*Side サクラ*

自室で身支度を済ませ、鏡の前で何度もヘアースタイルをチェックする。癖っ毛な私は何度も念入りに鏡を見つめ、満足すると朝食が待っているリビングへと向かった。


「おはよー」

「おはよう、サクラは相変わらずだねー」


リビングには、見慣れた姉の姿があった。癖っけな私と比べ、いつもストレートに決まる我が姉の髪が時々羨ましく思う。


「それどういう意味? お姉ちゃん」

「ん? そのままの意味」


ムスッとしながら椅子に座り、用意されたパンとジャムへと手を伸ばした。

あ、名乗るのが遅れました。私は坂内サクラ。氷帝学園に通う中学二年です。目の前で呆れながら私と一緒に朝食を取っているのは、姉のユズ。ここから少し離れたはばたき学園に通う高校二年生。

朝早い時間帯だけど、この時間帯は両親はいない。二人とも仕事だから仕方がないけどね……両親は朝が早く夜が遅いことが多く、いつもこの広いリビングは二人しかいないことが多いんだ。

まあ、休日や祝日は両親も揃って家族四人で和気藹々としているのだが……平日は仕方がない、よね。


「ホラ、早く食べないと学校に遅れるよ?」

「んぐっ! そういうお姉ちゃんこそ……」

「ざーんねん、私は午後から授業なんだよねー」

「なにそれ、羨ましい……」


ニッと笑う姉に腹を立てながらも、「はい、忘れないでね」と心配そうに声をかけながら弁当箱を差し出してくれる。

私って、なんだかんだ言いながら姉が好きなんだよねー。優しいし、ふと気付けば手助けしてくれるからさ!


「早く学校に行かないと、彼に会えなくなるんじゃない?」

「ッ!!」


ニヤ〜と嫌らしい笑みを浮かべられた。私はギクッと反応をするが、いつもと変わらずにテキパキと玄関へと向かう。


「そういうお姉ちゃんこそ! 人のこと言えないんじゃないの〜?」

「あ、言ったな〜」


ベッと舌を出して、家を飛び出す。お互いそう言いあっているのには理由がある。

それは、お姉ちゃんも私も一つ学年が上の先輩に恋をしているということだ。それも……それぞれの学校に入学した頃から。

お互い思っていることとか考えていることが分かってしまうせいか、顔を合わせて言いあったのも丁度去年の夏の事。一体どういう人で、どういう性格の人で、どういう所に惹かれたのか……話題は他にもあったけれど忘れちゃった。

とにかく、私はそんなことを考える前に学校へ遅刻しないように走らないといけないわけで。


「ち、遅刻〜〜〜〜!!」


いつもの朝、いつもの道路で、私は鞄を片手に叫びながら走って行った。





***





私の通っている氷帝学園は、とっても広い学校だ。

幼稚舎から大学部まであるマンモス校で、なによりお金持ちが多く通っている。私のように中等部から通ってる人は少ない。まあ、入学した当初は質問攻めとか殺到して大変だったけれど。


「来た、きゃああああ!!」

「跡部様ーーーー!!」


下駄箱で靴を履き替えていると、離れた場所から女子たちの黄色い声が響き渡ってきた。

群がるように走っていく女子たちに囲まれているのは、私が去年から恋焦がれている人物……


(今日もうっとうしそうな顔してるな〜、跡部先輩)


小さく笑いながら、金色に輝く髪を揺らしている彼の顔を遠くから見つめる。

中学校に進学する際、家から近いということで氷帝学園へと入学した去年のことを思い出す。あの時も、めんどくさそうに……女子に囲まれながら我が物顔で歩く男子がいた。その人物こそ、ここから遠く離れた場所にいる人物・跡部その人だ。

彼は私の一つ上の先輩で、生徒会長をしてたり、テニス部の部長をしていたりとかなり忙しい日々を過ごしている。それだけじゃない。彼は跡部財閥の御曹司。お金持ちおぼっちゃま、と言えば誰もが理解できるだろう。

容姿端麗の成績優秀の、とにかく難しそうな四文字熟語がいくつ並んでいても似合ってしまいそうな彼。そんな彼に、私は小さな恋心を抱いてしまった。ただ眺めていただけだって言うのに……彼の事、何も知らないのに。

好きに、なってしまった。


「って、そんなこと想っている場合じゃない!」


ハッと我に返った私は、顔を左右に振ってから靴を履き替える。今日は私の所属している吹奏楽部の練習がお昼からある。いつもある朝練が今日なかったのも、部長の笹塚さんがあまり体調が良くないから。

最近病院通いしているから、朝の部活練習に間に合わないんだそうだ。いつも持ち歩いている楽器のケースに手を添えて、私は早歩きをする。前に、廊下を走ったら先生に怒られたからね。


(いつか、会話ができるといいな……ファンクラブから睨まれそうだけど……)


そう、心の中で思いながら……私は教室へと向かった。



 



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