Side フロスト
年末は何かと仕事が忙しく、ゆっくりとフレムと同じ時間を過ごすことができないでいた。

ようやく年も明け、三箇日だけではあるが一緒の時間を過ごす場を設けることができたのだ。

この時期は、年が変わったということもあり九曜の国で特別な催しがされているという情報を耳にし、フレムと共に訪れている。


「しーらーいーしー! ずるいでー!!」

「文句ばっか言ってないで、俺に一勝してから話は聞いたるで。金ちゃん」

「ムッキー!!」


少し視線を動かせば、木の板を手に何か勝負をしているであろう餓鬼共の声が聞こえてきた。

猿のように五月蠅い餓鬼に対し、片腕に包帯を巻いたもう一人の餓鬼がケラケラと笑っている。


「このお節料理、美味しそう! 千鶴さんたちにお土産で買っていっても良いですか?」

「ダメと言っても買うのだろう? 千華、お前という奴は……」

「ふふ、楽しい一時はおすそ分け出来ればしたいじゃないですか。千景さん」


また別の場所では、持ち帰り用であろう重箱を前に楽しく話す二人組が居た。雰囲気から察するに、夫婦なのだろうな。とても倖せそうだ……


「フロストさん、あれ……」


雑煮を食べ終えたフレムは、俺の服を引っ張りながらある場所を指差した。

そこには、この場所でのメインイベントであろう催しが張り出されているようだ。


「のど自慢大会……?」

「カラオケ対決というやつですね! 持ち歌を披露して、審査員に点数をつけてもらってその点数を競うという催しですよ!」


自信満々に話すフレムは、雑煮の入っていた容器を近くのゴミ袋へと入れた。


「いろんな土地の音楽に触れる、良い機会かもしれません! 観に行ってみませんか?」

「そうだな……」


まるで子供のようにはしゃぐ彼女が可愛くて、ついつい俺も笑みを浮かべてしまう。

二つ返事をすると、俺も空いた容器をゴミ袋へと入れて会場となっている建物へと向かうのだった。

意外と会場はすぐ近くにあり、多くの人だかりをかき分けて目的地へと向かう。


『さあさあ盛り上がってまいりました!! 2016年のど自慢対決!! 現在、レイディアントガーデン出身のカイリ選手が熱唱しました『Passion』が高得点をたたき出してから、トップを独走中です!! 挑戦者はいますかー!?』


中央で司会者であろう女の声が響く。

背後にある巨大モニターには、これまで披露された曲目と歌い手の名前が並んでいた。


「夢であるように、Progress、Real Emotion……どんな曲だったのでしょうか」

「かなり上位にあるようだな……ほう? 男も歌に参加しているようだ」


女ばかりかと思いきや、男であろう名前も連なっている……このような催しだ、数多の奴らが挑戦したのか。

なかなか面白い……歌ならば、どの世代の奴らでも興味を抱くものだ。


『挑戦者はいませんかー? ……って、あれ!? フレムちゃんに兄上じゃん!! いらっしゃーい!!』

「え?」

「ん?」


司会者の奴が、俺たちの顔を見るなり声をあげて手を振り始めた。

ちょっと待て、俺はあのような女の知り合いなどいないぞ。


『近くに兄さんいるね? ちょっと連れてきてよ!』

「おい、人使いが荒いのではないか?」

『極上肉まん50個で手を打とう!』

「よし、何処のどいつを連れていけば良い?」

「兄上、肉まんに釣られないでくださいよ……」

「ハァ……不甲斐無い」


司会者と、俺たちの近くに座っていた男が会話をする。

顔の半分を仮面で覆っている奴は、俺たちを見るなり歩み寄ってきた。


「俺は司馬子元と言う。あ奴に連れられてこの地にやって着た者だ」

「司馬子上ってんだ! ま、適当によろしくな!」

「そんな紹介の仕方、私は認めない。あ、私は王元姫と言います。すみません、連れが貴方方に不信感を抱かせてなければいいけれど」


男二人組は兄弟のようだ、大柄の男が仮面の男に対し"兄"と呼んでいたからな。


「そう言えば、お二人は彼女に会うのは初めてなのね。こういう特別な催しの時でないと、なかなか接触できない人だから。せっかくだし、お話してみたらどうかしら? うまくすれば、出番増やしてくれるかも」

「で、出番?」


女の言っている言葉の意味が分からないまま、俺たちは手を引かれてステージへと足を踏み入れることとなった。

想像以上に多い観客を前に、案の定フレムはガチッと固まってしまう。大勢の奴らからの注目の的となっているからな、無理ない。


「元姫っきありがとー! 司馬兄弟使えないなーもう!」

「俺に言うな、昭が悪い」

「お、俺ぇ!? そんな酷いですって、兄上ぇ〜!」


ガクッと膝をつく男に、仮面の男はハッと呆れたような声を漏らしているようだ。


「今思えば、こうして対面したの初めてやんなー。自己紹介から先に済ませるとするかー」


そう話すと、彼女はマイクのスイッチを切って腰に手をあてた。


「初めましてー、夜桜って言います! 主に君たちの物語を書くことが大好きな二次創作ゲーマー野郎ってところだねー」

「へ……!?」

「ということは、俺たちの話の制作者……ということか」

「ピンポーン! 大正解だよ兄上!」


陽気で馬鹿っぽい女が、まさか俺たちの話を書いてる奴だったとは……つまり――
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