*Side 跡部*


リズムの良い音が耳に入ってきた。ゆっくりと目を覚まして、ベッドから起き上がる。時計を見ると六時だった。いつもよりも少しだけ遅い時間だ……


「俺らしくないな……」


少しだけ気が緩んでいる気がする……どうして?

どう考えても理由は一つしか思い浮かばないな。


―コンコンッ


「跡部先輩」


聞こえてきた声に、俺はドクンッと心臓を大きく跳ね上げた。


「ああ、なんだ?」

「おはようございます! えっと……」


リズムの良い音が消えてからしばらくして、ノックをして入ってきたのはサクラだった。まあ、この別荘には俺とサクラ以外誰もいないのだが……


「朝ごはん、用意できました」

「そうか……ありがとうな」

「ちょっと早いかな、と思ったんですけど……なんだか早く目が覚めてしまって」


少し照れたように話す彼女が、本当に可愛くて……愛おしい。ベッドから降りて、彼女の頭を撫でた。


「着替えてから行く。少しだけ待っててくれ」

「はい!」


昨日着ていた制服を身につけている事に気付き、俺はサクラを呼び止めた。


「おい、坂内」

「は、はい! なんでしょう」

「お前の部屋にあるタンスの中に、いくつか服が入ってるだろ? 今日はその中から気に入った服を着てこい」

「……へ?」


目を点にして固まっている。コイツ、言葉の意味ちゃんと理解してるよな?


「流石に氷帝の制服を着ているわけにはいかねーだろう?」


そう、彼女の着ている服は昨日も身に付けていた氷帝の制服だった。


「で、ですが……ちょっと……」

「なんだよ、気に入らねーってのか?」


俺の問いに、ブンブンと勢いよく頭を振って「滅相もないです!」と答えてくる。何を緊張していやがる……普通に話してくれればいいのに、と俺は思う。


「で、では……お言葉に甘えて、着替えてきます!」


何故かグッと握り拳を作って、タカタカと俺が案内した部屋へと入って行った。その後姿を見送ってから、着替えてリビングへと向かうと……


「こりゃ、スゲェ……」


食パンにバター、ジャムやサラダが置かれていた。今日は洋食の気分だったのだろうか。それとも、俺のことを気にかけて……?


「まさかな……」


イスに座り、二階へと続いている階段を見上げる。

早く下りてこないだろうか。そう思いながら……


 



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