「お前はいつも絵を描いているな」 「うん」 「なんの絵を?」 「その日によって違うの。今日はアレ」 アレ、と、壁にかけられたカレンダーの、花畑の写真を鉛筆で指し示した。 「写真の模写ばかりだけどね」 実物を拝める機会はなかなかないから。 前に外に出たのは一週間前。青い丸を振ってある。といっても本当に「外に出た」だけで、5分で終わってしまうような外出。 たまにすごく調子がよくて、遠くへ出掛けることがある。その日は赤を使う。赤い丸はカレンダーを二枚ほど遡らないと見つからない。 「もっとお出掛けしたいけど、しょうがないね、こんな体だもん」 「…………」 次の日、ジェロニモは一輪の花を摘んで来た。 「それを描くといい」 「…ありがとう。綺麗だね」 ピンクの小さな花を模写して、枕元に飾った。 「俺に持ってこれるものなら、なんでももってくる」 「なんでも?」 「なんでも。…いや、玄関を通る大きさまでだな…」 「ふふ」 言葉通り、彼は毎日様々なものを持ってきた。植物だったりオモチャだったりした。綺麗な人形を持ってきた日もあった。 それを日記のように毎日スケッチブックに描き写した。 しかしそのうち、起き上がるのも困難になってきた。体は自分が思った以上にボロボロらしかった。 「俺が持っていてやる」 ジェロニモはそう言って、クマのぬいぐるみを目の前に掲げてくれた。その日はクマと彼の手を描いた。 それからは横たわるだけの毎日が続いた。 「明日は何がいい」 部屋は彼の思いやりと、それを描いたスケッチブックであふれかえっていた。 「明日はジェロニモを描くよ」 「俺を?」 「うん」 「出来たら見せてくれるか」 そういえば今まで、絵を彼に見せたことはなかった。見せてと言われたことがなかったので見せなかっただけの話だ。 「…他のページは見ちゃ駄目だからね」 手から腕へ、腕から体へ。 今となっては彼がメインとなっているスケッチブックを、ぱたりと閉じた。 (貴方さえ来てくれたらそれでいいの) back |