「お前もうすぐテスト期間だろ。ちゃんと勉強してるのか?」

家を出ようとしたら004が唐突にそんなことを言いだした。完全に母ちゃんだった。

「し、してるよぉ」
「ほう?」

目が泳いだかも知れない。意味もなく制服の裾を弄る。
袖のボタンが少し緩んでいたのでそろそろ取れるかも知れない。そうなったら直してくれるのは自分でも003でもなく目の前のドイツ人だった。私の服に関しては何故かそういうシステムになっていた。

「ちょっと鞄の中見みせてみろ」
「あっ!」

言うが早いか、玄関にどさりと置かれていたスポーツバックを開けられてしまった。
私は靴を履いている途中だったので反応が遅れた。

鞄の中には筆箱と弁当とジャンプだけが入っていた。

「お前は部活に明け暮れる野球男児か!」
「ちがうもん華の女子高校生だもん!」
「うるせぇ教科書まるごと学校に置きっぱなしにしやがって!今日こそ持って帰ってこいよ、勉強だ!寝かせねぇからな!」
「いやー!なんか破廉恥なこと言ってくるんですけど!つか学校行かせてよ遅刻する!」

遅刻する、の単語に004は理性を取り戻したようだった。
「行って来い」と背中を押される。

まったく、004に学校関係の話を振ると、やれ勉強だやれ教育だと言いだすからたまったものじゃない。
父兄参観や三者面談の日に同級生に対し鼻が高くなるくらいしか良い思い出がない。

「いってきまぁす」

帰ったら監視付きで勉強か。気が重い。

はぁとため息をついた私に気付いたのか、004が仕方ないなという風に腰に手をあてる。

「…スイートポテト作ってやるから早く帰ってこい」
「! 寄り道しない!」

料理なんてちっともできなかったくせに、ある日を境にジャガイモや芋関係の料理に凝り始めた004の腕はなかなかのものだった。
特にスイートポテトは美味しい。好物だった。

「ちゃんと勉強するならテスト期間中毎日つくってやる。頑張れるか?」
「うんっ!うんっ!行ってくる!」

食いつくに決まっていた。
たまにしか作ってくれない好物のお菓子が毎日。「何点取れたらご褒美に」じゃなくて「頑張るなら毎日」。

絶対だからね、約束だからね!と何度も振り返りながら家を出た。
ウキウキと2つ目の交差点に差し掛かったところでやっと、あれこれって食べ物に釣られてる?と気付いたのだった。


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