◎七夕っぽいもの<後>
あれから一ヵ月後、七夕物語『織姫と彦星』の上映が間近と迫っていた。
「おい、来ちまって本当に良いのか?」
「だってだって! 来てって行ってたじゃん! あの可愛いコ!」
「お〜い! こっちだ!」
上映される流星の学園の校門前にやってきた蛮と銀次は、手を振っているサツキの元へと向かった。
七夕っぽいもの<後>
「早くしないと、始まるわよ」
「おう、待たせて悪いな。花子」
観客席へ向かうと、そこには花子が陣取りをしていた。
「俺は見たくなかったのに……」
蛮は、ブチブチと文句を垂らす。
「そんなに文句があるなら、来なけりゃ良かったじゃないか」
ジッと睨むようにして、サツキが言う。
「す、すみません」
(何でお前が謝るんだ?)
頭を下げる銀次を見て、サツキはそう思う。
その時、ブザーが鳴って会場である体育館が暗くなった。
『大変お待たせしました、織姫と彦星の上映を始めます。』
そして、体育館は少しずつ暗くなった。
『ワンス ア ポン ア タイム。天の神様であられる天帝には、織姫という娘がおりました。』
舞台が明るくなり、そこには織姫役の流星がいた。
「名前だわ」
ビデオカメラで撮影しながら、花子が言う。
『織姫は、とても機を織るのが上手で、毎日、機を織っていました』
「織姫や、お前も良い年頃になった。良い相手が見つかると良いのだが…」
織姫の元へ、天帝がそう言いながら現れた。
「それなら……」
「ほう、誰か心当たりがあるようだな」
「えっと……」
織姫は何かを言いたげな風に下を向く。
「牛使いだった彦星のことでしょう」
二人のところへ、家来の一人がやってくる。
「家来よ、『牛使いだった』とはどういうことだ?」
「はい、彼は牛使いを血縁者に継がせ、今は医師として働いてます。巷でも良く聞く名医師ですよ」
「ほう、是非会ってみたい。医師は何処へいるのか分かるか?」
「それでしたら、近くの村へ向かうところを他の家来が目撃してました」
「そうか、今すぐ向かおうとしよう! 織姫も来るのだ!」
「あ、はい!」
『こうして、顔も分からない彦星の元へ織姫たちはむかうのでした。』
ここで場面転換された。部屋の一室から、外の小さな小屋へと背景が変わった。
「後はこの薬をぬれば、一週間で治りますよ」
「あぁ…ありがたやありがたや…」
村へやってきた天帝たちの目の前には、白衣を着た心優しい彦星がいた。
「おッ! やっぱカッコイイな。赤屍連れて来て正解だな〜」
周りからは、キャーキャーと喚声が上がる。
(クソ屍ってところがムカツク…)
ブツブツと文句を言っている様子の蛮。
『天帝は、お互いを紹介させました』
「何と美しい娘さんだ。貴方のお名前は…?」
「織姫…と申します。あなた様は?」
「私は、彦星ですよ」
『二人はたちまち互いが好きになり、結婚することになりました。二人は幸せな毎日を過ごしていきました。』
そこで舞台は暗くなり、語り手だけが舞台の上に残ることとなった。
『それから数日、奇妙な事件が多発していきました。天帝の部下が、次々と何者かに襲われていったのです』
語り手のこの言葉に、蛮と銀次は震え上がった。
「あら、どうかしたのかしら?」
ビデオカメラ片手に、花子は二人の動揺を見て問いかけた。
だが、二人は震え上がっているだけで何も答えようとはしなかった。
「それもそれで良いわよ。中々この電波の中にいるのも居心地がいいもの…」
(電波って何!!?)
驚いている銀次は、花子の顔を見る。だが、花子は顔色一つ変えずに舞台を見ていた。
『それも、襲われた人たち全員が織姫に仕えていた者達でした。心配して天帝は彦星を呼びました』
「最近、何者かが織姫に関わるものを襲っているようだ。彦星も十分用心するのだぞ。」
「大丈夫ですよ。私は…」
不適な笑みを浮かべて、赤屍は演技を続ける。
『その事件から一年、何事もなかったかのように織姫と彦星は毎日を過ごしていました。しかし、7月7日。また悲劇が起こったのです! 今度は彦星に仕えていた者達が何者かに襲われたのです!!』
暑く語り手は、物語を進行していく。
「なぁ…『織姫と彦星』の物語って、こんなんだったか?」
「あら、サヤカは知らないのね。この劇見ればわかるじゃない」
クスクス小さな笑みを浮かばせて、花子はカメラのほうへと目線をずらす。
舞台のほうを見ると、語り手は最後の締めくくりの言葉を話していた。
『こうして、7月7日は『血の日』と呼ばれえるようになり…皆が恐れるような日になったのでした。』
幕が下りられるのと同時に、周りから盛大な拍手の嵐が襲う。
「なあ、これってなんの芝居だよ…」
冷や汗をたらす蛮に、サツキと花子は交互に言う。
「だ〜か〜ら〜」
「『七夕っぽいもの』よ」
その後、織姫役の名前と彦星役の赤屍はどうなったのかは…
誰も知らない――――
END
製作日:2007/7/14
引越日:2013/12/20
先週にUPしようとして出来なかった作品でした;
皆様は七夕をどのように過ごしましたか?
私は美術の講習等でゆっくり過ごす事ができなかったな…
七夕って、なんだっけ?