※男主人公


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前々から気付いていたことであるが、自分がふと顔に落ちる黒髪に気付き「伸びてきたなぁ」と摘む度、視界の端に写るフランソワーズが羨ましそうな顔でこちらを見るのである。

オレの髪は放っておけば伸びる。伸びるから切るだけだ。
だが彼女はオレと違い人口毛であるため、その必要がない。…必要がない、というのは男目線の表現なのかも知れない。女の子なのだから、叶うならば伸ばしたり切ったりしてお洒落したいと思うのが自然なのかも知れなかった。

だからフランソワーズが可愛らしいピンやもこもこした布(あとで知ったのだがあれはシュシュというらしい)を取り出してきた時は、せめて結ったり編んだりで髪形に変化をつけようといういじらしさであろうと思ったし、年相応に着飾る彼女(この場合生まれた年とかを換算してはいけないのだ、決して)を見てみたい、と期待に胸を膨らませたものだった。

「お願いがあるんだけど」

それなのに彼女は櫛や飾りを片手に自分に話しかけてくる。

「一度でいいの。貴方の髪、結ってみたいの」

なんと。

「オレは男だが」
「知ってるわ」
「なら聞くが……それは楽しいのだろうか?その、そういう飾りものは女の子のものだろう?こんな無骨な男を飾ってもだな」
「楽しいわ、きっと、すごく!」
「そうだろうか」
「そうよ!だってずっと思ってたの。貴方の髪、黒くてサラサラで、たっぷりしてて、まるで日本人形みたい!」

褒めているらしかった。
そこで気付いた。彼女はお洒落したくて、羨ましくて自分を見ていたのではない。ただ純粋にお人形の着せ替えがしたかったのだ。

この場合、理解しがたいことではあるが、間違いなく、お人形=オレである。メンバー内では若者に分類されるが、それでもそれなりに年を食ってきた男のオレが。お人形。

「ね、駄目?」
「いや、その…。そんなピンクやら水玉やらの可愛いモノをだなぁ…」

オレに取り付けるというのか。似合わないだろう。…似合ったら怖いだろう。
そして何より可愛らしく着飾る趣味などオレにはない。

「お願い…」

それでも美女のお願いには弱いのが、男というものだった。




「……あー……」

暫くしてリビングに顔を出したのはアルベルトで、愉快になったオレの頭部を見、ニコニコしているフランソワーズを見、一応の事態を把握したが、彼女を責めることも、オレを笑うことも出来ず、

「似合ってる…んじゃないか…?」

フォローになってないフォローでオレの胸を刺して去って行った。


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