短編 | ナノ
長官イビリ

「あ゛ー。マジでつまんないわねぇ」

煙管をくわえ、ソファーの背もたれに片足を引っ掛けるという怠惰な姿勢で寝転がる女。
世界政府直下暗躍諜報機関サイファーポールNo.9の一人、アイリスだ。
長い赤毛を結い上げ、ワノ国の民族衣装であるキモノを着ている彼女だが、洗練された露出のカリファとは対照的に、胸元、腹、腿を露出しているので下手をすると商売女に間違い兼ねない格好をしている。
暗躍諜報機関という肩書きにはおよそ相応しくない派手な姿である。

「ルッチの嫌味を聞きたい。カクをいびりたい。ブルーノの優しさに触れたい。あと、カリファの乳揉みてぇ」

ルッチたちがエニエス・ロビーを離れて早三年。
こんな長期での任務は初めてだ。
故郷からずっと一緒だった四人がいないというのは、何とも寂しい。
ジャブラはせいせいするとか言っているが、あれでもなんだかんだで強がりだとアイリスは思ってる。
まあ、本人にそう言って殴り合いになったのは三日前のことだが。

「あと二年近くは帰ってこないとか……。そんな指令を出したの、どこの馬鹿よ。力の限り死んでくれればいいのに」

憂い顔で溜息混じりに煙を吐き出す。
そんな彼女を見つめてふるふると震える人影が一つ。

「アイリス……。お前、その本人が目の前にいること分かってて言ってるんだよな?」

そんな指令を出したスパンダム本人が、長官席に座って青筋を立てながら怒りに震えていた。
スパンダムに視線を向けたアイリスは驚いたように目を丸くした。
………体勢はソファーに寝転んだまま。

「あら、パンダ。じゃなくて長官。いらっしゃったんですか?影も髪も薄いから気が付きませんでした」

「なんでパンダって言った?お前、影で俺のことなんて呼んでんの!?それからここ長官室。お前がこの部屋に来た時から普通にいたからな!あと、髪は薄くねェ!!」

机を叩いて立ち上がったスパンダムは、ずかずかと早足でソファーの前まで来てアイリスを怒鳴りつける。
けれど、彼女は怯んだ様子もない。
むしろ駄々っ子を見るような自愛の瞳をスパンダムに送る。

「男のくせに細かいことをぎゃーぎゃーと……小さいですよ」

「股間見ながら哀れんで言うな!!」

「被害妄想ひどいですよ、パンダ。じゃなくて長官。……少し黙ってろや」

最後の声はとても低かった。
道力500を超える超人集団の一人に殺気の籠った声と殺意に満ちた瞳で見つめられ、スパンダムは静かに口を閉じた。
長官といえども、本気を出したCP9に逆らうのは怖い。
その中でもアイリスは何を考えているのか分からないから余計に怖い。

「四人が長期任務に出て、あたしも困ってるんですよ」

「困ってるって、お前がか?」

「ええ。末っ子のカクがいないから、あたしが最年少でしょう。肩身が狭くて……」

「せめて形だけでも肩身が狭い振りしろよ」

カクよりも1歳だけ年上のアイリス。
ジャブラたち年長組といるために心細いという彼女は、相変わらずソファーに寝転がっている。
上司の前どころか人前でする体勢ではない。
けれど、元が美人なアイリスが憂い顔を見せると、放って置けない雰囲気を醸し出す。
アイリスに惚れているスパンダムならば余計にだ。

「どうだ、アイリス。俺に何かして欲しいことあるか?」

有り余る財力と権力があるスパンダム。
たいていのことならば出来る。
そう思ってアイリスを見つめると、彼女は微笑んだ。
男を絡め取るように妖艶な笑み。
思わずその笑みに見惚れていると、

「そうですね……長官。じゃなくてパンダが司法の塔の上から『正義は俺だ!』とか叫んで飛び降りたら笑えます」

んふふと微笑んで、ソファーからおもむろにアイリスが立ち上がる。
彼女の目は本気と書いてマジだった。

スパンダムはじりじりと近付いてくるアイリスから逃げるが、気付けば窓際に追い詰められていた。
しかも、何故か窓は全開だ。

「アイリス、なんでパンダって言い直した?つーかそれ、俺は笑えねェだろうが!!」

「あたしが笑えるっつってんだろ。今すぐ飛び降りてこいよ」

そう言うと、アイリスは微笑んだままスパンダムを蹴り飛ばした。


「ぎゃあああぁぁぁぁっ!!」


悲鳴を上げて窓から落ちていくスパンダム。



「うわ!長官が落ちてきた!?」

「誰か医者を―――!!」


下からばたばたと足音が聞こえてくる。
医者ということはまだ生きているようだ。



ゴキブリ並のしぶとさ。
道力はなくても、生命力だけならCP9を凌ぐかもしれない。
それにしても………。

「そんなに笑えないわね」

紫煙を吐き出して、アイリスは再びソファーに横になった。
次はどうやってストレスを晴らそうかなぁと考えながら。

10/01/17

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