*Side ユズ*

昼下がりのはばたき学園。屋上で、私はカレンとみよの三人でお弁当を広げていた。


「やっぱりさー、みよのお母さんって凝ってるよね〜」

「これ、この前のアニメに出てたキャラクターだし……」


ハァ、と溜め息をつくみよ。お弁当の中身は、今朝のアニメに出てきたキャラクターがデザインのモチーフになっている。

お弁当は美味しくて文句はないのだが、凝った作りをしてくるものだから……とみよは頭を悩ませているみたい。


「妹さんの出し巻き卵、貰っていい?」

「私がダメって言っても取るくせに」


「分かってるじゃん」とニッコリ笑いながら、弁当箱から出し巻き卵を取っていく。そよそよと吹く秋風に、小さく身震いしながらも過ごしやすい気候だなって思う私。

ご飯も食べ終えて、ワイワイとカレンとみよがお弁当の話が盛り上がっている横で、屋上の端に見覚えのある人影が見えた。


(あれ? あそこにいるのって……)


まだ会話を続けている二人を邪魔しないように、気になる人影へと歩み寄る。


「……なんだ、坂内か」

「あ、坂内さん」

「こんにちは、何やってるんですか?」


人影の正体は設楽先輩と紺野先輩だった。二人の足元には、チョークで書かれた何かの文字がギッシリと書き記されている。設楽先輩がチョークを持っているところを見ると、書いたのは彼みたい。


「ど、どうしたんですか? これ……」

「紺野がチェスのルールを知りたいって言うから」

「夢中になってたら、いつの間にかこんなことに……」

「チェス?」


な、なるほど。

たくさんの落書きの正体は、チェスのルールの一覧だったみたい。だけど、言われてみればなんとなく書いてあることが分かるような気がする。昔、少しだけ親と一緒にやったことがあるから。


「この前見た映画でチェスを打つシーンがあって、興味を持ってさ。前に設楽のうちでチェス盤を見かけたから、聞いてみたら……」


なるほど、今に至るらしい。ハハハ、と笑いながら紺野先輩は設楽先輩を見た。

チェス打つシーンって……私の場合ハ○ーポッ○ーしか出てこないんだけど、気のせい?

ま、まあ。あまり気にしないようにして設楽先輩に話をかけてみよう。


「へえ、設楽先輩、チェスやるんですね」

「子供の頃に誰でもやるだろう。親戚が集まった時とか……」

「……うちはトランプで遊んだ思い出しかないよ」


確かに。私も昔は、サクラと一緒にトランプをやったことぐらいしか記憶にない。そんな中、設楽先輩は「こいつ、覚えは早いけどセンスはなさそうだ」と酷い事をボソボソと呟いていた。「やってみなくちゃ分からないだろ?」と、少しムッとした紺野先輩が反論する。


「でもこれ、先生に怒られるんじゃ……」

「そのうち雨が消すだろう。おまえはやらないのか?」

「チェスを、ですか? うーん……」


少しだけなら、と言おうとしてやめた。話に輪がかかって、相手をしろって言いそうな雰囲気があったから。

あ、設楽先輩と一緒にいる口実ができるのは嬉しいけど……チェス、本当に少ししかやったことないし……


「なんだ、お前もルール知らないのか。じゃあ今覚えろ、教えてやる」


その時、微笑んだ設楽先輩の顔を見て、私は小さく鼓動が跳ね上がった。だって、今まで見た事のない綺麗な笑顔を向けてきたから……


「…………ふ〜ん」


そんな私たちを交互に見ていた紺野先輩は、何か言いたそうな顔つきをしながらその場から立ち上がる。


「……なんだよ」

「さっき僕が頼んだ時は、ものすごーく渋々だった気がしたけど」

「へ? そうなんですか?」


目を丸くさせて設楽先輩を見る。てっきり、二人は仲が良いから「別にいいだろう」とか言ってやってたものだと思ったから。


「……1人も2人も同じだからな」


設楽先輩も、手をはたきながら立ち上がった。


「ふーん」

「なんだ、言いたいことがあるならハッキリ言え」

「別に?」


ニヤニヤと笑いだす紺野先輩。もう、先輩は時々意地悪だな〜って思う。一応、私の恋の相談相手にもなってくれてる紺野先輩。だからなのかな、とても面白がってるように見えるんだよね。特に私を見ながら……


「ユズー! そろそろチャイム鳴っちゃうよ〜!」

「あ、分かったー! それでは、失礼します」


ペコリを頭を下げて、手を振って待ってくれているカレンとみよの元へと走って行った。


「設楽〜」

「な、なんだよ。さっきから気持ち悪いぞ」

「そろそろ、気持ちの整理でも付いたんじゃないのかなって思ってさ」

「ッ……」


そんな会話を私がいないところで二人がしていることに、気がつかずに……


 



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