変な奴だけど気になる奴




第一印象は、とにかく変な奴だった。

同じクラスメイトで、頭も良くて、人気もあって、人当たりが良い奴なのに、何故か抜けているというかアホというか……

いつの間にか、アイツのことを目で追っていたんだ。



桜の花びらがほとんどなくなった五月の中旬。

いつものように授業をサボろうと、保健室じゃなくって広い空を一面に見ることのできる場所―屋上―へと向かったんだ。


「お?」


いつも俺が独占している場所へ行くと、そこには既に人がいた。


「コイツ――――」


風がなびいて髪がサラサラと揺れる。

苗字名前。同じクラスの奴で、頭が良くてクラスの人気者。そして――


(何故か、俺が一番気になってるやつ……)


何処にでもいる普通の女。時々遠まわしで見てきたり追いかけてくる女子……そいつらと同じだと思っていた。

だけど、何かが違う。そう最初に出逢った時思ったんだ。

友人であろう女子と楽しく話している時に垣間見せる笑顔とか、俺が苦手な美術の授業も楽しく出ているってアシタバが言ってたっけ。

他の女子なら、めんどくさがってやらないようなことも、彼女は積極的にやる。そういう姿を見てなのか、周りにいる奴らは苗字をほめたたえて……いつの間にかクラスの人気を掴み取っていた。

自分から好きでやっていることに周りが評価されて嬉しいとか、そう話していたっけ……

時折見せる女性らしい表情に、俺は目を奪われることが何度もあった。それからなのかな、コイツのことが気になり始めたのは。


(コイツの髪、綺麗だよな……)


なるべく起こさないように、そっと苗字に近づいてゆっくり髪を触る。

見た目以上に柔らかく、サラサラしていた。なんかよく分からないけれど、ずっと触っていたいって思ったんだ。


「んっ…………ん?」


少し声をあげてから目を開く彼女。俺の顔を見るなり、目を点にした。


「あ、れ……なんで藤くんが、ここに……」

「いちゃ悪いのかよ」

「ううん、なんとなく気になって……」


ムクッと起き上がって大きく伸びをする。そんな些細な行動でも、苗字……いや名前は絵になるから不思議なもんだな。


「……ん? ねえ、もしかしなくても授業って……」

「始まってるぞ、ちなみに音楽な」

「う、うそ……ッ!!」


ワナワナと震えたかと思えば、落ち着こうと深呼吸したり指折りしたり……

ホント、変な奴だよ。だけど、そんな行動一つ一つに目を奪われる俺もどうかと思うけどな。


「で、でも音楽なら大丈夫。今日は合唱が中心だったはずだし……」

「は? 歌とかダメなのか?」

「ダメじゃなくて、苦手というか……あまり人前で歌いたくないんだよね。変に緊張しちゃうし……藤くんは、サボリ?」

「おう」


あっさりと返事をする俺を、名前はクスクスと笑う。


「美術の授業もそうだよね。めんどくさい、から出ないの?」

「まあな、よくわかったな」

「ずっと、見てたから……」 



―ずっと見ていた―



その言葉を聞いただけで、ドクンと鼓動が一つ大きく跳ね上がった。

それをきっかけに、なんか知らねーけど鼓動がどんどん早くなってきた……多分顔も真っ赤だろう。

なんでだ? 一人の女子相手に、こんな風に想うことはなかったハズなのに……いつも"メンドクセェ……"って言って聞き流しているはずなのに。

どうして?


「? 藤くん、顔が赤いけど……熱があるの?」

「ッ! いや、なんでもねーよ」

「そう……」


心配そうに顔を覗いてくる名前に、更に顔を赤くさせてしまう俺。

これは……相当重症だぞ。

疑問の答えを見つける前に、俺は名前の頬に手を添えて――――


「? 藤く……」


そっと、キスをした。

触れるだけのキスをして、そっと離れる。

今のは一瞬で終わってしまったかもしれない。だけど、俺にとってその一瞬は永遠のモノに感じられたんだ。

触れた名前の唇はとても柔らかくて、ずっと触れていたいって思った。

そして気付く。俺は、名前のことが……


「な、なんで……!?」


真っ赤になって目をパチクリさせる名前が愛おしく思えて、そっと抱きしめた。


「好きだな、て思ったら身体が勝手に動いたんだ。ゴメン……」

「す、好きって…………え!?」


腕の中でコロコロと表情を変える名前がおかしくて、思わず笑ってしまう。


「わ、私……キス初めてだったの……」

「!? わ、悪い……!」


俺はとことん馬鹿だと思った。なんで、こんなことをしてしまったんだろうと……自分で自分を叱りたくなる。

慌てる俺を制するように、名前が俺の手を握った。


「でもね、嬉しかったんだ」


身体を離して顔を合わせると、名前は今まで見たことがないくらい綺麗な笑顔を向けていた。

そして、少し背伸びをして名前からキスしてくれた時は本当にビックリした。

頭がショートする寸前だったんだ。こんなドッキリいらねぇと思う反面、すっげー嬉しかった。


「私も好きだよ。藤くん」


その後、俺は嬉しさのあまり名前をきつく抱きしめてしまった。最初はジタバタと暴れていた名前も、しばらくすると大人しくなって俺の背中に手をまわしてくれた。




俺たちのことをまるで祝ってくれるかのように、枚数の少ない桜の花びらが宙を舞っていった。




END


あとがきと言う名の言いわけ。

色々考えた結果、藤夢はこれで収まりました。
強引で、俺様な印象が大きい藤くんですが、なんせあまりキャラをつかめていない管理人ですからw←
なんとなく、文章を書いていったらピュアで心の中がポッと温かくなるような物語に仕上がりました。

私の中の藤イメージはこんな感じです。

というわけで、これはフリー小説となります。(こんな小説欲しいと思ってくれる方が何人いるか分かりませんが……)
(※フリー配布は終了してます)

掲示板やメールで報告してくださると更に良いです。


ではでは、この辺で失礼いたします。
管理人・夜桜

制作日:2010/5/10
引越日:2013/12/20

 

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