お試し

 

いつもと変わらない、平穏とは言い難い戦ばかりの日々を送ってきた将たち。

明日も普段と変わらず、敵対している勢力を相手にどんな戦展開を見せようかと策を練っている時……突然、世界が一転した。魔王と名乗る遠呂智という存在が原因で、三國と戦国の世が融合したセカイへと落とされた数多くの猛者たち。

そんな中、覇道を貫く父と覇道を継ぐ弟を持つ女性は出逢う。まるで風のように、誰かに囚われることなく渡り歩く一人の忍者と――




00.プロローグ




「まったく、あの二人は仲が良いんだか悪いんだか……」


セカイを混沌の渦に沈めたといってもおかしくない存在・遠呂智の配下になった我が弟と、そんな彼と息が合う戦国の英雄を遠巻きに見ながら彼女はそう言葉を漏らす。

彼女・凪もまた、弟である曹丕と共に遠呂智の配下に入り右腕である妲己の指示の元、討伐軍や敵対勢力を相手に剣を振るっていた。

ここ最近の弟は、君主であり父でもある曹操を探しながら、自分を中心とした新たな曹魏を設立しようと目論んでいるようだ。その思惑は、気の合う友と呼べる存在・石田三成の協力もあって着々と基盤を作り上げようとしている。

いずれ反旗を翻し、オロチ相手に全面的な戦いをおっぱじめる気満々なのは誰が見ても明らか。だが、あの二人は顔に出さないように隠すのが得意だ。彼らの思惑に気付いているものなど、極僅かしかいないだろう。


「凪殿、如何なさいましたか?」

「あ、甄姫さん。いいえ、なんでもないですよ」


不思議そうに声をかけてきた女性・甄姫は、先日曹丕の軍と合流して仲間として迎えた将であり、曹丕の妻だ。

誰が見ても絶賛するほどの美貌を持つ彼女は、義理の姉である凪の様子が変だと感じて声をかけてきた様子。


「ただ、あの二人は仲が良いのかなって思って……」

「殿方の友情は、女性の友情とはまた違うもののようですし。私たちでは理解し得ないかもしれませんわ」


男同士の友情と、女同士の友情。似ているようで実は違うのかもしれない。親しいのかすら怪しい二人を見ていると、ふと三成が視線を凪たちへと向けてきた。


「凪殿、どうされましたか?」

「ん? なんでもないですよ、ね、甄姫さん」

「ええ、私たちの秘密、ですわ」


クスクスと綺麗に笑う二人に、曹丕も三成も不思議そうに首をかしげた。

そんな四人を、優しく包み込むように吹く風があった。寒さを感じない、穏やかで心地の良い風……風のせいで靡く髪を押さえながら外へと視線を向けると……


「……?」


凪は目をパチクリと動かしながら、再度窓の外を見つめる。何処にもである木々のシルエット。だが、そこに見えた微かな人影と僅かな気配を彼女は感じているのだ。


「夕食はまだ、だったよね。子桓」

「ああ、だがもうじき呼ばれるだろう」

「そっか、少し散歩してこようかな。すぐ戻ってくるからさ」

「……気をつけて、姉上」


フッと笑みを向ける曹丕に、手をヒラヒラと動かしながら外へと足を向けて進んでいく凪。

未だに感じる気配を頼りにしながら、薄暗い森の中へと足を踏み入れていった。




***




サワサワと聞こえてくる木々たちのざわめきを耳に入れながら、凪は瞳を閉ざす。

聞こえてくる木々たちの音とは別な、不規則に聞こえてくる音……まるで飛び移っているかのようにも聞こえる音は凪のすぐ近くまで迫っていた。


「そろそろ隠れてないで出てきてくれませんか?」

「クク……我を誘うか」


何処の誰かも分からない中、暗闇から浮かび上がるように現れた男は喉の奥底から笑いながら、まるで囁くように凪の背後に立った。

突然現れた気配に驚きながらも、目をパチクリと動かして凪は顔を動かす。見上げるほどの大きな身長、まるで炎のように紅い髪、そして色白の肌を持ち顔にラインが刻まれている。

孤独の中を生きてきたかのような、寂しい蒼い瞳に目を奪われながら、凪は小さく笑みを浮かべた。


「やっと顔を出してくれた。随分前から、私を見ていたでしょ?」

「ほう? 初対面の相手に自惚れるような事を、うぬは言うか」

「自惚れてなんかないよ! ただ、ずっと貴方の視線を感じていただけ……」


いつからか、曹丕と共に戦場を走っている時に感じていた視線が私生活でも感じるようになったのだ。辺りを見渡しても誰も居ない、ならばこの視線を送る人物は一体誰なのか……それが凪にとって不思議で仕方がなかった。

その視線の持ち主と、こうして会えたのだ。ずっと聞きたかったことを聞いただけだと言うのに、この男はからかいながら凪の頭を撫でるだけで核心的なことを言ってはくれない。


「まるで飼い主と再会できた子犬のようだ」

「子犬って……その例えはおかしいんじゃない?」

「クク……お前のようなじゃじゃ馬娘が近くに居るからな、あやつと同じよ」

「じゃじゃ馬娘!?」


まさかそう言われるなんて想定外すぎて、目を見開いて驚いていると彼はクツクツ笑いながらも顔を近づけてくる。


「我はうぬが気に入った。戦場で咲く一輪の氷華……この手でへし折りたいと思う」

「へぇ? 物好きな人だね、折れるものなら折ってみたらどう? 私は逃げも隠れもしないよ」


ただし、気配を感じたら追いかけるかもね。そう話す凪は、とても楽しそうな笑みを浮かべていた。今まで会った女の中で、相当変わった奴だ。と感じる彼もまた、笑みを浮かべる。


「あ、良ければ名前教えてよ。私は――」

「凪、だろう? うぬの傍に居る奴らがそう呼んでいたからな」

「じゃあ名乗る必要ないか。そういう貴方は?」


好奇心に満ちた眼差しを向けてくる凪に、彼は黒い笑みを浮かべる。この純粋で無垢な表情(カオ)を歪ませてみたい。そんな欲望が生まれてきたのだ。


「我は混沌を好む北条の忍・風魔小太郎だ。我に狙われたこと、後悔することだな」

「風魔さんか、ウン、憶えたよ。後悔はしない、こうして出逢えたことに感謝するくらいだ」


―これが、混沌を好む風と仲間と共に歩んできた氷の華の出逢い―


 


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