First Love 夕方の新宿。 駅に近い和菓子専門学校から、数人の生徒がでてきた。 下校時間のようだ。 「じゃあね!名前」 「うん。また明日」 友達に手を振っている彼女は名前という。 顔見知りしやすい彼女は、専門学校生の中で優秀と言われていた。 「帰ったら‥まずは夕食作りからだな…」 現在一人暮らしをしている名前は、今晩の献立を考えて歩く。 その時、目の前に血だらけの男が倒れた。 First Love 突然のことに、名前は目を丸くして固まった。 「おや、人がいましたか…」 声が聞こえてきたほうを向いてみると、そこには血で服が染まっている男が現れた。 黒ずくめの男は、近くに落ちている帽子のほこりをはたいて被る。 「さて、どうしましょうか…」 少し黒く笑う男に、名前はガシッと思わず手を握ってしまう。 「こんなに血だらけになって…怪我してるかもしれません!!家が近くにありますので、早く手当てを…」 「いや、これは返り血ですよ…」 だが、名前は男の話を聞かずに自分の住むマンションへ向かった。 ******* 半強制的に風呂に男を入れてから、名前は後悔の渦を巻く。 「どうしよう……何で見ず知らずの人になにしてるんだろう……」 今更後に引けない状況になり、名前は顔を真っ青にさせる。 だが、今の現状を受け入れて夕食の支度を始めた。 「着替えの服から洗濯まで…わざわざすいません。」 暫くすると、風呂から上がった男が髪を拭きながら名前に声をかけた。 「いえ、つい私がやったことですから…もし良ければ夕食も如何ですか?」 「………服が乾くまで時間がありますし‥ご馳走になりますね。」 ニッコリと微笑む男に、名前は顔を赤くしながらニッコリと笑った。 「わ、私の名前は名前と言います。宜しくお願いしますね。」 自己紹介をしていないことに気付いた名前は、ペコッと頭を下げて男に言う。 「変わった方ですね…私は赤屍蔵人と言います。」 興味深そうに見つめる男・赤屍は、タオルで濡れた髪を拭きながら話す。 それから数分後、赤屍の髪も乾き夕食の支度も終わっていた。 「どうぞ召し上がってください。」 「それでは、いただきます。」 お互い手を合わせてご飯を口に運ぶと、赤屍は少し表情が明るくなった。 「とても美味しいですよ。」 「本当ですか?すごく嬉しいです!」 名前は微笑みながらご飯を更に口に運んだ。 その時の笑顔は、赤屍が見とれてしまうほど綺麗な顔だったようだ。 ******* 夕食も終わり、後片付けをしている名前に赤屍は声をかけた。 「名前さん、突然で申し訳ありませんが……今日は泊まって宜しいですか?」 赤屍の爆弾発言に近い言葉に、名前は固まって手に持っていた皿を落としてしまう。 案の定、皿は未来の足元で割れた。 「あ、あ、あ、あの………!」 「明日にならないと乾かないようですから…服」 「そ、そうですね……」 まるでリンゴのように頬を赤くする名前は、落ちた皿の破片を集めた。 「大丈夫ですか?」 「だ…大丈夫ですよ!痛ッ…」 少しテンパって言う名前だったが、破片が指を掠めてしまう。 掠めてしまった場所からは、赤い液体が少し流れる。 「ああ、切ってしまいましたか…」 赤屍は名前の指を手に取り、傷口を見る。 「このくらいなら、舐めればなんとかなりますよ!」 「それもそうですね。」 そう言うや否や、赤屍は名前の指をそっと舐めた。 「あ‥赤屍さん…!!」 「どうかしましたか?この方が治りは早いですよ。」 赤屍が顔を上げると、名前は顔を真っ赤にして少し震えていた。 「クス…やはり、ちゃんと治療したほうが宜しいですね。」 割れた皿の後片付けを終わらせ、赤屍は名前の指に絆創膏を貼った。 「ありがとう、ございます。」 まだ熱を帯びている指を、怪我していない手で包みながら名前は礼を言う。 「いえ、夕食までご馳走になりましたから‥」 優しく笑みを浮かべる赤屍に、名前は更に真っ赤になって下を向く。 「(何で…赤屍さんといるだけで、触れているだけで…こんなにドキドキするんだろう‥)」 名前は、経験したことのない感情に動揺しているようだ。 