お疲れ様じゃ、004。もう起き上がっていいぞ。 さて、どこか不調があるとか、困ったことはないかの?……うん?なんじゃ、言うてみぃ。 ……うん?マオじゃと? ふーむ、ワシから見たら、別段変ったこともないように思えるが。お前さんたち付き合っとるんじゃろう?……ふむ、なに?008と009にばかりなついてる? なるほど、確かに最近はべったりじゃな。今日も三人で出掛けたようだし。それで004はつまり、ヤキモチを――なんじゃ、そんなに力いっぱい否定せんでもいいじゃないか。 ……わかったわかった、今度マオにこっそりきいてやろう。それとなくな。はい、じゃあ行っていいぞ。 ……はぁ。ワシはサイボーグ研究以外のことはからしきなんだがなぁ。 さてマオ、座りなさい。紅茶でも飲むかね?……なに、ホットミルク?砂糖たっぷりじゃな。はいはい。 さてと、今回呼びだしたのはじゃな。えーと、そう。身体のメンテナンスだけじゃなくて、心のケアも必要かと思うてな。皆にカウンセリングをしとる。 マオは、最近なにか変わったことはないかな?008や009と、楽しそうに遊んどるようじゃが。 ……ん、なに?004の誕生日? そうか、しまった。もうすぐだったな。それで008と009に相談を?なるほど。 ……困ったのぅ、004になんと言えば……いやいや、こっちの話じゃ。 じゃが、あまり長いこと外をぶらつくんじゃないぞ。……え、プレゼントが決まらない?なにがいいかじゃと? うーむ、困ったわい。ワシはあまり、プレゼントを渡したり、もらったりという経験がなくてな。まさに研究が恋人という感じで……こら、笑うんじゃないわい。 …うむ。ワシもなにか考えておこう。……ん?大丈夫じゃ、秘密にするとも。では、お疲れ様。 008、まぁ座ってくれ。 ああ、いつものメンテナンスではないんじゃ。ちょっとばかし聞きたいことがあってのぅ。 最近、マオを連れて街へ出掛けているようじゃが……ああ大丈夫じゃ、マオから聞いとるよ。004の誕生日プレゼントを探しとるんじゃろ? じゃがなぁ、当の本人が、マオが君らと出掛けるもんじゃから、その……拗ねておっての。本当のことを教えてやるわけにもいかんし、どうしたものかと……。 もう少し外出を控えることは…… えっ、な、なに? 009が?マオのことを!? ……し、知らんだわい……彼はてっきり……いや、いい。 それで?……ふむ、横取りするつもりはないんじゃな。プレゼント選びを口実に、せめて一緒に遊びに行きたいと。 ははぁ、君は009に相談を持ち掛けられて、こっそり協力しとるわけだな。ふーむ……。 ありがとう008。もう行っていいぞ。 ……ややこしいことになってきたわい。 おお、待っていたぞ009。すまんな、出掛け前に。 実はな、マオのことなんじゃが……その、好きなのかね?……危ないっ! 落ちつきなさい009、なにも椅子から落ちることないじゃろうが。深呼吸して……そうそう。 え?…あ、いやなに、そうじゃないかなと前から思っとったんじゃ。そんなにあからさまだったかじゃと?いや、大丈夫じゃ。ワシも知ったのはつい最近じゃ。 ……マオのどこを?……ふむ、子犬みたいで可愛いと。わからんでもないな。 なに、004と付き合いだす前から?ふーむ、009は奥手なんじゃな。 ちがう?……ふむ、004のことを楽しそうに話すマオが好き、と。確かにの。女の子というモンは、恋しとるときが一番輝いとる。 ……なに、プレゼントが決まりそうなのか?……楽しかった、か。そうか、そうか。もう吹っ切れとるんじゃな、君は。 それで、プレゼントは何に?……秘密?なら、ワシも当日まで楽しみにしておるかの。 004、誕生日おめでとう。すまんのぅ、こんな日に呼び出して。 ……ふむ、なんだか晴れやかな顔をしとるの。マオから全部聞いたのか?…それは良かった。なにをもらったんじゃ? お、見せてくれるのか。……ほう、腕時計か!そういえば少し前に壊れたと言っておったか。良かったのぅ。 うむ?009からも?……上等なワインじゃないか。…おや、メッセージカードが。日本語じゃな……。 …………。 ………………。 い、いやっ!うむ!なんでもないんじゃ。お前さんはこのカードを読んで……?あ、ああ、読めないのか。よかっ…いや、うむ。 いや、その、うむ。もちろん、日本語でハッピーバースデーじゃ。 「アルベルトー!ギルモア博士ー!まだ終わらないの?シャンパン開けちゃうよ〜!」 ひょっこりと顔を出したのはマオだった。 今にもわんわんと尻尾を振りそうな勢いで004の背中に抱きつくと、「御馳走も待ってるよ!」と甘えてみせる。 「まぁ、もうちょっと待て。俺は盛大に待たされたんだからな」 「まぁだ拗ねてるの?全部ご主人様のためですー!マオ犬はもう一分も待てません!お腹空いたよ〜」 004はそんなマオの頭をくしゃくしゃと撫でて立ち上がった。 「じゃあ行くか。博士も行きましょう」 「う、うむ。ワシはもう少しだけやることがあるから、お前達は先に行ってなさい」 キャッキャとじゃれあいながら出ていく背中を見送って、ギルモアはふぅとため息。 手の中には返しそびれたメッセージカードがあった。そっと引き出しを開ける。 『祝還暦』という嫌がらせにも近い祝い文句は、書類と書類の間に封印された。 ……全然、吹っ切れておらんじゃないか。 ワシはどこにカウンセリングに行ったら良いんだろう。ギルモアはそっと涙を拭った。 back |