これまでのあらすじ
なんと004が子供の姿になってしまった!だが安心してくれ、三日後には元に戻るぞ!

というわけで絶賛猫可愛がりされていた。

「こっち向いてこっち…やぁぁんムスッとした顔も可愛い!」

連写モードのためカシャシャシャッと数珠繋ぎのようにシャッターがおりる。フレームの中には、銀の髪に薄い瞳の美少年。不機嫌そうな顔がまた愛らしい。

「いい加減にしろ。カメラはもう十分だろ」
「うふふ〜たっぷり撮らせて頂きました!あぁそれにしても可愛いなぁ」

004はおよそ、7〜9歳ほどの少年に若返っていた。今は仕方なしに普段の服の裾を折り曲げて使っている。たった三日間のためだけに服を購入するのも馬鹿らしく、明日明後日も持ち前の普段着を着る予定だ。

「ねぇ抱っこさせて」
「断る」

溶けたバターみたいな顔をしながら伸ばされたマオの腕を巧みにかわした。身体は子供でも中身はいつも通りなのだ。
だがマオも、今後二度とないであろう状況を逃すまいと必死だった。

「ねーお願い!元に戻ったらなんでも言うこと聞いてあげるから」
「………」

004が揺れる。

「なんでも?」
「なんでも、なんでも。ただし一回だけね。あとえっちなお願いはナシね」
「なんでもじゃないじゃないか」
「えっ、なに、えっちなお願いしたかったの?」
「………」

あくまで候補に含んでいただけだ。それひとつが目的ではないから誤解するな。

「……5分だけだからな」
「やった!」

早速脇の下に手が差し入れられる。マオの膝がズシリと沈んだ。

「お、おも」
「当たり前だ。ガキっていってもそれなりの重量はある」
「いやそれにしても…」

一皮剥けば機械なので、同年代の子供に比べれば充分に重かった。ボディの軽量化は変わらぬ目標のひとつである。

よいしょ、と気合いがかった声とともに完全に抱き上げられた。
幼い004の白い頬や利発的な瞳がぐんと近くなって、マオの顔はまた、瞬く間にでろんと蕩けるのだった。

「はぁぁ。あの004も20年前はこんなに可愛かったんだねぇ。いや60年前か」
「悪かったな、普段から可愛げもなくて」

小さくなってもムスリと無愛想な顔は変わらなかった。
いっそ記憶まで退化出来たら思い切り甘えられただろうか。いや、それはそれで元に戻ったときに羞恥で死にたくなる。現状がギリ妥協点だ。

マオは004を抱いたまま室内をぐるぐると散歩した。
自分のものではないリズムで視界が揺れ、なんとも懐かしいような不思議な感覚に陥る。
ぽすんと肩口に顎を乗せてやれば、首がくすぐったいよと笑い声が降ってきた。

「ほんと、たまにはね、甘やかさせてよね」
「………ふん」

ポンポンと背中を叩かれてはいよいよ子供扱いだ。
だが精神というものは容れ物に左右されるのかも知れない。視界が変わり、感覚が変わり、手足が頼りなくてどこかにすがりたかったのも事実だった。

眠気を誘うようなひとときの中、マオが銀の小さな頭に頬擦りする。

「戻ったらデートしようね。元の004じゃなきゃ似合わないような格好良いタキシード着て、お洒落なレストランに行くの」

実は誘うタイミングを見計らっていたのだと笑った。

「…悪くないな」

抱っこされている状態でのやりとりが多少滑稽ではあったが、あと3分40秒、約束したのでこのままだ。


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