01
「気分が害された……外に行ってくる」
レノとルードの怪我が治ったことを確認し、サトミは立ち上がって言う。
「おいおい、どこに行く気だよ」
サトミの一言に、レノがそう聞く。
「何処行こうが私の勝手だろうが!」
そう一喝するものの、行く場所と言えば一つしかない。かつての仲間が、湖の奥底で眠っている場所……理由は分からないが、無性にあの場所へと足を運びたくなる所が一ヶ所だけ、ある。
「ま、行く場所って言っても忘らるる都ぐらいしかねーけどな」
忘らるる都……
あそこで、エアリスはセフィロスの姿をしたジェノバの一部に殺された。
そして……あそこで彼女は眠っている。彼女の墓と呼べるほどひどく澄み切っている土地でもある。
「また情報やらで連絡する。そっちも、何かあったらメールして――――」
ドアに手を掛け、そう言ったサトミの動きが止まった。
「サトミ……?」
心配になり、ルーファウスが彼女の名を呼ぶ。
名を呼ばれた本人は、小さく手を震わせながらギリッと奥歯を噛みしめていた。
「畜生……早すぎだ」
舌打ちをしたサトミは、いつも身に付けているポーチから黒く細長い布を取り出す。
そして眼鏡を取り外し、目隠しをするように布を頭に結んだ。
「おいサトミ、まさか……」
何かを察し、レノが言いかける。
まるで目元を隠すような行為を見て、彼らが思い当たる事と言えば……
「目が、見えなくなったのだな」
レノの代わりに、ルーファウスが静かにそう言った。
「そうなんですよ〜! 仕方ねぇもんな〜〜、星痕のせいだからな〜。だから、用があったら電話で宜しくな」
頭をかいてケタケタと笑うサトミ。
「目が見えなくなっては、まともに戦えなくなるな……」
「え? 大丈夫だぜ社長! 気配の読み取りは得意だし 風の力を使えば何とかなるさ」
「風の……そうか……」
何かを理解した様子のルード。レノはよく分かっていないようだ。
「私の持つこの磨道具。緑色の磨道具は、癒しの力と風の力が使えるんだ。風は私と一心同体になってくれる、目の代わりになるんだ。だから、大丈夫だ」
淡々と話したサトミは「いってきます」とだけ告げて、ヒーリンを出て愛用のバイクに跨って出発した。
FF連載 SideA
〜都での攻防戦〜
冷たい風を肌で感じながら、暗い道をバイクで走る。
青い点ランプをつけて、サトミは風を頼りに忘らるる都へと向かった。
「―――――!!」
急にバイクを止めて、周りに耳を傾けるサトミ。
吹き付けてきた風と一緒に、聞き覚えのある声と血の匂いがしたからだ。
自然に吹き付けてくる風に導かれながら、バイクから降りたサトミは森の中へと入って行った。
「助けに……来てくれますかね……」
「もうじき、だろうな」
「そればっかり言ってますよ……」
息絶え絶えの声が、風に乗ってサトミの耳に入ってくる。
「ツォンさんとイリーナ発見!」
近くの木に持たれかかっているであろう人物達に向かって、草むらからひょっこりと顔を出しながらサトミは明るく言った。
「せ……先輩……」
「サトミ……よくここが、分かったな」
聞こえてきた声で、目の前に探していた人物たちだと確認したサトミはホッとする。
「お前、もう目が……」
咳をしながら、目隠しをしているサトミを見てツォンが哀しくそう言った。
「見えませんよ。星痕のせいなんですから、どうしようもないです」
血の匂いで眉間にしわをよせると、サトミは草むらから立ち上がって手を合わせた。
すると、ツォンたちの周りを緑の淡い光が包んでいく。
「回復系の魔法です。しばらくすれば、走れると思うぜ」
「―――サトミさん! 後ろッ!!」
イリーナの叫び声と、後ろに現れた男が銃口をサトミの頭につき付けたのは同時だった。
(ヴィンセント……ではないな)
風を使って、後ろにいる男の体型を探る。
銃を使ってくるのは、彼女の周りではヴィンセントしかいない。だが、彼は独特のマントを羽織っているのにこの男はそんなマントは持っていない。
……とすると、辿り着く答えは一つしかないだろう。
「……カダージュの仲間か?」
「だとしたら……?」
否定しないところを聞き、サトミは溜め息を漏らした。
「こんなところでアジト発見、てかッ!」
振り向くのと同時に、腰につけていた刀を抜いて男に攻撃した。
少し距離を置いて、男はサトミに向かって発砲する。だが、弾はサトミのところまで飛んでいく事はなかった。
「何をやっても無駄だ! イリーナ、ツォン! 早く行け!!」
「あ、ああ!」
「どうか無事でいてください!!」
後ろでツォンとイリーナが立ち上がって逃げて行くのを確認したサトミは、フゥ…と息を吐いて言った。
「バカな……」
「そんな弾な……風で簡単に落とせるんだぜッ!」
助走をつけて、走りこもうとした時……
「帰りが遅いと思ったら……姉さんの相手をしてたんだ。ヤズー……」
首元にヒヤリと、冷たい何かが当たった。