夏祭り

 
八月も終盤になってきた頃、新宿にあるとある神社では夏祭りが行われていた。


「仕事の帰りに寄れて良かった〜! 夜は花火が打ち上げられるそうですね」

「ええ、しかし…今回の仕事もつまらなかったですし…」


少々機嫌がナナメの赤屍。相方の名前は、アハハと言いながら神社の中に入って行く。

長年共に仕事をしてきた仲ということもあるのか、名前は赤屍の機嫌をとるように色々話をふる。


「そ、それにしてもすごい賑やかですね〜! あ! かき氷や焼きそばがありますよ! あそこにはチョコバナナが…て、銀ちゃん!!」


最後の名前の言葉に、赤屍はピクリと反応した。


「あ〜! 名前ちゃん! お仕事終わったの?」

「うん! 今仕事帰りなんだけど、気になっちゃって…」

「そうなんだ〜! あ! 是非チョコバナナ買って買って!! 一本400円のところを200円にしてあげるか…」


―ゴツッ


「な〜に俺の知らないところで値下げしてんだよ…銀次」


銀次を殴りながら現れたのは、ダンボール箱を二つ持つ蛮だった。


「それと、コイツの後ろにいるヤツの事…わかって言ってんのか?」

「え?」


顎でしゃくる蛮に、銀次は身を乗り出すように名前の後ろにいる人物を見た。


「ああああああ、赤屍しゃん!!!」

「クス…こんにちは、銀次クン」

「ヒィッ!!」


語尾にハートを付けられ、銀次はビクッと反応して蛮の後ろに隠れてしまった。

すると、周りが少し騒がしくなってきた。


「おい、あれ…」

「関わらない方が身のためね…」


近くを通る浴衣を着た人たちがヒソヒソと話す。


「お前らもショバ代用意しとけよ〜!」

「ショバ代!?」


近くで店を出すおじさんが叫んだ言葉に、名前は吃驚して声に出す。


「なんか、ここらを取り締まっている地域のヤツに金を渡すのが伝統らしいな…」

「そ、そうなの?」

「おや、どうやらその人が来たようですよ」


赤屍の言葉に、蛮や名前は彼の目線の先を見た。





夏祭り





「5万ね」

「5万!?」


そこにいたのは、左肩に『風紀委員』と書かれた腕章を付けた中学生男子だった。

彼の言う金額に、驚いて言ったのは銀次である。


「ショバ代ってテメェら風紀委員に出す金の事かよ!!」


身を乗り出して蛮が抗議する。


「活動費だよ。聞いてなかったの? もし払えないなら、この屋台つぶすから」

「はあ? お前何言って「待ってくれ!!」


すぐ傍から聞こえた叫び声に、名前たちは向いた。


「どうやらあそこからのようですね…」


赤屍の指す先を見ると、先ほどの男と同じ制服を着た生徒たちが固まって何かをやっているようだ。


「払う! ちゃんと金払うから!!」


そこで目にした光景は、話しかけてきた男子と同じ腕章を付けた男達が数人がかりで屋台をつぶしているところだった。


「うん、たしかに貰ったから」


先ほどの男子は、受け取った金を数えながらそう答えた。


「ここの地域の中で、一番最強…じゃなかった。最凶じゃないですか? この風紀委員会…」

「興味深そうな方ですね…実に…」

「!! ダメです赤屍さん!! ここはお祭りを楽しむ場所であって、決して闘いを楽しむような場所では…」

「分かっていますよ。心配性ですね…名前は」

(全く…この人は…)


頭を撫でられ、名前は少々顔を赤くしながら下を向いた。


「そうそう! 名前ちゃんも気をつけてね! 最近、流行りのひったくり犯がウロウロしているみたいだから!」

「分かった! ありがとう銀ちゃん! お店頑張ってね!」

「うん!! またね〜〜!」


名前は、銀次たちと別れ赤屍と一緒に人ごみの中に入る。


「せっかくですし、ゆっくりと周りましょうか」

「はい!(赤屍さんとお祭りにこれて…嬉しい!)」


そしてお互い手を繋ぎ、二人は神社の祭りを満喫していくのだった…







*******







神社の祭りも終盤になっていき、もうすぐ花火が打ち上げられる時刻になってきた。


「花火は海の方から打ち上げられるのでしょうか…?」

「東京湾からだと聞きましたが…ここからでも十分に見えると思いますよ?」

「場所取りしないと! あの大きな花火を間近で見るのは初めてなんですよ!」

「おや、そうでしたか。でしたら、良い隠れスポットがありますよ。一緒にどうです?」

「本当ですか!? 嬉しいです〜!」


先ほど買ったかき氷を美味しそうに食べながら言う名前に、赤屍はこの時が一番の幸せな一時だと実感しているのだった。



「相変わらずショバ代高いね〜」

「君に言われたくないよ。それとも咬み殺されたい?」

「いえ結構、いや、ヤメテクダサイ」



聞き慣れた声に、二人は辺りを見渡した。


「おや、誰かと思えば…」


先に気付いたのは赤屍のようだ。


「あ! 赤屍さんだ〜! 仕事帰りに名前ちゃんとデートで祭りに来たのか〜、その服目立ってるね」

「管理人さんじゃないですか!」


青いTシャツに灰色の長ズボンを履いている女性に、名前は驚いて叫んだ。


「私もいますよ〜!」

「コラ化け猫! 大人しくしてなさいって」

「あい〜…」


管理人・夜桜の隣で小さくなっている浴衣を着た女性は、夜桜の親友・化け猫である。


「ね〜ね〜…せめて2万か3万にしない?」

「何で君の意見を聞かなきゃいけないんだい?」

「おい、こっちが聞いてるんだけど…最凶不良の雲雀さん」

(風紀委員なのに不良…?!)


