彼女の話す言葉はちょっと訛っている。

「ジョー喉かわいとらん?アイスコーヒーいれよか?」

関西弁かと思ったら、彼女曰わく『大阪・京都・名古屋が混ざっためちゃくちゃ方言』、なのだそうだ。いつだったか彼女は笑いながら、

『標準語で“家に来ない?”って誘うときな、大阪は“こうへん?”京都は“きぃひん?”名古屋は“こやん?”なんさ。うちは“こやへん?”って言う』

と分かりやすい例を教えてくれたが、どれにしろ方言を聞くとちょっと驚くというのが本音だった。

「はい。シロップ一個でいい?」
「うん、ありがとう」

冷えたコーヒーを受け取る。彼女は自分の分も用意したようで、隣に腰掛けてくつろぎモードに入る。

「うちはシロップ半分しか使わんな。…あ、電話や」

彼女はミルクとシロップ半分が投入されたグラスを僕のほうに押しやった。

「からくっといて」
「えっ」

からく…え?

彼女はパタパタと電話を取りに行ってしまった。
ぽつんと残された僕は訳が分からずに、ミルクがじわじわと沈澱していく様をただただ見守っていた。

グラスの氷が半分溶けた頃にようやく彼女は帰ってきた。
言葉の意味を問うと、彼女は笑いながら教えてくれた。

「かき混ぜるって意味や。氷をカラカラカラ〜って混ぜるから、から繰る」

やと思うよ。ごめんうちもよく分からへんわ、と最後に付け加えられた。

あまりに気になったのでインターネットで調べたら、伊勢の古い方言らしかった。

「…博士、方言辞書をデータ化して補助脳に入れてくれませんか」

ついにそう提案した僕に、博士は目を丸くして「検討しよう」と言ってくれた。


back