日差しがほかほかと暖かかったものから茹だるような暑さに変わってしまった今日この頃。私は運動部が汗を流しながら部活動に勤しむ傍ら扇風機の回っている美術室でスケッチブックに向かっていた。秋にある展覧会に出展する作品をそろそろ描き始めなければならない。けれど一向に良い案が浮かばず部長と先生をハラハラさせている。

「(決めなあかんにしろあたしは描きたいって思わなええもんが描けへんし)」

自分の悪い所で気分屋と言うのがある。自覚はしているが中々直せないでいる。絵を描くのは好きだが美術の授業の様に誰かに決められたものを描くのは嫌いで、渋々描き始めても一週間ほどで飽きてしまう。描き上げたら描き上げたでほんまに美術部?って聞かれるくらい酷い。
私は鉛筆とスケッチブックを持って美術室を出る。美術室がわりと涼しかったのもあってドアを開けたら熱気が体に纏わりついてきて鬱陶しい。
気分転換といいデッサンのモデル探しが今回の目的。気分転換として美術室から出たものの、校舎からは出たくない。理由は暑いのと日に焼けたくないというもの。インドア派である私が美術室から出ただけでも誉めてほしい。

「あっつー…」

パタパタとワンピースタイプの制服の胸元を動かすけど大した冷却効果はない。目の前では野球部がせわしなく動き、練習に励んでいる。
野球部を描くのもありかなと思うけれど彼らの汗くささは正直描く気を失わせる。駄目だと野球部に背を向けて別のところに向かう。宛もなくフラフラと歩く私は端から見たらどうなんだろう。放浪癖のある千歳先輩みたいに…は見られたくないな。言い方は悪いがあんな見た目ちゃらんぽらんと一緒にしてほしくない。…すいません、別に千歳先輩が嫌いなわけじゃないんです。

「あっつー…」
「今まで美術室で凉んどった奴のいうことちゃうやろ」
「?!…ざ、財前君か。びっくりしたわ」

突然私の背後に現れたのは同じクラスの財前君。財前君はテニス部のユニフォームを着て、左腕には二つのリストバンド。どう見ても部活中の格好な財前君がどうして校舎にいるのかがわからない。

「どうしたん?今練習中なんちゃうの?」
「…ちょっと忘れもん取りに教室行こうとしただけや」
「さいですか…」

相変わらずの毒舌というか冷淡。こんな簡素な返事しかする気ないんやったら話しかけんなや。といつもの私なら言うだろうが、財前君は別枠だ。別にマゾとかそういうことではなく、ただ彼が私の片想いの相手で少しでも長く話していたいという、所謂乙女思考からくるものだ。
正直自分が乙女思考とか集会の度にある校長のギャクと同じくらい必要ない。けど結局財前君の前ではそれに陥ってしまうわけで、私はいつも後になってから後悔するのだ。

「…名字はなにしとったん…?」

え、と私は一瞬固まる。まさか財前君の方から話を振ってくるとは思わなかった。

「秋の展覧会に出す絵がな、まだ描くもん決まってなくて。何描こうか探しててん」

そして訪れる沈黙。わかってはいたけど!なにか返してくれてもいいんちゃうかな、財前君。じっと財前君が話すのを待っていたら財前君はふいっと窓の外に顔を向けた。

「…決まったん」
「へ?」
「せやから、描くもん決まったんかって聞いてんねんけど」

ぶっきらぼうにいう財前君。なんだかいつもよりきつい気がするのは気のせいかな。外から視線を外さないから財前君が何を思ってこんなことを聞いてくるのかわからない。目をみたところでわからない時はわからないのだけど。

「ううん。まだ…。ほんまに好いたもんしか上手く描けへんっていう悪癖があんねん。せやしなかなか決まらんねん」
「ふぅん……じゃあ俺描けば?」

why?財前君は一体何をおっしゃった?今私好きなものしか描けへんって言ったよな?なのに財前君を描けといってくるということは…バレてる…?

「え、え?」
「せやから、俺描けばええやんってゆうてんの。その耳は飾りか」
「それ、どういう…」

そう言うとはぁ、と盛大にため息をついた財前君。それからじっとこちらを見たまま目線を逸らさずに、一歩また一歩と近寄ってくる。逆に私は一歩ずつ後ろに下がる。しかし学校の校舎の廊下の幅なんて大してなくてすぐに壁に行き当たった。
とんっと財前君は私の顔の横に手をついて睨みをきかせてくる。なに?と聞こうとした口からは辛うじて最初の一文字か出てきただけだった。

「…俺好きになって俺描けばええやろ。俺以外の男なんかかかんでええねん」

な、何を言い出すんだこの男はっ!!財前君を好きになる?もう好きやけどなにか?!俺以外の男描かんでええって…なにそれ!!
あまりのことに私の頭の中はパニック状態。顔に出てないかなんて気にしたのはこれから数分後のことで、ある程度落ち着いてからだった。財前君とまともに会話したのなんて片手で足りる程度だから財前君の性格なんてしっかり把握してはいない。だからといっては可笑しいが、こんなことを言い出すんだと驚きを通り越して一人感心してしまった。しかしこれは告白か。告白なのか。自惚れてもし違ったのなら恥ずかしい限りだが、その時は紛らわしい言い方をした財前君のせいにしよう。

「えーと…それは、告白と自惚れても…?」
「…これで告白やないなんて思っとるん?」

質問を質問で返された!!
財前君は真っ赤な顔のまま私から視線を逸らさない。真っ赤なのは財前君だけではないだろう。頬がいつもより熱いのがその証拠だ。

「思わんけど…。自惚れになるやん。間違ってたら恥ずかしいし」
「間違っとらんから。…ちょっとは自惚れてもええやろ」

せやから、返事。と催促してくる財前君。自惚れろとか自分では言っている癖に不安そうな顔で見つめてくるから可笑しい。テニスの練習中もこんな顔しないのにね。

「…無理、かな」
「っ……そうか。悪いことしたな」

そういって体を翻し去っていこうとする財前君を慌てて私は止めた。
一体何の用やと口に出さず雰囲気で伝えてくる。その雰囲気に一瞬怯んだけど私はさっきの、財前君に遮られた言葉の続きを話した。

「財前君を今から好きになるんは無理やねん。やって…ずっと前から好きやってんもん」
「…は?」
「一番描きたいんは、一番好きなんは財前君や。せやけどそれはあたしの勝手な想いやら…今まで描けんかった。…財前君がええって言うなら、財前君を描かせてくださっ…!!」

全部言い終わる前に私の視界は黄色いものに変わった。なんてことはない財前君のジャージだ。なんてベタな少女漫画のような展開なんだろう。文芸部の友人はきっとつまらないと吐き捨てるようなテンプレートのシナリオ。
好まない展開だとしてもそれが財前君なら許せてしまう私は末期か。

「あほっ…。紛らわしいこと言わんでええねん。…描いとけ、俺だけを」

耳元で小さく好きやと呟かれまた体温が上がってしまった。それからどちらともなくキスをして笑いあった。


君だけを、描く

完成した四天宝寺テニス部の絵が展覧会で関東の友人の作品と並んで展示されたり、テニス部全員の練習風景を描いた絵を見て財前君が怒ったりするのはまだ私の白紙のキャンパスの中だ。




初四天!初財前です!関西圏に住んでいますが今時こんなキツイ関西弁誰も話しませんよ…。疲れた…。これ書くのに数日かかり、財前も夢主でさえもキャラが迷子と言うこの事態…もっと学ばないといけませんね。因みにこれ幸村中編と微妙にリンクさせてあるのでお楽しみに!










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