夜はと言うと、口論の結果‥二人仲良く一つのベットの上で寝ることとなった。 名前がぐっすりと眠りについた頃、赤屍はゆっくりと起き上がって彼女の髪を撫でた。 「初めて出会った女性に、こんなに惹かれるなんて……私もどうかしてますね。 だんだん手放せなくなってきました……さて、困りましたね。」 赤屍も名前同様に、今まで感じたことのない感情に少し動揺しているようだった。 ******* 翌日の朝、赤屍の服は無事に完全に乾いた。 「昨日はお世話になりました。」 「いえいえ。」 仕事の関係で、赤屍はすぐに名前の家をでなければならなくなった。 少し哀しい表情になる赤屍に、名前は昨日と変わらない笑顔を向けた。 「また、会えますよね?」 「! 勿論ですよ。私も、また貴女に会いたい」 真っ直ぐな赤屍のまなざしに、名前は顔をまた赤くしている。 「いつでも遊びに着てくださいね。歓迎します」 「はい。それでは、また……」 軽く一礼し、赤屍はマンションを出た。 「よし!早く学校に行かなきゃ…」 軽く拳を握り締めると、荷物を取りに自分の部屋へ向かう。 「さーてと……あれ?」 荷物を持ち上げると、一枚の見知らぬ紙が落ちてきた。 拾いあげてみると、紙には赤屍の名前と携帯の番号が書かれている。 「あ、私も教えておけばよかった……!でも、今電話してもなぁ‥」 迷いながら時計を見た名前は、遅刻ギリギリの時間を指しているのに驚いて慌ててマンションを出た。 赤屍が書いてくれた紙を持って…… ******* 今日の授業は調理実習。 少し早いバレンタインのチョコを作っているようだ。 「ね、名前は誰にあげるの?」 「皆にあげるよ。」 「違う違う!本命だって」 「さあ…今年はどうだろう。」 名前の脳裏には、黒い服を着た赤屍が現れる。 だが、昨日のことを思い出して顔を真っ赤にしてしまった。 「あ!珍しく名前の顔真っ赤!」 「ウソ!?まさか気になる人でもいるの?」 「う、うん。まあね……」 はぐらかすように友人たちと話す名前を、少し離れた物陰から様子を見守る男がいた。 「それでは、皆さんチョコは出来上がりましたね?」 ザーマス眼鏡と呼ばれる変わった眼鏡を掛けた先生は、キラリと目を光らせて生徒に話す。 「それでは、出来上がったチョコに渡す相手の名前を書いてください。友人‥家族‥恋人…誰でも結構です。 名前を書くデコレーションも、評価対象になってますので…綺麗にキッチリと書いてくださいね。」 先生の発言に、生徒の大半は驚きの声が上がる。 「流石先生!恋する乙女の気持ち分かってる〜♪」 「か、書かないといけないのか…」 「さあ名前!堂々と書くがいいさ!!」 「って、かなり期待しているようにも見えるんだけど;;」 「気にするな!」 キラキラ輝く友人たちのまなざしに、名前は冷や汗をかきながら名前を書いていく。 ホワイトチョコで彼の名前を書くと、チョコのまわりに小さなコンペイトウをまぶして仕上げた。 「変わった名前の人なんだ〜。」 「まあね……」 赤い屍と書く苗字を持つ人は、何処を探しても彼しかいないと名前は思った。 「んで、いつ渡すの?」 「え?あ、そうだな……明日、かな。」 「ヒュー♪名前って積極的だね☆」 「そうでもないって…」 丁度良いタイミングでチャイムが鳴り、皆それぞれ片付けに入った。 「今思えば、今日の授業ってこれで終わり?」 「一日が過ぎるのって、早いね〜。」 エプロンを片付けて、作ったチョコを片手に友人たちはゾロゾロと帰っていった。 きっと、作ったチョコを渡しに行ったのだろう…… 名前も片づけが終わり、思い出したかのようにポケットの中から紙を取り出す。 家から出る前に見つけた、赤屍の携帯番号が書かれた紙だ。 「でる、かな…?」 帰りの支度をしながら、名前は携帯で赤屍に連絡を入れる。 その時、調理室に一人の男が入ってきた。入ってきた人物の顔を見て、名前は嫌な表情を浮かべた。 「あの…何か用ですか?」 