KISSに込める想い@


恋愛がしたい。

その言葉を嫌と言うほど聞いてきた私は、横でギャーギャー騒ぐ友人を見ながら溜め息をついた。

恋愛と言うのは、騒いだだけで手に入る代物ではないというのを知っているはずなのに……声に出して言わないと、落ち着かないのかな……


「恋愛したいなら、騒ぐ前に行動に起こしなよ」

「だぁがなたんらなんじさん!」
(それができたら苦労しない!)


きっぱりと言われてしまった……

唸り続ける友人に哀れんだ目線を送りながら、私は時計を見つめる。もうすぐチャイムが鳴る時刻を指しそうだった……



KISSに込める想い



沖縄にある比嘉中は、生徒も教師もとても個性的な人達ばかりが集まっている学校だ。

私のように昔は本土に住んでいたような人は珍しく、こんがり焼けた茶色い肌の人達の中にいる白い肌の私はとても目立つ。目立つのが良いのか悪いのか、よく授業中に先生に目を付けられて指名されたことが何度もある。時々難しい問題にあたる時もあって、とても焦った事だってあったな。

そんなことを思いながら授業を受けていると、案の定先生と目線が合ってしまった。嗚呼、目がキラーンと輝いているし……!


「よし、苗字。くぬ問題解いてみようか?」

「前回も私、教壇の上に立たされましたよね!? 次回は別の人当てるとか言ってましたよね!?」

「ん? あびたか〜?」
(ん? 言ったか〜?)


嗚呼、これもいつものことだからもう何も言わないけどさ……

とぼけている先生に合わせて立ち上がる私も、優しい奴だと(クラスメイトが)思っているに違いない。まあ……今回の問題は、とても簡単な問いだから問題ないね。あ、ちなみに今は英語の授業です。


「At that time of seeing glancing, I fell in love with you.
I want you to permit me who thinks that I am glad only in touch, and drops nature and the kiss.」


黒板に文章を書き、それを口で復唱させると先生は「パーフェクト!」と声を上げて頭を撫でまわされた。


『一目見たその時から、私は君に恋をしました。触れただけで嬉しく思い、自然とキスを落とした私を許してほしい』


これが、私が英文訳した日本語の文章。

恋だとか愛だとか、小説や漫画……そして近くにいる友達の話でしか聞いた事がない。こんなごくごく普通の平凡な私が遭遇するわけがない。興味がないわけじゃないけど、あまり期待はしていない。

それに、少しだけ"一目惚れ"というモノをしてみたい……なんて思う私は甘いのかな……?



―キーンコーンカーンコーン



そんな事を思っていると、チャイムの音が耳に入ってきた。

よし! やっと昼休みに入ってくれた! チャイムと同時に私は弁当箱を手にとって立ち上がる。


「ちょ、ちょっと名前! 待ちよーさい!」

「やなこった! 折角の昼食も、アンタの話しに付き合うのだけはゴメンだよ!」

「んなッ! は、薄情者〜〜!!」


先週から同じ話題を聞かされ続けていた私の身にもなってみろ!!

そう思いながら教室から聞こえる友達の声を背に、私はタッタカと早足で廊下を歩いていく。さて、廊下に出は良いものの……何処で昼食を取ろうかな……いつも教室で済ませている私は、行き場が思いつかず途方に暮れる。だけど、一ヶ所だけ……ある場所が脳裏に浮かんだ。


「よし! 今日はあそこでご飯食べるか」


グッとガッツポーズを作って、私は歩き出す。

この選択が、後のある出来事を起こすきっかけになるなんて……今の私は知る由もない。




***




「ごちそーさまでしたッ!」


パンッと手を合わせて空になった弁当箱を前に小さく頭を下げる。

お昼休みに入ってから数分、小さな二段弁当を片づけながら大きく伸びをした。

私のいる場所は、校舎の裏にある小さな中庭。ベンチも設置されていて、私が見つけた穴場なんだよね。花壇に植えられている花は、もうすぐ咲きそうなものばかりだ。今日は天気が良いから、太陽の光がまぶしい!


「ん〜、こう温かいと……眠くなるわぁ……」


言いながら大きく欠伸をしてしまった私は、携帯で目覚ましをセットしてからベンチに横になる。こう天気が良いと、昼寝をしたくなるのは私だけじゃないよね。

「ご飯食べた後寝ると太るぞ〜」ってお母さんに言われたけど、そんなの関係ないよ! この温かいお日様の誘惑には敵いっこないから! そう心の中で叫びながら、弁当箱をベンチの横に置いて瞳を閉じる。そこから、私は意識を手放した……


 



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