「巣立ちならぬチィ立ちを、しようと思います」

信じられない、と驚愕に染まりあがった顔をしたのは張々湖だった。

「ど、どういう事アルか!?」

小さな身体でぴょんと跳ね上がり、相手の肩を掴んで引き降ろす。身長差があるため、お互いちょっと苦しそうな体勢が出来上がり、しかしそんなことは気にしていられないとばかりに張々湖はただただ唾を飛ばした。

「わての手料理そんなに不味かったかネ!?嫌いなもの入れてしまったか!?でも好き嫌いよくないヨ!」
「チィ、そうじゃないの。そうじゃないのよ…!」

ちなみにチィというのは張々湖の愛称だ。「ちゃんちゃんこ」と呼ぶには長すぎるからそう呼んでいる。

「美味しすぎて、食べすぎちゃうのよ…!」

くっ、と彼女は胸――ではなく腹を押さえた。行き場を失った栄養がそこで脂肪として生まれ変わりつつあった。

今朝入らなかったスカートが脳裏に蘇る。
可愛かったのに。数少ないお洒落着だったのに。たまに履くとこうした辛い現実に直面する。

「だからね、暫くチィのご飯は我慢しようって…私、私……」
「そ、そんなことを悩んでいたアルか…!」
「だって、だって…!」

ついに座り込んだ肥満予備軍の肩を、張々湖がそっと抱いた。

「そういうことならワテ、ダイエット用のメニュー頑張って考えるヨ。それなら食べられるネ?」
「で、でも…そんな面倒なこと…」

全員の食事をダイエット用には出来ないから、一人だけ別メニューということになる。
しかし張々湖は自信を持って胸をたたいた。

「美味しいご飯食べてもらうのがワテの幸せヨ。食べたくないなんて悲しいこと言ってほしくないネ。お願いヨ!」
「チィ…!ありがとう、大好き!チィのご飯もチィも好き!」
「分かってくれたアルか!嬉しいヨ!」
「チィ!」


―――というやりとりは、実はもう4回目だったりする。
キラキラと涙を零し合う2人を、みんなが見ていた。

「一度は痩せるけど、安心してまた食べて…って繰り返しだよな。学習しねぇ」
「駄目よそんなこと言っちゃ。2人とも本気で頑張ってるんだから」
「そうなのか?二回目あたりからあれは漫才なんだと俺は思っていたが」

ジェット、フランソワーズ、アルベルトと続いて、最後にジョーが場を締めくくった。

「ま、結局犬も喰わないってやつだよね」


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