「ああ、君にな…」 入ってきたのは、未来が通う専門学校の中で一番の成績を誇るメガネをかけた男子・金堂だ。 彼は、随分前から名前に猛烈アタックをしている人物でもあった。 しかし、気が無い名前にとって…彼はとても苦手な人物であるようだ。 「私からは何も用がないので、この辺で…」 作ったチョコを大事に抱えて、名前は調理室を出ようとするが…… 「待ってくれ。そろそろ返事が聞きたいと思ってきたんだ。」 目の前に金堂が立ちはだかり、調理室から出られなくなってしまい…名前は溜め息をついた。 「返事は変わりません。お断りします」 『もしもし?』 電話口から聞こえてきた声に、名前は顔を少し赤くした。 その様子を、金堂は見逃さなかった。 「もしもし、今お仕事中でしたか?」 『いえ、丁度終わったところです。どうかしましたか?』 「これから、会えないかな…と思いまして…」 『クス…良いですよ。私も、名前さんに会いたいと思ってたところですから…』 「そ、そうだったんですか?」 『今どちらにいますか?場合によっては、迎えに行きますよ?』 「今学校で…」 ―ドカッ!! いきなりの衝撃に、名前は倒れ携帯が床を滑った。 「な、何するんですか!!」 「声からして男だな?行かせるかよ…」 髪を引っ張られ、名前は顔を歪ませた。 「離して…」 「誰が離すかよ。早く返事を返してくれないか?ま、拒否権はないけどな」 「無理やりですよ…」 「構わない。」 目尻に涙を浮かばせてきつく閉じると、ドアが勢いよく開いて誰かが入ってきた。 入ってきたのは、白衣を着た男だ。 「もう登下校の時間ですよ。まだ残っていたのですか?」 パタッと携帯を閉じる音と一緒に聞こえてきた声は、さっきまで名前が話していた相手の声だった。 「おや?女性に暴力を振るうとは…後で教頭先生にでも言っておかなければいけませんね。」 「チッ…」 嫌そうに舌打ちをすると、金堂は逃げるようにして調理室を後にした。 彼を見届けた男は、軽く溜め息をついて名前の前に立つ。 「怪我がないようで、良かったですよ。」 「あの、赤屍さん…ですよね?」 「ここでは『赤羽』先生と呼ばれてますがね。」 ニッコリと赤屍は笑うと、名前を抱き上げてイスに座らせた。 「ここで働いてたなんて…驚きました。」 「緊急の代理で先週から保険医として来てましたよ。ま、そんな事情を知っているのはごく僅かですがね… しかし、貴女がここに通っているとは…私のほうが驚かされました。」 床に落ちた携帯を拾い上げると、赤屍は床に落ちているチョコを手に取った。 書いてある名前を見て、名前に近づいて目線を合わせる。 「これは、貴女が…?」 「はい。今日の調理実習で作ったので…良ければ受け取ってください。甘みは控えてありますから」 「そうですか、では喜んで貰いましょう。」 受け取ったチョコをポケットの中にしまうと、今度は違うポケットから一つの小さな箱を取り出した。 「実は、私からも貴女に渡すものがあるんですよ。」 「え?何ですか?」 赤屍は、そっと名前の左手を手に取った。 「私の気持ちと一緒に、受け取ってくださいね。」 そう言いながら、名前の左手薬指に銀色に光る指輪をはめる赤屍。 指輪を見るや否や、名前は顔を赤くして嬉しそうに微笑む。 「はい、しっかりと受け取りました。あの、これって…」 「告白のつもりでいたのですが…返事は、今もらえますか?」 「勿論です、返事は決まってますから。」 名前が言おうとした返事の続きは、赤屍が触れるだけの口付けを交わすことで消えてしまった。 それから数日後、名前は赤屍と同居することとなった。 襲おうとした金堂の耳にも入ったが、彼は舌打ちをしてそのままとなったんだとか… 〜END〜 製作日:2008/1/31 携帯サイトにて、72500番を踏んでくださった彩香様へ捧げます。 こんな駄目文…受け取ってくださるかどうか…; 最後まで読んでくださった方々、どうもありがとうございました!! 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