「で?」

コンロは真っ白だった。水を吸ったティッシュがぐちゃぐちゃと付着して目も当てられない有様である。
憐れなコンロの前で、しおしおと顔を伏せているのがマオだった。

「ホ、あの、ホットミルクを作ろうとして…」

急に飲みたくなったのだとマオは言い訳した。

「ほう」
「あれってミルク温めて砂糖入れればいいんでしょ?で、やったんだけど、ええと」
「言ってみろ」
「沸騰して」

だろうな、とアルベルトはため息をつく。

吹き零れた牛乳に驚いて、そばにあったティッシュを被せたものの、熱くて触れない。
とにかく火を止めて、零れた牛乳が冷めるのを待っていたら、カピカピになった挙句アルベルトに見つかった、と。こんな所だろう。

普段台所に立たない奴が無謀なことをするからこんなことになるのだ。
それにしても、ホットミルクひとつ作れないとは。アルベルトは教育方針の見直しを検討した。

「いいか」

アルベルトはとりあえず、鍋をどかして台拭きを絞った。マオに手伝わせて、その合間に説教……もといアドバイスをしてやる。

「牛乳はすごい勢いで吹き零れるんだ。60度くらいの弱火でとろとろ温めたほうがいい」
「うん、うん」
「どうしても急いで作りたいなら強火でもいいが、目を離すな」
「わかった」

ちゃきちゃきと掃除して鍋も洗いなおす。
軽く水を拭きとった鍋に再び牛乳を投入して、見ててやるからやってみろ、と再戦を促した。

「お母さん」
「誰がお母さんだ」
「アルベルト」
「なんだ」

マオはオカン属性の人間にだけ効果をもたらす、秘儀『子犬の目』を発動した。

「実演して」


かくしてアルベルトはまんまとホットミルクを作らされる羽目となった。
通りすがったグレートが「吾輩も」なんて、カップ片手にニヤニヤと後ろに並んだのが憎らしい。


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