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口づけの魔法
ディスティニー
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沖田総悟とは、私と同じクラスにいる男の子だ。爽やかで整った顔立ち、さらに適度な筋肉のついた肉体からか銀魂高校だけでなくその周辺の学校の女の子たちから絶大な人気を得ている。しかし、それとは裏腹に性格は…




「春菜さん、ガム食いやすか?」

「あっ、ありがとう」


私が沖田くんの持っているガムを1枚取り出そうとしたとき、ビタンッと親指に黒いものが力強くぶつかった。


「いたっ……ギョエエエェェェェェェ!!!!!?????」

「普通そんなのひっかかりますかィ?」




黒いものはゴキブリだった。
よくある、ガムと虫のいたずらおもちゃであった。
そりゃ、ひっかかる私も私だけれども!
こんなやつとキッキキキキスだなんて……。



「絶対絶対ムリ!!!!」

「なにがムリアルカ?」

「めいちゃん、まだ体の調子悪い?」

「…いえ」



悪魔のいちごソフトから3日目のお昼。
昨日の帰り道にアイスクリーム屋のおじさんに余命宣告され、その解決方法はまさかの「沖田総悟とキスをしろ」。何故おじさんが沖田くんのことを知っているのか、しかも何でキスなのかとぐるぐる考えているうちにおじさんはアイスクリームワゴンごと消えていた。公園にはわたしひとりぼっちで座り込んでいたのである。もしかしておじさんと会ったのは夢だったんじゃないのか、さらにこの意味不明な視界も息苦しい体も全部全部夢でそのうち寝ている私の目が覚めるのではないかと考えたりした。しかし先程のガムのいたずらで強い痛みをちゃんと感じてしまったため、今が現実だと沖田くんから教えられた。

そして、今日も視界は不良である。椅子に座って机に手をついてもその手は見えない。正面を向いても視界の端に隣の席の土方くんは映らない。昨日まで白いもやより景色が見える範囲の方が広かったが、今は同じくらいになってしまった。明日にはもやのほうが大きくなるかもしれない。
体調も悪くなる一方である。胸の圧迫感は少し大きくなり、さらには左手が常に少し痺れるようになった。動くには動くし私の利き手は右だからまだよかったものの、このままでは両手が動かなくなるんじゃないかと恐ろしくなった。


「めいちゃん、やっぱり顔色悪いわよ。昨日も少し辛そうだったけど今日は尚更…」

「そんなことないよ〜」

「大丈夫アルカ?めいの手少し冷たいネ…」

「…ねぇこの前いっていたこと、目が変って」

「あーーあれは冗談だって!最近暑くなってきたからって寝るとき薄着してから風邪っぽくなったかも」

「本当アルカー?めいはアホアル!」

「神楽ちゃんには言われたくない!」


この状態を脱するにはやはり彼とキスするしかないのか。

神楽ちゃんや妙ちゃんには元気にみせているものの、私の気分はどん底であった。彼女たちもそれを少し感じているかもしれない。何度か私の体調を心配してくれていた。しかし、沖田くんにキスしてとお願いしても叶う可能性は確実にゼロだ。ただのクラスメイトというだけで、いたずらされることはあるもののまともに話したことは1度もない。私は食べ終わった弁当箱を片付けながら沖田くんのいる方向へと目を向けた。

そのとき、彼はちょうどひとりで教室を出ていった。もしかして、頼むならば今しかないかもしれない。無理なら無理で仕方がない、ダメ元で頼んでみようか。でもしてくれなかったら私は―。

悩んでも仕方がなかった。私は二人に「トイレに行ってくる」と告げて教室をでた。

沖田くんの背中は登り階段の方へと曲がる。次の授業をサボるつもりだろかと思いながら私は必死に追いかけた。階段を登り屋上のドアを開くと、初夏の青空を背に彼は手すりに寄りかかり気味の悪いアイマスクをしようとしてるところであった。爽やかな景色と気候が彼の醸し出す独特な雰囲気と相まって、まるで美しい絵画を白く濃い霧のなかから覗いているようであった。
沖田くんはそのままの体勢で私を見て口を開いた。


「春菜さんもサボるんですかィ。意外だねィ」

「ちっ違います!」

「ハハハ、なんで敬語なんでィ。変なの」


肩を揺らして笑う彼の姿は、何で人気があるか少し理解できるような気がした。私のぼやぼやな視界でもよく見えた。少し暖かくなり始めた風は彼の髪と私のスカートを少し揺らした。


「今日は今年で一番いい天気でさァ」

「そうだね。雲は少し多いみたいだけど」

「…は?」

「…私ね、沖田くんにちょっと頼みごとがあって」


私が急に真剣な顔になったからか、彼は少し驚いた表情をした。「なんでィ」と言いながらすぐにいつもの気だるげな顔に戻りはしたが、その瞳の奥はしっかりと私を見つめてくれていた。私の雰囲気、さっきの話す口調から重大なことであることを察してくれたのだろうか。何せ、私の生死に関わることである。意外にも真面目に聞いてくれそうな彼の態度に、私は少しだけ希望が見えた。


「あのね」

「…」

「……キスしてほしいの」


私がそう頼んだ瞬間、彼は元々大きな目をさらに大きくして「はぁ!?」言った。


「何いってるんでィ、テメー」

「待って待って、わけがあるの!聞いて!」


私はいちごソフトの件とそれからの自分の体の変化を彼に伝えた。お母さんにや神楽ちゃん、妙ちゃんに話したときよりも詳しく話した。彼は私の話を聞くのに比例して眉間に皺をよせてく。お願い、お願い。伝わって。じゃないと私は―。


「要するに、あんたは死にかけていて俺とキスすれば治るってことですかィ」

「そう、そう。だからお願い…」


私の話したことは理解してくれていた。私たちはあまり話したことないけれど、私が冗談を言ってないのは沖田くんもわかっているはず。私のことわかってくれているはず。頼みの綱は沖田くんしかいない。ファーストキスだけど死にはかえられない。

彼は息をひとつ吐き、再度私の目を見て話した。




「春菜さんがそんなヤツだったとはねィ」

「…どういうこと」

「漫画かアニメの見すぎじゃないですかィ。嘘つくならもっとましな嘘をつけ」

「ちがっ、嘘じゃなくて!」

「好きでもねぇ女とそんなことしたくねェ。あんたは良いクラスメイトだと思っていやしたが、失望しましたねィ」

「嘘じゃないって!!沖田くん聞いてよ!」


彼はその場から立ち上がり、私を見下ろして口を開いた。



「もう俺に話しかけるな、クソ女」



沖田くんが屋上のドアを力強く閉めたと同時に、午後一番の授業のチャイムがなった。


白いもやはさらに私の視界を侵食した。








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