「俺はな、車の運転ってモンは嫌いだ」 知っていた。しかも日本車となると更に嫌がる。ハンドルが逆だからだ。ジェットの豆知識、その1。 「バイクならいいけどよぉ。こんな屋根のついた車、狭っくるしい」 それも知っていた。豆知識その2、彼は狭い場所が好きではない。 解放感があれば問題ないので、屋根のないオープンカーだったら機嫌がいい、というのもポイントだ。 「ジェットの場合、飛んだほうが早いしね」 「だろ、そうだろ」 理解を示すと嬉しそうに頷いた。 「でもね、今回はジェットが悪いんだからね。我慢してよ」 「わぁってるよ。俺だってわざとじゃねぇんだから、文句くらい言っても良いだろうがよ」 確かにわざとではなかった。ただ余所見は良くないと思った。 余所見をするもんだから、着地場所を間違えてうっかり車のボンネットを焦がしてしまったりするのである。 アルベルトが丁寧に洗車して、外に出して乾かしていた皆のオープンカーは、なんとも哀れな姿になってしまった。いまはジェットの実費で修理に出しており、これはその代車である。 運転するジェットは、先程からぶつぶつ小言を漏らしていた。 「まぁたまには良いんじゃない。日本車を運転する機会なんて滅多にないでしょ」 「そんな機会いらねぇー」 「あっコンビニ寄って」 「へいへい」 交差点の角にあったコンビニに立ち寄る。 混みあう時間帯なのか車が多い。ちょうど空いた場所にバックで駐車していると、すぐそばから「キャーッ」という子供の雄たけびが聞こえた。慌ててブレーキを踏む。 「今ガキでも轢いたか?」 「まだ轢いてない」 すぐ後ろを子供がおおはしゃぎで走りぬけていった。少し離れた場所から「危ないでしょ!」と注意を促す声が届く。 怒られて立ち止った子供に追いついた母親が、こちらに頭を下げた。 「車のそばを走っちゃだめ。お兄さんたちにごめんなさいは?」 「ごめんなさぁい」 素直に謝る姿が微笑ましい。いいよ、という意味を込めて手を振ってやる。 母親と手をつないでキャッキャとコンビニに入って行く後姿を見つめて、ジェットはニヤッと笑った。 「いいねぇ子供。俺達もつくる?」 豆知識その3。彼は案外子供好き。 「借金完済してからね」 「……やっぱもう暫く先で」 豆知識ラスト。彼は今回の修理費を私に借金している。しばらくは私のいいなりだった。さて、なにをしてもらおうかな。 まずはアイスでも買ってもらおう。 (でも、一緒にたべようね) back |