01
「お前ってさ、ホンット馬鹿だよな! バーカ」
「バカバカ言うんじゃねーよ! 腹立つなー!」
閉めだされていたレノを室内に入れ、口論を繰り広げている二人。
その光景に、ルーファウスもルードも止める気はなさそうだ。
「へいへい、どーせ俺は馬鹿野郎な奴ですよ、と」
そう最後に言うと、レノは近くにあったソファーに座ってしまう。
溜め息を突くサトミは、窓際まで行って外を見つめる。そこは、沢山の人たちが道路を行き来していた。
職種を探す者、居場所を探す者……家へと帰る者。その中で、星痕に犯されている子供たちを遠まわしに見つめている大人たち。
星痕は、不治の病だ。治った者など誰もいない……
道路の脇で寝転がっている子供を何人か見かけるが、果たして彼らは生きているのか……死んでいるのか。
それは、サトミもレノもルードも……誰も知る由もなかった。
FF連載 sideA
〜接触〜
「後は主任とイリーナの捜索だな」
神羅カンパニーのロゴが入った額縁の下にあるソファーに寝転がるレノは言う。
「他の社員からの情報は?」
「今のところは……」
ルードはそれだけ言うと、窓へと歩み寄った。
「元社員、思ってたより集まってきてるよな。俺感動したぜ。これならやり直せるぞ、て」
起き上がり、レノは嬉しそうに声を上げる。
自分たち以外にも、この世界をどうにかしようと立ち上がる者たち……
そんな人たちを見つけることができ、安心しているのだろう。
「そうだな、集まってはくれたが……今はどうしているんだか……」
「償いは、生き残った者の使命だ」
二人が話している横で、ルードがはきりとした口調で一言言った。
その言葉に、レノも口を閉ざしてまたソファーに寝転がり天井を見た。
「……あれからもう二年、ん? まだ、二年か……ありゃ悪夢だった。世界がなくなるところだったんだ。俺ら神羅のせいでよ」
難しそうな顔をしながら話す姿を見て、レノらしくないとサトミは思った。度の高い眼鏡を上げながら、二人の話を聞いている。
そう、全ては神羅の犯した過ちが始まりだったんだ。
星の命を削るような行為・セフィロスという優秀なソルジャーの反逆・北条博士のジェノバ細胞を使った実験。
全ての経緯を見てきたわけではない、とレノは思う。それは、ルードもサトミも……ルーファウスも同様だろう。
だが、父親の背中を見て来たルーファウスは全てを知っていたのかもしれない。
この星で、過ちは一体何だったのか……その過ちを、見て見ぬふりをしていたのは自分自身だということに。
「真面目な話、どんだけ償えばいいんだろうな。やっぱり主任がいてくれないとなー」
「おい、こんなところで主任に頼るんじゃねーよ。あとイリーナを忘れるなっつーの」
「生きててくれよ……」
まるで祈りのようだと、サトミは感じる。
行方不明になった大事な上司と後輩。最悪な場合、襲いに着たあの三人に殺されてるかもしれない……
そんなこと、考えたくもない。
「大丈夫、ツォンさんも社長と同じ……一度死にかけた。悪運は強い」
一度死にかけている……それは二年前の事を指しているのだろう。
黒マテリアと呼ばれる存在に気付き、古代種の神殿へ向かった時にセフィロスと遭遇。深手を負って瀕死の状態にまで陥ったことがある。そんな彼を助けたのは、ケット・シーと呼ばれる小型の猫を操作するリーブとかつての上司と部下だった。
ジュノンで本格的な治療を受け、復帰をしてその後合流したのだ。今思えば、本当に奇跡に近い生還だったに違いない。
「だよなー! そうそう、サトミは最近仕事入ってきてないな」
ルードの言葉に元気づけられ、ソファーから飛び起きながらレノは声を上げた。
そして何かを思い出したのようなレノの言葉に、はっと我に返ったサトミは振り返る。
「んー、そうだな〜。まっ こんな世の中だからな、依頼する人なんて少ないと思うぜ」
ニカッと笑うサトミ。
彼女は、約一年前に始めた新しい仕事があった。奪還屋と運び屋である。
タークス時代に、立ち寄った場所を巡っては二つの職業を交互に行って生活費を稼いでいるのだ。それに平行するように、クラウドも同じように運び屋を開始した。
『ストライフ・デリバリー・サービス』と名付けられている運び屋は、電話接待をティファとマリンがやっていると聞く。
不器用な奴でも、ちゃんと現実を見て生きているんだなと、サトミは思いながら懐から本を取り出す。
昔から持ち歩いている大事な本だ。中には唯一顔が分かる父と母が映っている写真が挟まっている。過去の事をそれぞれが物思いにふけっていると、誰かが部屋に入ってきた。
「!!」
最初の異変に気付いたのはルードだった。急に警戒している表情になってドアを見つめる。
それに続くように、レノとサトミも感じたことのない気配を察して同じようにドアを見た。
なんの変哲もないドア……だが、きゅうに黒い靄のような何かが溢れるように出て来た。
そして、ゆっくりと扉が開かれる。
「見つけた……」
現れたのは、銀髪短髪の少年だった。長い前髪が彼の片方の目を覆い隠している。
「お前、誰だ?」
レノはロッドを構え、ルードはグローブを身につける。完全な戦闘態勢に入っているようだった。サトミはというと、あまり関わらないようにゆっくりと部屋の隅へと移動する。そして、本へと顔を向けたのだった。
面倒事に巻き込まれたくない、と身体で表現しているものだと、すぐ横で見ているルーファウスは思う。
「僕は君たちに用はないよ。そこにいる社長に用があって来たんだ」
そう話す少年の手には、刃が二つ平行に付けられている独特の剣が握られていた。
「社長に? お前に何かを話す筋合いはないんだぞ、と」
だが、これ以上会話が聞こえてくることはなかった。これには流石のサトミも不信に思う。
「…………?」
本に集中していたせいか、時の流れる感覚が鈍ってきているとサトミは思う。