黙って聞いていれば反吐が出る、自分たちが窮地に陥ったと分かればアポロを縛る楔の話を持ち出して……
プチッと堪忍袋の緒が切れて、真っ先に飛び出したのが父や兄たちの口癖となっている言葉だ。
「貴様らは凡愚は凡愚でも、凡愚以下の思考回路しか持ち合わせていないのか!!」
「な、なにを……!?」
「一度奇襲したかと思えばあっさり引き、もう一度襲い城を手に入れたことで舞い上がった結果だろう! 多くの悪行に悪政、武力による配下の兵たちに有無を言わせない圧力。これでは先が思いやられるわ……」
このままでは、私が今まで見てきた敵兵たちの末路と全く同じ道を辿っていくことが目に見えてきた。
悪いのは剣を手に私たちに刃を向ける兵ではない、兵たちに指示を出す哀れな国の頭だ。
「たとえお前たちを殺すことになろうとも、それでアポロを縛る楔が解かれることがなくとも……それがどうしたというのだ? 楔を取る方法など、調べれば糸口くらいいくらでも見つけられるだろう! 生きたいならば、生きたいという思いが見えるくらいあがいたらどうなんだ!」
扇を握る手に、自然と力がこめられ私の怒りは更に拍車がかかっていった。
「だいたい、なんなんだこの反乱ごっこのような兵の配置は! 杜撰すぎにもほどがあるだろう!! アポロの父と兄と聞いていたから、どんな策を出してくるかと思えば……青二才の鐘会、挙句の果てには曹爽よりも格下とはな……」
敵の力を目の当たりにし、形勢不利だと分かればすぐさま命乞いのような提案をしてくるところが癇に障る……
ハァ、と長いため息をつき……少しずつ冷静さを取り戻すとしよう。
「……最後に問おう、生きたいか……ここで生き恥を晒し死ぬか」
「くっ……」
「答えられないというのか? ならば……」
顔を歪める二人に呆れたような息を漏らし、ゆっくりと振り返った。
その先で立っているアポロは、目をパチクリと動かすだけで微動だにしていない。その光景がなんだかおかしくて、クスクスと笑い出してしまう。
私の声に、彼はハッと我に返ったようだ。
「ごめんなさい、つい頭に血が上ると父や兄のような言動になってしまって……お恥ずかしいです」
「いや、まさかお前にそんな一面があるとはな……」
「隠してるつもりはなかったんですけどね」
ここまで頭に血が上るようなことは、今までなかったからというのも理由の一つだ。
それに、私の話をここで切ったのには訳がある。目の前にいる二人は、アポロの父であり兄だ。だから、彼自身に決めてもらおうと思った。
彼らにどう処罰を下すのか……
「民の……この国の未来に害となるものは、すべてこの俺が排除する。それが、実の父や兄であったとしても……」
「ア、アポロ……!」
迷いのない言葉に、二人は震えあがっているようだ。
だが、アポロはこの二人を排除する気はないみたい。背後にいた筈の炎の龍が消えているのが、何よりの証拠だから。
「今ここで殺した方がいいかもしれん……だが、お前たちがやってきた悪行の数々と、俺が今後導く未来を見比べて見届けさせるには必要な人材だ……今後の行く末を、見つめてもらおう」
「!」
それはつまり、彼は二人を殺さないということだ。それが分り、当人たちはホッと安心したような息を漏らす。
だが、そんなことで収まるわけがない。
「まったく、くだらない乱痴気騒ぎでしたね。貴方方の処遇は、後日追って伝えることにしましょう」
こうして、フレアルージュの領をめぐる戦いは幕が下りた。
「ア、アポロ様……!」
「アポロ様……万歳!!」
「アポロ様!!!」
城の前では、多くの私兵たちが高らかにこの戦いの終わりを祝い、城内で待機してた兵が私たちの帰還を快く迎えてくれた。
アポロの部屋は手つかずの状態のようで、厳重に部屋を守っていた兵が瞳に涙を溜めている。
そして部屋に通され扉が閉まると、アポロは力が抜けたかのようにその場で倒れてしまった。
「アポロ……!?」
慌てて支えようとするけれど、大の大人を支えられるほどの力がある訳もなく、私も一緒になって床へと倒れる形となる。
彼はつらそうな表情を浮かべながら、うっすらと瞳を開く。
「不本意、だ……このような、不格好な王など……」
「いいえ、そんなことはありません。貴方のような王に護られ、想われ、民は誇りに思いますよ。絶対に」
「そうで、在らねばな……」
この国にも、そして私自身にも、アポロという存在が必要だから……
だから、生きてほしい。生きて、一緒に過ごしたい……
そういう想いを胸に秘め、私はなんとかベッドまで彼を運び共に寝るのだった。
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