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タチウオのチャージャーは一般的にも見てかなり厄介だ。

ただそれは彼らの腕にもよりけりで、チャージャーの聖地であるようなこの場所、タチウオパーキングにはそれなりににわかチャージャーが多いのも事実である。

「…まぁ、俺達の部屋には来ないと思うけど」

呟きつつ、NーZAPの弾を次々と当てていく。長い間やってきただけあって、エイムは滅多な事がない限り乱れない。
続けざまに3人倒したところで、俺は周りを見回す。

エラレア達はいつもの勢いで前線に出て、ナワバリを広げている。裏取りされなければいいが、アイツらはしっかりしてるのであまり心配はしていない。
裏取り、という言葉が妙に引っ掛かった。

「残りの敵一人……まさか…!」

俺は急いで自陣に引き返す。高台の上を見ると、味方の初心者チャージャーがブキを構えていた。
マップを取り出して確認すると…そのチャージャーに向かって少しずつ進んでいく、裏取りの敵インク。

厄介なチャージャーは潰しておきたいというのは、誰もが考える事ではある。

大多数のチャージャーはそれを知っているからこそ、敵の裏取りには多少なりとも警戒はするのだが―何せ彼女は初心者だ。

間に合わない、と思った俺は即座にスーパージャンプの準備に切り替える。
着地狩りに対抗する手段として、サブのスプラッシュボムはそれなりに効果的ではあるが…それでもスパジャンは隙があるのであまり使いたくはない。

そのため最近は使用を控えていたのだが、今回は新しいクツを買ったので試してみたかった。

ステルスジャンプは着地の位置を知られない代わりにジャンプの速度が遅くなる。それがどんなものなのか…

「…なるほど。こんな感じか」

試してみたかったんだよな、と思いつつ俺は味方のチャージャーの横に着地。そのまま裏取りをしていた敵を倒す。間に合った。

「チャージャーはよく裏取られるから、気を付けた方がいいよ」

確かNって名前だった、チャージャーのガールに言うと…


「ありがとう」


彼女はそう言って、にこっと笑ったのだ。

その姿に、思わず息を飲んだ。

これまで彼女の表情が変わった所を見たことがなく、この子は何というか、バトルの事しか考えていないクールな職人タイプの子とばかり思い込んでいた。

だからこそ、ふんわりと笑ったその笑顔はあまりにも唐突で予想外で―言うなれば、不意討ちをされたようだったのだ。

それでいて、言葉にするのは少し恥ずかしいものがあるけれど………すごく可愛かった。

「どうかした?」

はっと我に還ると、彼女の表情からは先程の笑顔は消えていて、これまでの表情に戻っていた。

「あっ…いや、何でもない」

慌てて俺はその場を立ち去る。頬が痛くなるくらい熱く、自分の顔が朱に染まっているのがよく分かった。

その後も彼女とは何戦か一緒のチームになることはあったが、彼女が再び笑顔を見せることはなかった。

だけど、俺の中ではあの笑顔が目に焼きついて離れなくて。
彼女が開幕時にナイスをくれるようになった時には、嬉しさで一杯になっている自分がいた。

またあの笑顔が見れたら…と、密かに期待している自分に気付いたとき、俺達イカは享楽的である事が身に染みてよく分かることになった。

どうやら俺は―この初心者チャージャーに一目惚れをしてしまったらしい。






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