01
このお話は、木ノ葉隠れで起こった"木ノ葉崩し"事件から数ヶ月が経った後の物語。
「それでは、行ってきます」
誰もいない部屋に向かってそう言って、目的地に向かって走る彼女の名はトキネ。
砂隠れの中忍で、高度な医療忍術を習得した優等生である。優しく誰もが親しみやすそうな彼女には、一つの問題を抱えていた。
それは……彼女の体の中に、化け物が住み着いているということ。
化け物の名は、鳳凰。炎を司る最強と呼ばれる伝説の鳥なのだ。
不死鳥とも呼ばれる鳥を自在に操ることのできる唯一の存在・トキネ。
そのことを知る大人たちからは、彼女の事を『化け物』と何度も呼ばび忌み嫌われていたという……哀しく辛い過去を背負っていた。
だが、そんな彼女に三人の理解者が現れたのだ。
「トキネ、おはよう」
「おはようございます! テマリさん」
トキネが着いた場所は、家からそんなに離れていない訓練場。
そこには三つの人影があった。そのうちの一人が、手を振って彼女を呼んでいる。
トキネを呼んだ人物の名はテマリ。風を操る風使いであり、トキネにとって姉的存在な人だ。
「なんだ、珍しく早起きじゃん」
「へへ……なんだか緊張してしまって、早く起きてしまったのです」
「へぇ〜、トキネでもそういうことがあるもんじゃん」
「あ、当り前ですよ!」
テマリの後ろから現れた人は、カンクロウという。
傀儡(クグツ)という人形を使って敵と戦う、トキネの兄的存在な人物だ。
「あ、我愛羅君。おはようございます」
「…………ああ、おはよう」
「今日も頑張りましょうね!」
「……………………」
最後に声をかけたのは、瓢箪を背負った赤髪の男。
左目の上に『愛』という文字が刻まれている彼の名は我愛羅。
トキネ同様、体の中に『守鶴』という化け物が潜んでいる人物である。
今回、この四人がこの訓練場に集まっているのには理由があった。
「それにしても、こんな私が教官なんて……務まるのでしょうか……」
「大丈夫だ。それは私たちも同じだからな……」
「そうそう、あんまり緊張しなくても平気だ」
今回の四人の仕事は、木ノ葉隠れの教育カリキュラムを導入した忍者学校の教官として、忍者学校の生徒たちに指導をすること。
自分より年下の子たちを相手にするのだ。テマリやカンクロウは慣れているが、我愛羅とトキネにとって初めての試み……上手くいくかどうか心配されるのも無理はない。
暫くすると、忍者アカデミーの子供たちが集まってきた。
互いを信じる絆 1 〜教官としての仕事〜
全員集まったことを確認すると、武器がたくさん置かれている机を挟んでテマリが説明した。
「今日から実戦訓練だ。これらの中から、自分に合った忍具を選択しろ」
ハッキリとしたテマリの言葉が、訓練場に響いていく。
大体の説明を聞き終え、おずおずしながら一人の少女が手を上げた。
「何だ?」
「あの……どうしても、選ばなきゃいけないんでしょうか」
少女の問いに、カンクロウが眉を動かして聞き返す。
「どういうことだ?」
「武器を使えば、相手を傷つけてしまいます。殺してしまうかもしれません……」
彼女の言っている言葉の意味は分からないわけじゃない。だが、そんなちょっとした隙を見せては生きてはいけない。それが忍びの世界だ。
「武器とは……」
何かを思ったのか、静かに口を開く我愛羅の言葉に、この場にいるメンバーが一斉に我愛羅を見つめる。
だが……しばらくして、いたたまれなくなったのかゆっくりと我愛羅は目を閉じた。
「いや、なんでもない」
トキネは小さく溜め息をつき、テマリとカンクロウは目を合わせてから皆に言った。
「任務は遊びじゃない」
「そんな心構えで戦いの場に出たら、死ぬぞ」
「あ……す、すいません」
威圧が伝わってきたのか、手を降ろして肩を小さく落とす少女に、近くにいた少年が小さく言った。
「馬鹿な質問をするから我愛羅とトキネさんを怒らせちまって……知らないぞ」
(怒ってませんけどね……)
答えるわけでもなく、ただトキネは彼らの小さな会話を耳にして心の中で呟く。目の前にいる生徒達にとって、トキネと我愛羅は恐れの対象にしかならない。
それが過去であっても、現在であっても、その先に待つ未来でも……その事実は変わらないのだ。
ゆっくりと瞳を閉ざすトキネを横に、続きの説明をカンクロウが言った。
「実戦訓練は、我々四名で行う。それぞれ、希望のクラスに集まれ」
少しガヤガヤと騒ぎだした。何処に誰が行くのか、近くにいつ友達と話しあっているようだ。そんな中で、テマリはふと我愛羅へと目線を動かして言った。
「我愛羅……笑顔笑顔。そんなぶっちょうずらしてたら怖がって誰も選ばないぞ?」
「大丈夫だと思いますよ」
「そうかい?」
優しい笑顔を向けるトキネに、心配そうな表情を浮かべるテマリに声をかける。
「はい。我愛羅君は、不器用ですが心の優しい人ですから」
「トキネ、お前……」
どう言えばいいのか分からず、ただただ優しく声をかけてくるトキネに我愛羅は少々困っているようだ。
周りからそんな風に声をかけてくる奴はいなかった。話すことも、行動を共にすることも、全てにおいてトキネが初めてだった。
どうして、ここまで一緒にいてくれるのだろう? 同情じゃないのはよく分かっていた。同じ境遇を受けてきたからこそ、お互い分かりあえているのも事実。
だが、前々から密かに想い抱いている気持ちをどう表に出せばいいのか分からなくなっているのも事実で……
「なんですか?」
「あまり、その……」
「?」
「い、いや……なんでもない」
訳が分からず、ただただ疑問符を頭の上に浮かべるトキネ。
そんなやりとりをしている二人に、テマリはニヤニヤしながら見ているのだった。姉としては、もう少し二人は親密になっても良いと思っているようだ。
一方生徒たちへと視点をうごかすと、どうやら少しもめている様子。
「ウチの父さんが、我愛羅とトキネさんのこと……砂の最終兵器って言ってたぞ」
「えぇ!? あのお姉ちゃんが兵器!?」
「ああ、怒らせると砂の里が滅んじまうほどなんだってな」
ヒソヒソと話す生徒達。子供が彼女たちに恐怖を抱く理由は、大人の教育が一番大きな影響を及ぼしている。見てもいないのに、関わってもいないのに、"お母さんが言ったから"とか"お父さんがやめとけって言うから"という言葉を並べて、対象と距離を取る。
今に始まった事ではないが、それが更なる孤立を作りだしている事を……大人たちは気付いていないのだ。それは子供も同様で……
「俺怖いから、あそこらはやめておこう。よし、俺はテマリさんだ!」
「私はカンクロウさんよ!」
生徒は、それぞれテマリやカンクロウの周りに集まってゆく。
その結果……我愛羅とトキネは、それぞれ孤立してしまった。分かり切っている結果ではあったものの、少しだけ寂しいと感じるトキネ。
「ま、孤立するのは分かっていましたし……」
「フン……」
少々ムスッとしたような声に、トキネは顔を横に向ける。
「拗ねているんですか?」
「拗ねていない」
(拗ねているんですね……)
分かりやすい反応に苦笑しているトキネの前に、一人の少年がやってきた。小柄で大人しい印象を持つ男の子だ。
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