短編 | ナノ
後ろに隠したのは

「オレ、カクの秘密を知ってるよ」

まるで明日の天気を話しているかのように平素と変わらぬ声音。
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
真っ白になった頭で足を止める。

振り返った先には、大きな瞳で真っ直ぐとこちらを見つめているノエルの姿。

彼女と繋いでいる左の手のひらがじわりと汗ばむ。
体温の低いノエルとは、どんなに長く手を繋いでいても汗ばんだことなどないというのに。

「ひみ、つ………?」

平静を装おうとして口を開いたのに、出てきたのは酷く掠れて自分のものとは思えないような声だった。

秘密と言われ、思いつく答えは一つしかない。

どうやって知られたのか。
どこでばれたのか。

冷静に考えようとするが、頭はまったく働かない。
頭の中を支配するのは、熱と混乱と速くなった鼓動の音だけ。
まともな思考など出来なかった。

秘密を知られた。
ノエルが秘密を知ってしまった。

彼女がどこまでの真実に辿り着いたのかは分からない。
けれど、ほんの少しでも自分たちの正体に気付いてしまったのなら………口を封じるしかない。

ノエルと繋いでいない方の手を握り、そっと人差し指を伸ばした。

彼女を殺すのは簡単だ。
ただ一突き。心臓を狙って指銃を放つ。
それだけのこと。
船大工として鍛えられているとはいえ、ノエルは13歳の少女でしかない。
CP9であるカクには赤子の手を捻るよりも簡単なことだ。

戸惑う必要はない。
いくら彼女がまだ子供とはいえ、任務の邪魔をする者には死を。
今までもそうしてきた。
CP9として正しい道を歩んできた。

ギッと奥歯を噛み締めて………カクはノエルの手を強く握った。
少しだけ体温の低い、柔らかくて小さな手のひらを。

指銃を放とうとするカクを、ノエルは首を傾げて見上げる。
そして、口を開いた。

「カクって実は甘党だろ。しかも、すげー甘党!」

「………は?」

「だって紅茶に5杯も砂糖入れるし、オレがパフェとか食べると羨ましそうに見てるだろ。それに、一口あげるとすげー嬉しそうだから!」

あはっと得意気な笑顔を浮かべて、カクが甘党であるという理由を次々と上げていくノエル。
欠片も想像していなかった言葉に、カクは目を瞬くしかなかった。

「それが、秘密……?」

「うん、そうだよ。だってカク、甘いの好きだって内緒にしてただろ?」

確かにノエルの言う通り、知られないようにも、言わないようにもしてきた。
男で甘党など恥ずかしいからだ。
けれど、まさか今そのことを指摘されるとは思ってもいなかった。

まだうまく思考が働かず、唖然とするしかないカク。
ノエルはカクの様子に笑顔を消し、心配そうに眉を寄せる。
それから、小さな手のひらがカクの手をぎゅうっと握り返した。

「別に男が甘いの好きだって大丈夫だよ。甘いのおいしいもん!だから、カクはカッコ悪くなんてないよ。オレが保証する!」

カクの反応に甘党であることに落ち込んでいると勘違いしたのか、ノエルは手を握って必死に言い募る。

指銃を放とうとしていた右手からゆっくりと力が抜けていく。
本当に隠すべき秘密を知られたわけではなかった。
この子は何も知らない。
何も知らないからこそ、こうして無邪気にカクを慕っているのだ。

アイスバーグの傍にいて、唯一彼の家族だと言える存在。
いつか任務を実行する時、彼女も何らかの形で巻き込むことになるだろう。
その命を奪うことになるかもしれない。
けれど、今はまだ―――。

「………ばれてしもうたか。可哀想じゃが、わしの秘密を知ったからには………」

低い声を出し、じっと無表情でノエルを見つめる。
不安そうに此方を見上げるノエルの手を優しく握り、カクはにかっと笑顔を浮かべる。

「今度、一緒にケーキを食べに行ってもらうぞ」

「うんっ!!」

ノエルはカクの言葉に顔を輝かせて頷いた。

これは深入りではない。
任務を円滑に進めるための演技。
だから、彼女の信頼を勝ち得るために傍にいるのだ。

そうやって自分に言い聞かせながら、カクは右手を後ろに回す。
ノエルへの殺意を込めた右手。
誰にも見られないように、そっと背中に隠した。

11/10/02

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