前編 01 ミッドガルにある神羅カンパニー。 そこの受付嬢として働いている一人の女性がいた。 地味な眼鏡を掛けて肩まである黒髪を二つに結ぶ女性… 名前を苗字名前と言う。 「あの、すみません…その日は用事が‥」 「そうか、ならいつなら大丈夫かな?」 「えっと……」 「すみませんが……」 困り果てている同僚の友人1とニタニタ笑う男の間に、名前が割り込む。 「今勤務中ですし、ナンパが目的なら他を当たってください。」 ニッコリ営業スマイルをする名前に、男は後退りしてから嫌そうに去って行った。 「名前!助かったよ…!」 「いえいえ〜、困った時はお互い様だよ。友人1」 友人1に感謝される名前を影で見る男たち…先程のナンパ男の姿もあった。 「名前が神羅に加わってから、受付嬢に手出しできなくなったな…」 「全くだ‥‥後で痛い目に合わせてやろうぜ。」 「リンチか?ソルジャーたちに声掛けて…」 「無理無理。あんなダッセー女に構ってられる暇は誰もないって」 そんな陰口を、名前は全部聞き取っていた。 そして、ニヤリと笑みを浮かべる。 「‥‥?名前?」 「……………ん?どうしたの?」 「ううん。何でもないよ。何か考え込んでいるようだったから…」 「大丈夫。困ったことがあったら、真っ先に言うから。ね」 「そうだね!こっちも、遠慮しないで言ってね!」 そして友人1に気付かれないように、名前はクスッとまた笑う。 ─私がリンチごときでビビるとでも?笑わせるんじゃないね。 そんなことで恐がると思ってもらっちゃ困る。 「あ、そろそろ上がらないと…」 時計を見ながら話す名前。友人1はニッコリと笑った。 「そうか。お疲れ様!」 「うん。お疲れ…」 ─私には、神羅の同僚たちに隠していることがあった。 帰り道。商店街を通るたびに、名前に声をかけてきてくれる近所の人たち。 「お帰り!お嬢!!」 「お帰りなさい!良い魚入ってるよ〜!お嬢いるかい?」 「じゃあ、貰おうかな?」 ―この事は、受付嬢の長しか知らない…極秘の隠し事。それが私にはあるのだ。 これを知られては、私は受付嬢としていられなくなる…何故なら…… 「ただいま!」 名前が家に入ると、怖そうな男たちが集まっており、皆揃ってこう叫んだ。 「「「おかえりなさい!お嬢!!」」」 「おう!」 ─私の家は、ちまたで有名な仁侠一家『苗字一族』の13代目当主の妹なのだから。 彼と私の恋の行方<前> 「おかえり、飯も用事してあるぞ。食べるか?」 「うん!」 結んでいる髪を下ろして、掛けてある眼鏡を取りながら名前は明るく答えた。 髪を靡かせる名前の姿に、集まった男たちは顔を赤くした。 「お嬢って‥髪下ろして眼鏡取ると美人だよな」 「バカ!ここでその話をするな!」 そう、名前には二つの顔が存在していた。 神羅の受付嬢をしている時の姿は表の顔、髪を下ろして眼鏡を取った今の姿は裏の顔となる。 全く似つかない、二つの人格を上手に使いこなしている名前に…男たちは尊敬のまなざしを送っていた。 「んで、どうだった?今日の仕事は…」 酒が入った瓢箪を片手に話しかけている男は、名前の兄・龍二である。 苗字一族の当主である龍二は、名前の唯一の血縁者でもあった。 「今日は相変わらずだったよ。ただ、最近ナンパしてくる奴等が増えてきたかな…」 「ナンパ!?」 ピクリと反応しながら刀を構える三角頭の男。 「ハチ!今はご飯中だ。早く食べろ」 名前の叫び声に、ハチと呼ばれた男は「へい‥」と言って刀を戻した。 ちなみに、ハチは名前の二個下の従兄弟である。 今年で18になるとか…… 「ハハハハ!問題があっても、自分の夢が叶ったならいいじゃないか!」 「うん。そうだね…」 カチャ…と箸を置いて名前は微笑んだ。 彼女の夢は、神羅カンパニーの受付嬢になること。 7歳の頃に交通事故で亡くした、両親との約束だからだ。 家柄を隠しながらの面接は、かなり大変だったが‥無事に採用されて今に至るのである。 「んで、最近はどうなんだ?」 「? 何が?」 「コレだ。コ・レ」 そう言いながら、龍二は小指を立てた。 「え、いや‥あの……」 名前はというと、龍二の指を見て顔を赤くした。 実は、名前が神羅に入った理由はもう一つあったのだ。 自分の恋を実らせたいこと、なのだが…… 「無理無理。相手はソルジャークラス1st.なんだよ。ファンクラブもあるし、遠めで見るのがやっと……」 諦め混じりの名前の声に、龍二は溜め息をついた。 「ま、地道にやっていけよ。」 「うん。」 渡されたおちょこを片手に、名前は空に浮かぶ月を見つめた。 「そういや、お嬢の好きな奴って確かジェネシ…」 ─ドカッ!!! 踏んではいけない地雷を踏んだハチは、名前から痛い鉄拳を浴びせられたのだった。 |