名前が驚いている中、どうやら夜桜と化け猫は金魚すくいの屋台をだしているようで、雲雀と呼ばれた男にショバ代の件で捕まっているようだ。


「はいはい…出しますよ。これ以上雲雀さんに抵抗したら何されるか分からないからね…」

「分かってるじゃないか」

(あの管理人さんが冷や汗かいてる…赤屍さんの時以来だ…)


―ドカッ


「きゃ…ッ」


突然、名前は後ろから走ってきた男にぶつかられしりもちをつく。


「いたたた…」

「大丈夫ですか?」

「はい、なんとか……あ、あれ? 財布と封筒がない!!」


ちなみに封筒とは、先ほどの仕事の報酬である。中には計100万以上の金が入っていた。

ポケットに大事にしまったモノを探しながら、名前は先ほどの銀次の言葉を思い出した。


「さっきの人…もしかしてひったくり犯の…!」

「クス…そのようですね、行きましょうか」

「はい! 勿論です!!」


祭りで買った荷物等を、夜桜に預けた名前と赤屍はそのまま走っていった。


「意気投合だね〜! あの二人!」

「そうだね〜。はい、5万ね」

「たしかに」


金の金額を数えた雲雀は、名前たちが走って行ったほうをみつめた。


「気になるん?」

「ひったくり犯なら、尚更」


そう言うと、彼はそのまま走って行った。







*******







名前と赤屍が辿り着いた場所は、神社の裏にある小さな広場だった。


「おい、余計なモノまで連れて来やがったな…」


そこには、10人程の不良の集団が固まっていた。


「私のお金、返してください!」

「嫌だ、と言ったら?」


ヘヘヘ…と笑いながら、男達がシオンたちの周りを囲む。


「ハワワ…これじゃあ花火どころじゃなくなってしまいました…」

「クス…楽しくなってきましたね…実に」


ニッコリと笑いながら、赤屍は数本のメスを手に持つ。


「こ、殺しはダメですよ!!」

「分かってますよ。大丈夫」

「は、はあ…」

「何だコイツら…まあいい。やれ!!」


リーダー格にあたる男の言葉に、囲んでいた男達がナイフを取り出して襲い掛かってきた。


「もう、せっかくゆっくりできると思ってたのに〜〜!」


そう叫びながら、名前は愛用の拳銃を取り出して撃った。


「な、何だコイツ!! 物騒なもん持ちやがって…!」

「人の事言えないやつらが何言ってんだよコラ!!」



「これ以上群れるな。暑苦しい…」



そこへ現れたのは、先ほどの男子・雲雀だ。


「おや、先ほどの方ですね」

「追跡中だったひったくり犯の集団に出会うなんて…僕は運がいい。君達がひったくった金は全部風紀委員がいただくから」

「ちょっと待って! 私達のお金は返してよね!!」

「知らないね、そんなこと…」

「ちゃんと返してください!!」


そんなことを話しながら、名前たちはどんどん不良集団を倒していったのだった。





***





その結果、無事に名前のお金は戻ってきたのだった。


「チッ…」

(し、舌打ち!?)

「ちゃおっス」


気を失った不良集団たちの次に現れたのは、二頭身キャラの赤ん坊だった。


「赤ん坊かい。こんなところで会えるなんて…」

「俺も嬉しい限りだぞ。ヒバリ」

「あ、暴動終わってるね。ケガない?」

「管理人さん!」

「はい、荷物」

「ありがとうございます」


その次に現れた夜桜と化け猫に、荷物を受け取った名前。


「あ、聞きたいことがあるんですが…」

「何?」

「あの二人、あまり見慣れない人たちなんですが…」

「お試しって感じで登場してもらいました。ちっちゃい方は結構楽しめたようだよ」

「お試しって…」

「ジャンル増やそうと思ってるらしく、こんな形で登場させてみたんだって。ちなみにこのお話は、あっちの原作沿い。」

(あっち…?)


首をかしげて頭の上に『?』を浮かばせる名前。

夜桜と化け猫は、クスクス笑いながらこう言うのだった。


「もうそろそろ花火始まるよ〜!」

「二人で仲良くね〜〜!」

「え?」


そして、さっきまでいたあの二人の姿は無く、夜桜と化け猫も屋台の方へと戻っていったのだった。


「えっと…ゴタゴタしましたが、花火の良いスポットって何処ですか?」

「忘れる所でした…こちらです」


赤屍に手を引かれて、名前は神社を後にした。

鼻歌交じりで歩く赤屍を見て、名前は先ほどの騒動が彼にとって過程を楽しめるものだったということをこの時理解するのだった。





***





「ここですよ」

着いた場所は、崖に近い森に囲まれた場所だった。


「ここなら、花火がキレイに見れますよ」

「あ、本当だ!」


赤屍の言葉と同時に、夜空に花火が打ち上げられた。


「色々ありましたが、楽しかったですね! 赤屍さん!」

「おや? これで終わりだと思っているのですか?」

「え?」


いまいちピンときていない名前に、赤屍はクスクス笑うのだった。


「ま、時期に分かりますよ」

「??」


こうして、慌しい夏祭りは終わりを迎えるのだが…名前が無事に帰れたかどうかは定かである。




END

製作日:2007/8/26
引越日:2013/12/20
こうしてヒロインは赤屍に喰われるのだった…(マテマテ。
はい、GBと復活!の混合小説!
復活!の連載を書く前に書いたモノだったりもします…
メルマガの再録より。

 

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -