梅雨の時期 雨が多く降るこの時期に、天空から舞い降りる女性たちがいた。 皆からは『雨女』と呼ばれ、恐れられている彼女たちは人間の前には決して現れない未知の妖怪だった。 だがそんな一人の雨女が、新宿にある喫茶店へとやってきた。 梅雨の時期 ─カランカランッ 喫茶店HokyTonk、暇で暇で魂が抜けかけていた奪還屋の二人に、依頼が入った。 「あの…ここに、奪還屋さんがいると聞いたんですが……」 「はいはいはい!僕たちが奪還屋です!!」 元気よく返事をした銀次は、依頼人である水色の動きやすそうなズボンをはいた女性をカウンターに連れて行った。 「いらっしゃいませ、何の奪還をご依頼で?」 蛮も、手を捏ねながら女性に話す。 「…えっと…その……」 だが、彼女は恥ずかしいのかなかなか本題に入れない。 ─カランカランッ 「はぁ、はぁ、やっと見つけたわ。」 店に入ってきたのは、走ってきたであろうヘヴンだ。 「あー!ヘヴンさんv」 「あら、やっぱりここにいたのね…奪還屋。とりあえず、自己紹介は済ませた?」 ヘヴンの話に、女性は首を振る。 「私が話しましょうか?」 ヘヴンの話に、女性はコクコクと頷く。 「とりあえず、驚かないで落ち着いて話を聞いてね。」 前置きを言うと、ヘヴンははっきりと言った。 「この子、雨女よ。」 「「………はい?」」 予想通り、蛮と銀次は信じられないような声を漏らした。 「蛮君なら聞いたことがあるでしょう?雨女の話」 「あぁ、梅雨の時期にしか滅多に地上に降りてこない妖怪で、よく雨藁子(アメワラシ)と一緒に行動してるんだっけか。」 「そう、今回の依頼はその雨藁子の奪還よ。」 「雨藁子を?どうして?」 「ここからは…私が話しますね……」 雨女は顔を上げながらそう言った。 「私の名前は名前と言います。 雨藁子のコンが紫陽花の花の近くで散歩している最中に、人間に捕まったようなんです。」 「………犯人は誰か分かってるのか?」 「えぇ、大学教授の高橋恭太。生物学の担当教師で、裏取り引きをしているらしわ。 きっとコンちゃんは、その教授に売られちゃうんじゃないかしら。」 名前は手を強く握る。 「私も同行します、ですからコンを助けてくれませんか!?」 「蛮ちゃん……」 心配そうに銀次は言う。 「良いぜ、引き受けても。」 「本当ですか!?」 「あぁ、奪還屋GetBackrs」 「この依頼、確かに引き受けた!!」 蛮と銀次は、ニコッと微笑みながらそう告げた。 夜中のとある港にある倉庫。そこで、取り引きが行われるそうなので、三人はテントウ虫に乗って向かった。 目的地に到着した三人が、最初に目にしたのは─── 「名前お姉ちゃん!!」 ターゲットである、雨藁子のコンはいたのだが…… 「まさかあなたたちに出会えるとは思ってもみませんでしたよ、ねぇ…銀次クンv」 「アワワワワ;;;」 銀次の天敵もいた。 「知り合い…ですか?」 「まあ…そうなる、のかな…蛮ちゃん……」 「天敵の間違いだろ。」 頭の上にたくさんの『?』を浮かばせる名前。 「た、単刀直入に言います!コンを返してください!」 人前にあまり出たことがないのか、少しオドオドとしている様子の名前である。 「それは無理な相談ですね。この荷物を依頼人の元まで運ぶことが、私の仕事ですから。」 ニッコリと微笑んではいるが、片手には銀色に輝く武器を持っている。 「蛮ちゃん、戦うしかないみたいだね。」 「ああ、相手は赤屍しか雇わなかったみたいだしな…嬢ちゃんと一緒なら奪還できそうだ。」 「力になれるか不安ですが…」 「話し合いは済みましたか?」 赤屍は、恐いくらい微笑むと三人に向けて武器であるメスを投げた。 「私を、退屈させないで下さいね?」 赤屍が最初に斬りにかかったのは、銀次だ。 「うおおぉぉぉぉぉ!!」 いつも以上に銀次も攻撃を仕掛けるが、赤屍に簡単に避けられてしまう。 「そう、いつもこのように相手にしてくだされば良いのですよ。」 またメスを構えて、銀次に切り傷を与える。 その最中に、蛮と名前はコンの奪還に成功していた。 「お姉ちゃん!怖かったよ〜〜」 抱きついて泣くコンに、名前はポンポンと頭を撫でる。 