▽ 温泉に、入りたい!
これは、ベルセリウムを入手してダリルシェイドへと向かおうとしていた矢先の物語。

もうすぐ目的地が見えてこようとした時、ヒラヒラとハルミが手を振って皆の注目を集めた。


「あの、急いでいるところ本当に申し訳ないと思ってるんですが……一つ、我儘を言っても良いですか?」

「あら、ハルミが我儘言うなんて珍しいわね。どうしたの?」


不思議そうに首を傾げるルーティの言葉に、スタンたちもまた目を丸くさせている様子。

何かと他者を優先しがちなハルミが、我儘を言うということ。それはこの場に居る誰もが衝撃を受けたといっても過言ではないからだ。それはウッドロウも同様で、彼女の元へと歩み寄りながら……視線を合わせようと膝を折った。


「ハルミ、時と場合にもよるのだが……聞かせてはくれないだろうか? 君の頼みには出来る限り応えてやりたいと思っているからね」


ふわりと微笑む彼に、少しだけ頬を赤くするハルミは……大きく深呼吸をしてから……こう言い放った。


「わ、私……お風呂に入りたいですッ!!」

「……はぁ!?」


想定外だったのか、呆れたような声を漏らしたのはリオンのようで、他の皆は目を丸くして固まってしまっていた。

こんな緊急時、どうしてこんなことを言ってくるのか……皆目見当がつかないようだ。


「だ、だって……この後ベルセリウムを届けてから、国王様に会いに行かれるのでしょ? なのに、こんなゴミ臭い格好で会うわけにはいかないじゃないですか!」

「あ、それはあるわね」


ハルミの言葉に賛同するように、ポンッと手を叩いたのはルーティだ。

つい先ほどまで、ジャンクランドでまさかのゴミ漁りをする羽目になった。だから、皆は鼻が慣れてしまったこともあり気付いていないようだが、絶対にゴミ臭いはずである。

そのことを、誰よりも一番気にしていたハルミがワナワナと震えながらも勇気を振り絞って声を上げたと……そういうわけだ。


「ならば、確かスノーフリアに大きな温泉があったはずだ。ファンダリア観光局が指定している、とても大きくて有名な場所だ。そこへ寄ってみるのはどうだろうか?」

「ウッドロウ、だが……ッ」

「結局は身なりを整える時間は取る必要がある。ならば、ここまでの旅路は思っている以上に気を張ってしまっているからね、少しだけでも羽を伸ばす時間も必要だと思うが……」


ウッドロウの意見は最もだ。確かにここまでの間、ろくに風呂などに入ってのんびりと身体を休ませるなんて言う時間を取ることはしなかった。

する必要性を感じなかった、と言ったほうが正しいのかもしれないが……なんせ今回の旅の同行者にはチェルシーやリリスといった比較的歳の若い女性が同行している。身だしなみなどを気にする年頃でもあるし、彼女たちのことを想って声を上げたのだと理解したリオンは大きなため息をつく。


「……汚れを落とすだけだぞ。分かっているのか?」

「じゃあ……!」

「スノーフリアだったか、さっさと行って汚れを落とすぞ」


リオンのその言葉に、誰もが喜びの声を上げ……一行は向かう先を、ダリルシェイドからスノーフリアへと変更させるのだった。



短編:温泉☆パニック 男性編


 


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