「ビアンカさん、いつもので良いですか。」
有難う、と声を掛けると少し笑んで頷く蒼髪の彼女
貴女はわたしのことをうつくしいと言うけれど
わたしには 貴女の鮮やかなあおが目に痛いほど染みる
ワンピースの背中をぼんやりと眺めていると、微かに匂いだす紅茶
わたしたちの『いつもの』を他の人は知らない
わたしが恋い焦がれたあの人も知らない
猫舌のわたしを気遣ってか少しばかり冷まして適度な温度になっている紅茶を少々含むと、どことなく『いつもの』と違う香りが口中に漂う
「あれ?」
わたしが頭を傾げると、彼女は予想通りの反応に喜びをみせた
「やっぱり、いつもと少し変えてみましたわ。」
「へぇ…。」
子供っぽいとは思うけれど、私の一番好きな紅茶はミルクティーだ
ウバ、ヌワラエリヤ、キャンディ。旅した中で色々な紅茶を飲んできたけれど、一番単純で素直な味。だからまっすぐじんわりと心に染みる
「アーモンドミルクティーです。疲労回復に効果があると聞いたので。」
「ひろうかいふく?どうして」
「やはりお気付きにならなかったのね、最近…といっても会えるのはまちまちですけれど、なんだか調子が悪そうだったので。」
アーモンドの焦がれた香りに心まで擽られる気がする
焦がれる程に愛したはずのあの人への気持ちは行方不明で還ってくる気配がしない
「ビアンカ、さん?」
わたしの想い人
わたしは こんなに移り気する女だった?
いいえ、違う。違うと思いたい
だって あんなに待っていたのに
あの優しさに包まれた笑顔を
低くて心に響くあの声を
それなのにプロポーズの言葉が思い出せない
あの“あお”に捕らわれて
いつしか彼との旅は美しい思い出となり
いつしか子供たちはその結晶となり
貴女への想いだけが現在進行形
愛しているわ
ええ、愛していますとも、家族を
けれど。そこにあるのは暖かくて美しいものばかり
この雨に打たれたように冷たくて寒くていつ崩れ落ちてしまうか知り得ない瓦礫の上で在るような不安定なのに熱く燃えたぎる感情から抜け出せない
柔らかいフリージアが私を包んだ
「お願い」
「泣かないで、お願い…」
莫迦いわないでよ、泣いてないわ
貴女こそ、という言葉は嗚咽となって聞き取れない
囚われたのは お互い様
どういう場面なんだろう・・・
うーん。イメージ的には薄暗い寝ゲフンゲフンコ