*Side サクラ*

『サクラ……サクラ……』

「大丈夫だよ、今から行くから……だから待ってるんだよ」

『うん……分か、た……』


電話口から聞こえる友達の声は、今消えてしまいそうなほど小さく頼りない。

現在、私は跡部先輩の力を借りてジェット機の中にいます。目指す場所は沖縄。そこには、去年の吹奏楽部全国大会で仲良くなった友達が住んでいる。

普通の友達の助けなら、跡部先輩を巻き込んでこんな大事にしない。きっかけは、今から数時間前に遡る……



***



『サクラ! 今日は肉が食べたいぞ〜!』


部活も終わった放課後、携帯に珍しく姉からのメールが届いていた。文章は一行、とてもシンプルに用件が書かれている。なんとも姉らしい文章だと思い、小さく微笑む。


『ハイハイ……』


呆れたような顔文字も一緒に付けて送信ボタンを押し、鞄の中に入れてある財布を広げた。

所持金は、三千円。安いお肉を少し多めに買えるなーとか、味付けをどうしようかとか、色々考えながら校門へと向かう。


「あ、サクラちゃん発見」


校門前には、金髪の優しい笑顔を向けるお兄さんがバイクにまたがっていた。


「こんにちは琉夏先輩! 今日、バイトのはずでは……」

「うん、でもさっき終わったから。気分で遠回りして帰ろうとしたら、サクラちゃん見つけちゃったワケ」


優しく笑う琉夏先輩。彼は私がお世話になってるバイト先の先輩で、お姉ちゃんの友達。

こんな人が、はばたき学園内の問題児とは到底思えない。あ、問題児っていう話はお姉ちゃんから聞いたんだ。どう問題児なのかまでは教えてくれなかったけどね。


「今日もSR-400は輝いてますね!」


私は琉夏先輩が愛用しているバイクを見て言う。


「まあね、いつもコウが手入れしてるし。時々俺もするけど、いつもコウに怒られる」

「そうなんですか?」

「『オメェは手入れが甘いんだ』とか言われちゃったんだよね、この前」


琥一先輩とは、琉夏先輩のお兄さん。お姉ちゃんと同じはばたき学園に通ってる、一見不良に見えてしまうお兄さんだ。あの琥一先輩の注意する姿が、簡単に想像できてしまうのが怖い……


「で、今日はこのまま帰るの?」

「いいえ、スーパーで買い物を。夕飯作らないといけないので」

「そっかそっか、せっかくだから荷物持ちしてやろうか?」

「ええ!? そんな、疲れてる先輩をこき使うなんてことは……!!」

「平気、知ってるでしょ? 俺、不死身のヒーローだって」


ニコッと笑いながら、先輩は言う。ヒーローなんて、知らない人が聞いたら笑ってしまうような単語。しかも、高校生が言っているのだ。

でも、先輩は本当に昔から戦隊モノのヒーローに憧れているから。だから、私は笑わない。先輩にとても似合う単語だから。


「ヒーローは、困っている人を助けるのが仕事なんだ。だから気にしなくていいよ」

「そう、ですよね。じゃ、お言葉に甘えて……」

「ついでに、後ろの彼もご一緒させてみようか」

「へ?」


急にニヤニヤさせながら私の後ろへと、言葉を投げる琉夏先輩。後ろの彼って、一体……


「何で俺様を見ながら言うんだ? アーン?」

「だって、さっきから俺のこと睨みつけてたし。あとサクラちゃん気にしてたみたいだし、ねー?」


声を聞いて誰か分かってしまい、私はガチッと固まる。この声……跡部先輩だ!!

先輩、「ねー?」と言いながら満面の笑みを浮かべないでください!!


「よう跡部〜、あれ? 先客?」


ワナワナと震えていると、跡部先輩を呼びながら数人の男子がやってきた。この人たち、テニス部のレギュラー陣だ……!


「あれれ? 見覚えのある人発見」

「ど、ども……」


ジッと一点を見つめて話す琉夏先輩の声に反応したのは、同じクラスの日吉君だ。そうか、彼もテニス部の人だもんね。確かハードルの高いレギュラーになれた、って教えてくれたっけ。


「なんだよ日吉、お前の知り合いか?」

「まあ、よく行く花屋でバイトしている人ですから……」

「今後も、花屋アンネリーを宜しくね」


手をひらひらさせていつものように話す琉夏先輩。


「じゃ、ここで立ち話もアレだから……そろそろ行く?」

「あ、はい!」

「えーと、跡部君……だっけ? 置いてくよー」

「あ、ああ……」


バイクを押しながら声をかけてくる琉夏先輩の後を追うように走る私と跡部先輩。こんな光景は、珍しいよね。私が言うのもなんだけど……


 



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