短編 | ナノ
漢字一字連想編【陽】: カク

「上っ!!」

空から落ちてくる木材を逸早く目にした紅一点である装飾・彫刻職の職長は叫ぶと同時に走り出した。
マストの上にいた船大工が手を滑らせ、手にしていた木材を落としてしまったようだ。
あの高さから落ちた2m以上もある木材が頭上に落ちてきたら、いくら頑丈な船大工達といえどひとたまりもない。

少女の叫びに反応して上を見上げた船大工達は慌ててその場から逃げるが、一人逃げ送れた船大工がその場にへたり込んでいる。
どうやら腰を抜かしてしまったようだ。

「っ!!」

唇を引き締めた少女は全速力で落下地点へと向かう。
彼女が到着すると同時に轟音が鳴り響き、落ちてきた木材が甲板を叩き壊した。

「おい!!」

「大丈夫か!?」

もうもうと煙が立つ甲板では二人の姿は見えない。
誰もが焦燥に包まれる中、

「げほげほっ!………あー、間に合ってよかった」

少女は逃げ遅れた船大工に肩を貸し、咳き込みながら姿を現した。
どうやら二人とも怪我もなく無事のようだ。

「す、すみません!俺っ――」

「いいよ、いいよ。びっくりすると、身体動かない時あるし。怪我がなくてよかったよ」

年下の職長に助けられ、恐縮する船大工に少女は笑顔で首を振る。
木材を落とした船大工も慌てて周囲に謝罪を繰り返す。
それもまた笑顔でフォローをする彼女に、背後からがばりと抱き着く影。

「どうしたんだよ、カク?」

青ざめたカクが、少女をぎゅうっと抱き締める。
少女は無言で自分を抱き締めるカクに苦笑を浮かべると、カクの腕の中でくるりと向きを変えて彼と向き直る。

「………何であんな無茶するんじゃ」

「無茶じゃないよ。ちゃんと助けられると思った」

「わしは心臓止まりそうじゃった」

「………大げさだなぁ、カクは。ほら、怪我もしてないし大丈夫だろ」

相手を安心させるように微笑んだ少女は青年の頭を撫でた。
何度も何度も。
彼が落ち着いて笑顔を見せるようになるまで。



いい子、いい子。




『完全に立場が逆転してるな』
「お前ら、いつまで引っ付いてんだ!さっさと修理急ぐぞ!!」

11/04/02

by群青三メートル手前

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