短編 | ナノ
漢字一字連想編【陽】: カク

「出来たな……」

「何とか納期に間に合ってよかったわい」

『ああ』

彼らの声を聞きながら、あたしはそのまま床に座り込んだ。

三ヶ月前から取り組んでいた船首がようやく出来上がったのだ。
今回のはいつもよりも時間が掛かった。
なんと言っても船首の注文が『鳳凰』。
納得のいく羽根の質感を出すのに今までにない苦労をした。
けど、苦労しただけあって……自分で言うのもなんだけどよく出来たと思う。

「上出来だ」

めったに褒めないパウリーの短い賛辞に、あたしは頬を紅潮させた。
ぽんぽんと頭を叩く手のひらに、不覚にも涙腺が緩む。
………本当に頑張ってよかった。

「ルルとタイルストンを呼んでくる。船に取り付けねェとな」

『道具を取ってくるッポー』

欠伸を噛み殺しながら部屋を出て行くパウリー。
ルッチは道具を取りに奥の部屋へと向かった。

「終わったー………」

鳳凰の船首を見つめて、安堵の溜息を吐く。
彫っている間はほとんど誰にも会わずに部屋に籠もり切りだったから、ようやくみんなの顔を見れるんだなと思ったら嬉しくなった。

「お疲れ様じゃな」

ふわりと頭に乗せられる温かい手。
カクが優しくあたしの頭を撫でてくれる。
その手に身を委ねているうちに、なんだかだんだん意識が遠く………。

「おっと」

そのまま床に倒れそうになったあたしをカクが支える。

「どうしたんじゃ?」

「ごめ……なんか……眠い……」

そう言えば彫る過程に入ってからはほとんど寝てなかったんだ。
彫ってない間も、ずっと彫刻と睨み合い。
ああ……お布団が恋しいよぅ……。

「寝てもいいんじゃよ。仕事はもう終わったんじゃから」

そうは言ってもまだ、船に船首を取り付けてないし。
みんな寝ないであたしの仕事が終わるのを待っててくれたのに、あたしだけ寝ちゃうわけにはいかない。
いかないんだけど………。
抱っこしてくれるカクの腕の中がすごく心地良くて、意識がどんどん吸い込まれていく。

寝ちゃ駄目だと思いながら、ぎゅうっとカクにしがみつく。
力を入れたら寝なくて済むかなって思ったんだけど………。
懐かしくて暖かいカクの匂いがして、余計に眠くなってきた。

なんだっけ、この匂い。
カクの匂いなのは確かなんだけど。
ああ、そうだ。これは……。



たいようのにおい




「カクっておひさまだったんだぁ……」
「ん?お日様がどうし――………なんじゃ、寝言か」

11/04/02

by群青三メートル手前

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