七夕っぽいもの<後>

 
あれから一ヵ月後、七夕物語『織姫と彦星』の上映が間近と迫っていた。


「おい、来ちまって本当に良いのか?」

「だってだって! 来てって行ってたじゃん! あの可愛いコ!」

「お〜い! こっちだ!」


上映される流星の学園の校門前にやってきた蛮と銀次は、手を振っているサツキの元へと向かった。




七夕っぽいもの<後>




「早くしないと、始まるわよ」

「おう、待たせて悪いな。花子」


観客席へ向かうと、そこには花子が陣取りをしていた。


「俺は見たくなかったのに……」


蛮は、ブチブチと文句を垂らす。


「そんなに文句があるなら、来なけりゃ良かったじゃないか」


ジッと睨むようにして、サツキが言う。


「す、すみません」

(何でお前が謝るんだ?)


頭を下げる銀次を見て、サツキはそう思う。

その時、ブザーが鳴って会場である体育館が暗くなった。


『大変お待たせしました、織姫と彦星の上映を始めます。』


そして、体育館は少しずつ暗くなった。


『ワンス ア ポン ア タイム。天の神様であられる天帝には、織姫という娘がおりました。』


舞台が明るくなり、そこには織姫役の流星がいた。


「名前だわ」


ビデオカメラで撮影しながら、花子が言う。


『織姫は、とても機を織るのが上手で、毎日、機を織っていました』

「織姫や、お前も良い年頃になった。良い相手が見つかると良いのだが…」


織姫の元へ、天帝がそう言いながら現れた。


「それなら……」

「ほう、誰か心当たりがあるようだな」

「えっと……」


織姫は何かを言いたげな風に下を向く。


「牛使いだった彦星のことでしょう」


二人のところへ、家来の一人がやってくる。


「家来よ、『牛使いだった』とはどういうことだ?」

「はい、彼は牛使いを血縁者に継がせ、今は医師として働いてます。巷でも良く聞く名医師ですよ」

「ほう、是非会ってみたい。医師は何処へいるのか分かるか?」

「それでしたら、近くの村へ向かうところを他の家来が目撃してました」

「そうか、今すぐ向かおうとしよう! 織姫も来るのだ!」

「あ、はい!」

『こうして、顔も分からない彦星の元へ織姫たちはむかうのでした。』


ここで場面転換された。部屋の一室から、外の小さな小屋へと背景が変わった。


「後はこの薬をぬれば、一週間で治りますよ」

「あぁ…ありがたやありがたや…」


村へやってきた天帝たちの目の前には、白衣を着た心優しい彦星がいた。


「おッ! やっぱカッコイイな。赤屍連れて来て正解だな〜」


周りからは、キャーキャーと喚声が上がる。


(クソ屍ってところがムカツク…)


ブツブツと文句を言っている様子の蛮。


『天帝は、お互いを紹介させました』

「何と美しい娘さんだ。貴方のお名前は…?」

「織姫…と申します。あなた様は?」

「私は、彦星ですよ」

『二人はたちまち互いが好きになり、結婚することになりました。二人は幸せな毎日を過ごしていきました。』


そこで舞台は暗くなり、語り手だけが舞台の上に残ることとなった。


『それから数日、奇妙な事件が多発していきました。天帝の部下が、次々と何者かに襲われていったのです』


語り手のこの言葉に、蛮と銀次は震え上がった。


「あら、どうかしたのかしら?」


ビデオカメラ片手に、花子は二人の動揺を見て問いかけた。

だが、二人は震え上がっているだけで何も答えようとはしなかった。


「それもそれで良いわよ。中々この電波の中にいるのも居心地がいいもの…」

(電波って何!!?)


驚いている銀次は、花子の顔を見る。だが、花子は顔色一つ変えずに舞台を見ていた。


『それも、襲われた人たち全員が織姫に仕えていた者達でした。心配して天帝は彦星を呼びました』

「最近、何者かが織姫に関わるものを襲っているようだ。彦星も十分用心するのだぞ。」

「大丈夫ですよ。私は…」


不適な笑みを浮かべて、赤屍は演技を続ける。


『その事件から一年、何事もなかったかのように織姫と彦星は毎日を過ごしていました。しかし、7月7日。また悲劇が起こったのです! 今度は彦星に仕えていた者達が何者かに襲われたのです!!』


暑く語り手は、物語を進行していく。


「なぁ…『織姫と彦星』の物語って、こんなんだったか?」

「あら、サヤカは知らないのね。この劇見ればわかるじゃない」


クスクス小さな笑みを浮かばせて、花子はカメラのほうへと目線をずらす。
 
舞台のほうを見ると、語り手は最後の締めくくりの言葉を話していた。


『こうして、7月7日は『血の日』と呼ばれえるようになり…皆が恐れるような日になったのでした。』


幕が下りられるのと同時に、周りから盛大な拍手の嵐が襲う。


「なあ、これってなんの芝居だよ…」


冷や汗をたらす蛮に、サツキと花子は交互に言う。


「だ〜か〜ら〜」

「『七夕っぽいもの』よ」


その後、織姫役の名前と彦星役の赤屍はどうなったのかは…

誰も知らない――――



END
製作日:2007/7/14
引越日:2013/12/20
先週にUPしようとして出来なかった作品でした;
皆様は七夕をどのように過ごしましたか?
私は美術の講習等でゆっくり過ごす事ができなかったな…

七夕って、なんだっけ?

 

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -