短編 | ナノ
仲良し

「クリームが付いとるぞ」

「へ?どこ?」

カクの言葉にクレープを食べていたノエルは、ぺろりと唇を舐める。
けれど、クリームは顎の近くについているために届いていない。
『まだついとる』と笑われ、困ったように唇を手の甲で拭うがやはり届かない。

「ここじゃ」

カクの手が伸びて少女の顎についたクリームを指先で取る。
親指についたクリームを舐めるカクにノエルはふわりと笑顔を浮かべる。

「ありがとー」

礼を言って、再びクレープにかぶりつく。
今度はクリームがつかないように気をつけて。


「お待たせしました」

ウェイトレスが大きなイチゴパフェをカクの前に置く。
実はノエル以上に甘党の彼は、こういった店では遠慮なく甘いものを頼む。
生クリームがたっぷり乗り、プリンやイチゴの入ったパフェにノエルも目を奪われた。
量はあまり食べられないのでクレープだけで手一杯だが、やはり甘いものには惹かれてしまう。
きらきらと輝く瞳でパフェを見つめるノエルに、カクも気付いた。

「ノエル、プリン食べるか?」

「いいの?」

「ほれ、口を開けろ」

カクはプリンをスプーンで掬うと、ノエルの口元に差し出す。
ノエルは嬉しそうに笑顔を浮かべると、素直に口を開けてスプーンをぱくりと咥えた。

「………うん、おいしい!」

「苺もどうじゃ?」

「食べる!」

カクが摘んだイチゴに目を輝かせて、あーんと再び口を開けたところで。


「いい加減にしやがれ、お前らァ!!」


(最初から同じ席に座っていた)パウリーが机を叩いてキレた。
怒鳴られたカクとノエルはそのままの体勢のまま、きょとんとした顔でパウリーを見つめるしかない。
訳が分からない二人は、パウリーの隣でコーヒーを啜るルッチ(同じく最初から…以下略)にどういうことかと視線を向けるが彼は我関せずで知らん顔だ。

「パウリーもイチゴ食べたかったの?」

「そんなことでキレるとは大人げないのう」

見当違いの二人の台詞に思わずテーブルをぶん投げたくなったが、それをしてしまえばフランキーと同類になってしまう。
それだけは避けたいパウリーはぎりぎりのところで衝動をこらえた。

普段から天然なカクと、普段は周りが見えているのに恋愛事には鈍感なノエル。
この二人だから仕方ないのかもしれない。
ルッチが他人の振りをしてコーヒーを飲んでいるのも、指摘するだけ無駄だという思いがあるからだろう。
しかし、流石に我慢の限界というものがある。
パウリーは再び机を叩くと、二人を睨みつけて怒鳴った。

「お前らのバカップルぶりをどうにかしろって言ってんだよ!!」

「バカップル?」

「何のことじゃ?」

やはり意味が分からずに不思議そうな顔で首を傾げる二人。
そりゃそうだ。この二人にとっては昔からの習慣なのだから。


どう見てもバカップルとしか思えない二人の行為だが、これはノエルが少年だと思われていた時……つまり五年前からやっていたことだ。
本来ならば6歳差と年の離れた二人だが、腕の立つ船大工しかいない1番ドックの中には若者が少ないので割と年が近いということになる。
ノエルはカクを兄のように慕い、カクはノエル溺愛の船大工の中でも特にノエルを可愛がっていた。
そのせいか、やたらとスキンシップの多い二人だったが、当時は12歳と18歳。
特にノエルは実年齢よりも幼く見えたので兄弟のじゃれ合いのようで微笑ましかった。

しかし、五年の年月が過ぎた今も、まったく変わらずにべったりな二人。
本人たちは今まで通りと思っているのだろうが、見た目は年頃の男と女だ。
当時は微笑ましかったスキンシップも、今は恋人同士のいちゃいちゃにしか見えない。
二人きりの時なら勝手にしろ……とも言えないが、こうしてパウリーたちがいる時でもお構いなしなので非常に居心地が悪い。
本人たちは素でやっているところが余計に困るのだ。


「パウリー、変だよ?」

「借金取りに追われてノイローゼにでもなっとるのか?」

言いながら、先ほどのイチゴを摘んでノエルの顔の前に持ってくるカク。
ノエルは口を開けると、ごく自然にカクの手からイチゴを食べた。
もぐもぐと口を動かしながら、きょとんと見上げてくるノエルにパウリーの何かがキレた。


「だから、それを止めろって言ってんだろォーが!!」


「パフェがぁ!?」

「何するんじゃ、パウリー!?」


ついに我慢の限界が来て机を引っくり返すパウリー。
零れたパフェに悲鳴を上げるノエルに、突然のパウリーの行動に怒るカク。
客もウェイトレスも悲鳴を上げてその場から離れる。


「パウリーの馬鹿っ!」

「わしも我慢の限界じゃぞ!!」

「うるせェ!このバカップル!!」


船大工職長三人の大喧嘩が造船島のとあるカフェで始まった。


ロープやら彫刻刀やら椅子に机が吹っ飛ぶ中で、ルッチだけがコーヒーカップを手に優雅に椅子に座っている。
大分ぬるくなったコーヒーを一口啜り、無表情で呟いた。

『全員バカヤロウだ』


この後、三人には店舗の弁償とアイスバーグの叱責が待っている。
更に後日、パウリーがノエルと仲の良いカクに嫉妬してぶち切れたと噂になることを彼らはまだ知らなかった。

10/01/30

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