二人のセイイチ@


この物語の発端は、他でもないとある人物と一匹の動物の関わりから始まっていた。



fly hight.一周年記念小説!
二人のセイイチ



「っか〜〜! 今日も暑いぜぃ」

「そうっすね〜」


炎天下の立海大附属中学のテニスコート。

手を団扇のように仰ぎながら滝のように汗を流している男子生徒たちがいた。一人は二年の切原、もう一人は三年の丸井。

マネージャー三年の名前からドリンクを受け取ったものの、あっという間に空にしてしまった二人は、新たに水分を求めて部室の裏手にある水飲み場へと向かっていた。


「あれ? 仁王先輩じゃないっすか〜!」

「ッ!!」


目的地に到着すると、既に先客がいた。銀髪で後ろの髪を小さく括っている後姿を見る限り、彼は同じテニス部の三年・仁王雅治だと理解した。肩を上下に動かして驚いた仁王は、ハッと振りかえり二人の姿を見て安堵の息を漏らす。


「なんじゃ、ブンちゃんと赤也か……脅かすんじゃなか」

「脅かすも何も、俺ら水分補給に来ただけだぜぃ」

「そう言う仁王先輩こそ、水飲み場で何してるんッスか?」

「そ、それは……」


おかしい。明らかに動揺している……

普段見られない仁王の様子に、二人は目を合わせて首をかしげていた。

そして……


「ニャ〜」


仁王の腕から、にゅっと何かが顔を出した。

鳴き声からして……


「ね、猫? しかも真っ白じゃないですか!」

「なーんでこんなとこに猫がいるんだ?」


驚きの声を上げる二人が、目の前に現れた校内で見慣れない生き物・猫を前に動揺を隠せないでいるようだ。只一人、切原に至っては目を輝かせている様子。


「先週辺りから、足をくじいて動けなくなってた所を俺が見つけて手当てしてやったんじゃ。もう動けるようになったはずじゃが、何故か懐かれてしまってなぁ〜」

「ふーん、あ……しかもオス猫じゃねーか!」

「毛がフワフワしてる……!」


スリスリとすり寄ってくる猫に、丸井は驚きながらも様子をうかがっているようだ。

切原は、まだ目を輝かせて猫を見つめている。


「なあ仁王、コイツに名前とかついてるのか?」

「ん? まあな〜」

「え!? どういう名前なんッスか!? 白猫だから、シロ君とかシロ太ッスか?」

「赤也、そのネーミングセンスはどうかと思うぜぃ」


猫を気に入ったのか、頭を撫でながら切原が元気よく仁王に問うた。


セイイチじゃけど?」


白猫を見つめてながらボソリと言う仁王の言葉に、目を点にした二人はガチッと動きを止める。

え? この人、今なんて言った?

多分この言葉が、今の二人の心の呟きだろう。


「ちょ、ちょっと待てよ仁王。なんで、よりによってその名前をつけたんだよぃ……!!」


どう聞いても、テニス部部長・幸村精市の名前だからだったかもしれない。丸井がそう切り返すのは当たり前だろう。


「コイツ、綺麗な顔してるじゃろ? 妙に距離置いて相手を見据えるし……綺麗な鳴き声出しながらちょっかい出してきよるし。態度もデカイし、腹黒じゃし……誰かさんにそっくりだな〜って思うたら、他の名前が浮かばなくての〜」

「ええええ……だからって、普通部長の名前は付けませんってば……」

「そうか?」

「そうッスよ!」


白猫の名前で言い合いをする仁王と切原の横では、"だからって……"と言いながらも猫耳を付けて『ニャ〜♪』と鳴く幸村を想像して汗を流す丸井がいた。

いや、それはあり得ねぇだろぃ。と言って顔をブンブンと横に振っていると……


「赤也君、ブンちゃん。そろそろ休憩終わるけど……」


様子を見に来てくれたマネージャー・名前の登場に、三人は顔を上げて彼女へと向けた。


「お、名前も来たんか〜」

「仁王君、こんな所にいたんだ。さっきから真田副部長が探してたよ?」

「ゲェ、あの頭の固そうな時代遅れの副部長が俺に何の用なんかのぅ……」


ハァ、と重たい溜め息をついている時……


「ニャ〜」


まるで慰めるように、白猫のセイイチが声をかけてくる。猫の声に反応した名前は、頭の上に疑問符を浮かべて仁王に問うた。


「ねえ、何でこんな場所に猫がいるの?」

「いやー、実はな……」


かくかく、しかじか。

事情を説明し、内容を理解した名前は大きく頷いてくれた。



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