*Side 跡部* 突然の訪問で驚いたことしか覚えていない。いつもいない人物がいたから、テニスラケットを握る手を緩めたんだ。 『サクラちゃんを狙う野獣』 彼女たちの方へと歩み寄る時、何故かその言葉だけが、俺の耳に届いた。 そもそもサクラって誰だよ。それが俺の一番大きな疑問。一度、聞いたことのある名前だったが……予想はそう簡単に当たるわけがない。 そう思ってたが、その疑問も含めすぐに解消された。俺が密かに想いを寄せていた女…… 彼女の名前が、サクラだったから―――― 『おい、携帯持ってるか?』 『あ、はい!』 『ここで逢ったのも何かの縁だ。今すぐ電話番号とアドレス教えろ』 『も、勿論デス!!』 彼女が帰る最中、俺は呼び止めて強引に坂内サクラの連絡先を手に入れた。勿論、相手にも俺の連絡先を教えることを忘れずに…… 「念願の会話があれかいな……」 「なんだよ、別にいいじゃねーか」 ハァ、とため息をつきながらも小さく笑って話す忍足に俺は言う。もっと別の場所で、別の話で、お互いのことを知り合いたかったのが本音。 だが、そう俺の思い通りにいかないから……楽しくもあり、ハラハラしているところでもある。 次は何が起きるだろう? 次はどこで会える? そんなことを考えるのも、まあ、いいじゃねーか。 「おい! 練習の続きするぞ!! 一年は玉拾い、二年と三年は玉打ちだ!!」 俺の声と同時に、周りでざわつかせていた奴らが口を閉ざし、しばらくしていつもの声が聞こえてきた。 いつもの黄色い声が…… |