が城外へ行かれることはいつものことで、そんな彼を捜すなんて大役を私が受けてもいいのかな……? それも、お二人の親戚だと話す方と一緒だなんて……なんだか恐れ多いというか……!!

そんな私の尊攘に気付いているのか分からないけれど、フロストさんからは「城下に洒落た喫茶店がある。グレイシアを捜すついでに寄り道してきても構わんぞ」と言われ、シュニー君からは「城下のお土産もよろしくね!」と言われてしまった……

ああああ……私に断る隙を与えてくれないお二人に、私は二つ返事しか出せなかったのは言うまでもないことだろう。
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