短編 | ナノ
幸せな一時

「ねぇ、カク。どこ行くのー?」

「いいところじゃ」

ノエルはカクに手を引かれながら造船島を歩いていた。


ガレーラカンパニーが休みの今日、特に予定もなかったノエルは久しぶりに彫刻刀の刃を磨いていた。
百本を超えるであろう彫刻刀をひたすら磨き、ようやく終わりが見えてきたところでカクが訪ねてきたのだ。
そのままあれよあれよとばかりに連れ出されて、今に至る。

いいところに連れて行ってくれると言いながらも、何故か行き先を教えてくれないカク。
ノエルは首を傾げながらも、全面的に信用しているカクのことなので不安はない。
手を引かれるがままに大人しく後を着いていく。


「ほら、着いたぞ」

辿り着いたところは真新しい建物の前だった。
可愛らしいピンク色の建物は、個人の家ではなくて店のようだ。
外に机や椅子が並び、それらを日差しをから守るようにパラソルが立っている。

「カフェ?」

「そうじゃ。最近、オープンした店なんじゃ。ちょっと入り組んだところにあるから気付かんかったじゃろ?」

目を丸くしているノエルに、得意げな笑顔を見せるカク。
可愛らしい外観を物珍しそうに眺めるノエルの手を引いて、二人は店の中へと入った。


「いらっしゃいませ〜」

中に入ると、笑顔のウェイトレスに出迎えられた。
ウェイトレスの服装も、店の内装も可愛らしく、いかにも女の子が好きそうなお店だ。
にこにこと微笑むウェイトレスに案内され、窓際の二人席に通される。
メニューを開くと、そこには色とりどりのスイーツの写真が並んでいてノエルはきらきらと目を輝かせた。

「うわー、おいしそう!ケーキにしようかな?でも、パフェも捨てがたい!!」

「両方頼んでみるか?」

「そんなに食べられるかなぁ?」

「じゃあ、わしはノエルと別の物を頼むかのう。そうすれば、交換が出来るじゃろ」

「そうだね、そうしようっ」


二人でメニューを覗き込み、あれやこれやと意見を交わしながらスイーツを選ぶ。
熟考の末、ようやくメニューが決まったノエルとカクはウェイトレスを呼んだ。


「…………で、飲み物は二人とも紅茶でお願いしまーす」

「はい、ありがとうございます。………あの、ただいまカップルでご来店いただいた方に、シャーベットをお付けしています。種類がイチゴとオレンジがありまして―――」


「「カップル?」」


ウェイトレスの言葉に、きょとんと目を丸くして顔を見合わせる二人。
『カップルって誰と誰が?』と言わんばかりの反応に、ウェイトレスも驚いて二人を見比べる。
顔を突き合わせて、きゃっきゃっと楽しそうにメニューを選んでいた二人はどう見ても仲の良い恋人同士にしか見えなかったのだ。


「え、あの………」

「あはっ!あたしたち、そんな大層なものじゃないよー」

「仕事仲間じゃからな」

「そうそう」


そう言って笑う二人は、ウェイトレスの勘違いにも特に気分を害した様子もない。
むしろ、二人とも楽しそうに『あはっ、ラブラブカップルに見えたのかなぁ?』『わはは、ラブラブじゃったか?』など話している。

「そういうわけで、シャーベットは無用じゃ」

「申し訳ありませんっ」

「気にしないで。よく間違われるから」

年頃の男女が二人でカフェに来れば、そんな勘違いも仕方ないだろう。
ウェイトレスは頭を下げながら厨房へと戻る。
そんなウェイトレスを見送った後、ノエルは不思議そうに首を傾げた。

「何でか分からないけど、カクと出掛けるとカップルに間違われるんだよな。パウリーやルッチと出掛けてもそんなことはないんだけど」

「そうじゃなぁ。わしもカリファと出掛けてもそんなことはないんじゃが」

『どうしてだろうねぇ』と考え込むように腕を組む二人。


別にウェイトレスが早とちりをしたわけではない。
本人たちはまったく気付いていないようだが、兄妹とは思えない男女が仲良く手を繋いで店に入ってくれば十人中十人が恋人同士だと思うだろう。
ノエルが12歳の頃から……しかも、男の子だと思われていた頃から手を繋いできた二人にとっては、そんなことは日常の一コマだ。
まさかそれが原因などとは欠片も思っていない。


「お待たせいたしました」

「わぁ〜」

机に並べられたスイーツに、ノエルは目を輝かせる。
チョコレートで作られた花が乗せられている綺麗なケーキは見ているだけで美味しそうだ。


目の前に置かれたケーキを一口食べてみる。
瑞々しい果物に、甘くて……けれど、後味がさっぱりとした生クリーム。
見た目通り、とてもおいしかった。


「おいしい〜!」


頬を押さえて、ノエルは幸せそうに相好を崩す。
向かいのカクも、パフェを食べて同じように幸せそうな笑顔を浮かべている。


「ほれ、ノエル」

カクがパフェを掬ったスプーンをノエルに差し出す。
ノエルはカクに促されるまま雛鳥のように大きく口を開けると、ぱくりとスプーンを銜えた。
むぐむぐとパフェを味わい、笑顔を浮かべる。

「パフェもおいしい〜!」

「なかなかじゃろ」

「うん!ほら、カクもケーキ食べて」

パフェの甘さを存分に堪能したノエルは、いそいそとケーキを切り分ける。
そして、ケーキを刺したフォークをカクに差し出した。
カクも先ほどのノエルと同じように、差し出されたフォークを銜えてケーキを味わう。


「うまいのう」

「だろ!」


カクの言葉に、まるで自分が誉められたかのように喜ぶノエル。
そんなノエルを優しい瞳で見つめ、カクは再びパフェを掬ったスプーンを差し出した。

「もっと食べていいんじゃぞ」

「うん!」


※※※※※※


「お腹いっぱい〜。もー、食べられないよぉ」

ノエルはぱんぱんに膨れたお腹をさすりながら満足そうに息をはく。
結局、パンケーキや杏仁豆腐などを追加で頼んでしまい、見事に全てを食べ尽くしてしまった。
ちょっと夕飯が食べられるか心配だ。


「満足したかのう?」

「すっごく!連れてきてくれてありがとー、カク」


元気よく頷いて、嬉しさを全開にしてにっこりと笑う。
そんなノエルの子供の柔らかさを残す頬に、そっとカクの手のひらが触れた。


「?」


ノエルはどうかしたのだろうかと、きょとんとした表情でカクを見上げる。
しかし、カクは何も言わずに優しく微笑んで頬を撫でるだけだ。
何だかよく分からなかったけれど、カクが笑っているならそれでいい。
頬を撫でられながら、ノエルも幸せそうに微笑んだ。


もちろんのことながら、従業員たち、更には客までもが真っ赤な顔をして居心地悪そうに自分たちを見つめていることには欠片も気付いていない。
ツッコミ(パウリー)が不在の今、二人を止めることは誰にも出来なかった……。

11/07/03

1周年記念リクエスト作品。
まこ様に捧げます。
リクエスト、お待たせしてしまい申し訳ありません!
カクとスイーツを食べに行ってもらいました。
短編の『仲良し』とは違い、今回はツッコミ不在で最後まで甘々にしてみました。
カクとは暇な時間があれば仲良くスイーツ巡りをしてると思います。
リクエストありがとうございました。

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