「もう勝手に人間界に出てきちゃだめだよ。」 「分かった。僕…先に帰る。」 涙を拭くと、コンはそのまま姿を消した。 「やったな。」 「はい、ありがとうございました。」 これで一安心……と思っていた時――――― 「そちらの方は、何をされていたのですか?」 「「!!!」」 驚いて振り向くと、そこには銀次と戦っているであろう赤屍がいた。 「ゴメン蛮ちゃん!途中で気づかれちゃった;」 赤屍の後ろには、手を合わせて謝る銀次がいる。 「あの…ここまでありがとうございました。 依頼料は後でお支払いに行きますので…先に行っててください。」 「狽ヲぇ!?まさか赤屍さんと戦う気じゃ……!!」 「これは私の問題ですから。良いんですよ」 ニコッと笑う名前の周囲から、小さい水の粒子が現れる。 「嬢ちゃんがそう言うんだ。好きにさせとけ」 「……分かった。無理しちゃダメだからね!!」 それだけ言い残して、GBの二人はそのまま去っていった。 「噂に聞く雨女の力、見せてくださいね?」 「それを見たとき、あなたはもうこの世にはいませんよ。」 手を前に出すと、粒子は赤屍に向かって飛んでいった。 「ほう…」 瞬時に、赤屍は粒子の雨を潜り抜けた。 「まだまだ…!」 名前は追いかけるように、宙を舞う。 「これは……」 赤屍は目を見開いていた。 彼の目には、宙を舞う美しい女性が映っているのだ。 「なるほど、雨女がどうして人間界に現れないのか…少し分かった気がしますね。」 クスッと微笑むと、赤屍は一瞬のスキをついて名前の腕を握った。 「しまった…」 名前の顔が強張る。 「―――どうしたの、早く殺っちゃいなさいよ。」 「そうですね、しかし―――」 赤屍は名前を引き寄せて、そっと唇を奪った。 「貴女は、殺すには惜しい人だ。」 「な…な…な……」 突然の事に、名前は口をパクパクさせている。 「では、こう言い換えましょうか。」 赤屍は、名前の耳元で小さく囁いた。 名前は、それを聞いて少し頬を赤くした。 「でも、私達は住む世界が違いすぎる。私は妖怪で、貴方は人間…」 「雨女は、梅雨の季節によく人間界に現れると聞きます。 その時期になりましたら、貴女が入ったあの喫茶店に立ち寄りましょう。私は待ってますからね。」 「……これじゃあ、人間界でよく聞くお話みたいですね。確か…織姫と彦星。」 「彼らは年に一回しか会えません。私達は、梅雨の時期に何度でも会えるでしょう?」 「………そうですね、それじゃあ来年の梅雨に。」 すると、名前の体が次々と雨の粒と変わっていった。 「クス 良い収穫がありましたね。名前さん、ですか……来年が楽しみですよ」 涼しげに笑って去る赤屍の後姿は、露に濡れて月の光に綺麗に照らされていた。 それから数日後の午前中のこと。蛮と銀次の元に名前が現れた。 「報酬は、私の世界で滅多に手に入れることが出来ない未知の雫です。」 名前は、ビンに入った水を二本蛮たちに渡した。 「まいどあり!」 ―カランカランッ 「それじゃあ、私は依頼料を届けに着ただけですから…これで失礼しま……」 軽く礼をして、名前が店を出ようとした時…そこには――― 「クス こんにちわ。名前さん」 「あ、こ、こんにちわ……」 顔を赤くして、名前は赤屍に挨拶をする。 「梅雨は明けましたよね?どうしてココに…?」 「報酬を渡しに来たんですよ…」 「そうでしたか、では少し時間はありますか?」 「あ、はい…夕方に帰れば大丈夫ですから……」 「では、一緒に行きましょうv少しではありますが、新宿を案内してさしあげましょう。」 「ありがとうございます。」 嬉しそうに微笑むと、名前は赤屍と一緒に店を出た。 梅雨の時期、雨が降って大変なこの時期には、綺麗な心を持つ女性がやってくる。 そう、黒服を来た男に恋をした雨女が――― 〜END〜 製作日:2006/7/8 梅雨が明けたような、明けていないような…… こんな感じで終りましたが、どうでしょうかね? すっごく悩んで作った作品となりました。 赤屍さんが何を囁いたのかは…貴女の想像にお任せしますv それでは、15000HITありがとうございます! キリバンを踏んだ細サマも、ありがとうございます! |