短編 | ナノ
冬のある日

「はくちん!!」

「うげ!」

「あ。ごめんな、パウリー」

盛大なくしゃみをしたノエル。
目の前に座っていたパウリーに鼻水と唾を飛ばしたために、謝りながらずるずると洟を啜った。

パウリーは葉巻の煙を溜息のように吐き出すと、服の袖で顔を拭う。
それから、ノエルの顔目掛けてちり紙を投げつけた。
ノエルは顔に当たる前にそれを受け取ると、パウリーに礼を言ってちーんと鼻をかむ。
ゴミ箱にちり紙を放り投げてから、自分の身を抱き締めてプルプルと震え出した。

「うう〜、寒いよぉ……」

季節は冬。
いくらウォーターセブンが春島といえど、季節が冬ならばわりと冷える。
そんな中、いつものツナギ一枚のノエルには寒さが堪えた。

それも仕方ない。
栄養失調寸前まで追い込まれた身体は体温が上がりにくく、常に34〜35度を彷徨う低体温症なのだ。

「そうか?」

「まだ、そんなに寒くないぞォ!!」

「冬でも上半身が裸のルルとタイルストンには言われたくない」

首を縮めたノエルは、冷めた目でルルとタイルストンを見つめる。
彼らは真冬でも夏と同じ格好で仕事をしている。
そんな人間に体感温度でどうこう言われたくはない。
しかし、よく見れば上半身裸でこそないものの、パウリーもカクもルッチも1年を通していつも同じ作業着だ。

「やだやだ。普通の感覚なのはオレだけかよ」

「てめェには船大工としての覚悟が足りねェんだよ」

「覚悟の問題?」

確かに仕事をしている最中は身体を動かしているのせいか寒さは気にならない。
けれど、こうして休憩中ともなると寒さが身にしみる。
動いて汗をかいた分、余計に身体が冷えてしまうのだ。
覚悟でどうにかなる問題ではない気がするが。

『これでも飲めッポー』

「ありがとー、ルッチ」

ルッチが渡してくれた温かいミルクを受け取る。
休憩室に置いてある飲み物はコーヒーかお茶だが、ノエルだけはミルクだ。
身長が伸びるからいいんじゃない?というノリでノエル専用に用意されている。

暖を取るようにマグカップを両手で包み、ミルク飲んでほぉっと一息ついてからノエルは隣に座るカクを見つめた。

「カクって夏は暑そうだけど、冬は暖かそうな格好だよな」

「そうかのう?」

「うん、あったかそう。………ねえ、オレのツナギと交換しない?」

「入るわけがなかろう」

妙な提案をするノエルに、カクは苦笑しながらノエルの額を突っつく。
カクの腰に届くか届かないかと言うほどに小さいノエルの服がカクに着れるわけもない。

ノエルは不服そうに頬を膨らませると、カクの襟のチャックを下ろす。
そして、カクの上着を捲り上げてその中に頭を突っ込んだ。

「ノエル、何をしとるんじゃ!くすぐったいわ!」

もぞもぞと服の中に入ってくるノエルに、くすぐったくて身を捩るカク。
ノエルはお構いなしに服の中に潜り込んでくると、襟からすぽんと顔を出す。

「ほら、入っただろ」

カクの顔の下で、あはと満足げに微笑むノエル。

入るわけがないのは逆の意味だ。
しかも、もはや交換ですらなくなっている。

そんなノエルに溜息をつくパウリーとルッチ。
ルルとタイルストンは二人羽織状態になっている二人を見てげらげらと笑っている。

「で、この格好でどうやって仕事をする気なんじゃ?」

「あれ?」

カクの質問にきょとんと首を傾げるノエル。
普段は冷静で大人びた言動が多いノエルだが、時折見せる年相応な無邪気さは相好が崩れるほどに愛らしい。

カクは小さな頭に顎を乗せると、小さく笑い声を零しながらノエルを抱き締めた。

10/01/08

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