信じる者の違い@

 

「ここまで付き合ってくれて……ありがとう」


ここは東京にある某空港。人がたくさん出入りしている中、俺は目の前に立つ二人にそう声をかける。

小さな荷物を片手に、俺が向かおうとしている場所……それは家族の待つ家ではなく――


「決断が早いかとは思ったけど、外国へ逃げるのは良い案だと思うんだよね……あの草食動物たちの驚く顔が目に浮かぶさ」

「クフフフ……だからと言って、僕らには関係のない事です」

「まあ、言われてみればそうだけど……」


フゥ、と息を吐いているのは並盛を牛耳っている事で有名な不良の頂点に君臨する人物・雲雀さん。

そしてそんな彼の横に立っているのは、一時期敵対していた骸だ。

その他にも、犬や千種と言った骸と深い繋がりのある人物に、雲雀さんに付き従っている草壁さん。

他にいるような気がしたけど、俺は小さく首を横に振る。この人達以外、俺の味方をしてくれた人なんて……誰もいなかったような気がするから。


「せいぜい、頑張ってあがいてみなよ。生存報告は必須だから」

「生存報告って……」

「当たり前です。キミは僕らが見ないところで簡単に死のうとしますからね……本当なら、こんな手段を取りたくはなかったのですが……ね」


眉間に皺を寄せて話す骸の言う通り、俺はこのセカイで生きる希望を失っていると言っても過言ではない。

哀しく笑みを浮かべ、肩に下げている鞄に力を込める。


「大丈夫です、俺は雲雀さんや骸に"生きていてほしい"と願ってくれている限り、生きようと思いますから」

「必ず約束するんだよ、破ったら噛み殺してあげるから」

「むしろ死んでしまったら、輪廻の果てから迎えに行って差し上げなければ……」

「あ、あはははは……」


この人達が言うと、冗談に聞こえないから恐ろしい……


「……っと、長話をしてしまったね。そろそろ行きなよ、飛行機が出てしまうからね」

「あ、はい! 旅費まで出して下さり、ありがとうございます」

「お礼は後でいいよ。一応1000倍返しで貰う予定だから」

「ちょ! それ多すぎだから!!」


いつものように平手突っ込みを入れてから、俺は彼らに背を向けた。向かう先は、遠い土地。日本じゃない、俺の知らない土地……

日本を飛び出した理由は一つ。奴らから逃げる為、追っ手から逃れる為――

俺はただ、平凡にこの人生を過ごしたかっただけなんだ。それなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう?

理由なんて考えたくもない……もう、思い出したくもない――




信じる者の違い




「ここ、は……」


行き先が良く分からないまま、近くの飛行機に乗り込むこと数時間……降り立った異国の地に足を踏み入れた。

そして辺りを見渡し、俺は目を見開かせる。


「イタ、リア……」


まさか、知らない間にこの場所にやってくるなんて……思ってもみなかった。

ここはボンゴレの本拠地がある場所だ。早々に立ち去らなければ、ボンゴレ関係者に見つかりかねない……!


「あれぇ〜? キミ、綱吉クンかい?」


飄々とした、軽そうな声が俺の耳に届く。

空港のメインゲートをくぐった先で立ち尽くしている俺に話しかけてきたということは、少なからず俺と関係のある奴らだ。そして、関係のある奴らの大半は……彼女の下僕だ。

みるみるうちに血の気が引いていき、荷物を持ってもう一度空港の方へと走ろうと身構えるが……


「ちょ、待って待って! とりあえず落ち着いてよ?」


少々焦ったような声と同時に、俺の腕をガシッと勢い良く掴まれる。

嫌だ、コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ

同じ言葉が、俺の中で木霊する中……ゆっくりと振り返った。そして視界に広がったのは……雪のように白い髪だった。


「び、びゃく、ら……」

「ウン♪ こっちでは初めましてかな? 沢田綱吉クン♪」


ニコッと人懐っこく微笑む彼は、俺が未来の世界で出逢った白蘭とは似て非なる人物だった。

一応パラレルワールドにある"もう一人の白蘭"を倒した事実は変わらない。そして俺たちが未来から帰って来た時、俺と関わりのある人達には、

10年後に何が起きていたのか……伝わっているはずだ。それは彼も例外じゃない。


「えーっと、とりあえずキミに会えてよかった。探してたんだよね〜」

「探してたって……!!!」

「ま、苗字名前って子の差し金じゃない事は伝えておくね。それじゃ、ここは人目につきやすいから場所を移動しようじゃないか♪」


ウインクをし、俺が持つ荷物を半ば強引に取り上げると、白蘭は鼻歌を歌いながら歩きだしてしまった。

俺は慌てながら彼の後を追う、だって荷物取られたんだから……追うのは当たり前じゃない!?

息切れを起こしながら、そして足を少々引きずりながら追いかけていく事数分……大きなビルが立ち並ぶ空間にある一つの小さな建物へと……彼は入って行った。


「遅いよー綱吉クン」

「び、白蘭が、走る……からっ!!」

「? 別に走ってないけどね〜。とりあえず、キミの傷の手当てと食事を用意してもらおうか。ユリチャンとナギサチャンに話してもらわなきゃ」


ニコニコ、とさっきと変わらない笑顔を向けながら俺の背中を押す白蘭。

そんな彼に流されるまま、俺は知らない建物の中へと入って行くのだった。


 



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