ちょっと整理をしようと引き出しの奥を探ったところ、あることすら忘れていた懐かしい玩具が出てきた。透き通った海にイルカが泳ぐジグソーパズルだった。

箱の側面には「300」という初心者向けの数字が記されている。肝心の中身はというと、引き出しの中のそこここに散らばっていた。かき集めるついでに、片付けをほったらかして組み立てることにする。

パチリ、パチリと小気味いい音を放って組み合わさっていくパズルにいつしか夢中になって、やっと手を止めた頃にはパズルはほぼ完成していた。

「一個足りない」

うまい具合にイルカの目の部分が抜けているのだった。
引き出しを全部ひっくり返してもピースは見つからなかった。


「ふぅむ、我が輩なら足りないピースに変身出来たのに」

いきさつを話したら、グレートは茶化したように笑った。

「もう崩しちゃったよ」

パズルは既に元在った引き出しの奥だ。ただし、次はもうバラけないようにと大きなゴムで箱を固めた。
グレートは紅茶を優雅にあおってウインクをしてみせた。

「次があれば呼んでくれたまえ。グレート・ブリテン、世紀の大イリュージョンを御披露目しよう」

頷いておいたが、例え次があったって呼ばないだろうと思っていた。
だってそうして完成したパズルを額に入れて飾ったところで、今度はグレートが居ないではないか。グレートの代わりができる人はいない。

あのパズルは、本来のピースが見つかりでもしない限りあのままでいいのだ。
グレートもきっとピースのひとつで、彼が欠けたところはまた穴があいてしまうんだ。

「早く目の部分見つけてあげなきゃね」

貴方は貴方でいいんだと、その一言が言えずに私は曖昧に笑った。


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