BL番外編
風紀組がしりとりをする話
「しりとり、り! りんご!」
「…ごますり」

 発端は俺の一言だった。見回りも終わった俺たちは暇を持て余していた。委員長と副委員長は最後の見回りの組みが帰ってくるまで風紀室で待たねばならないのだが、書類も片付いてしまい、やることがなかったのだ。

「暇だなー」
「…さっきからヒマヒマうるっせぇな。しりとりでもしとけや」

 顔をしかめた二村に切り捨てられた青は、しりとりかぁ、と前向きな反応を示す。そういえば、と思い至り、つとぼやく。

「……俺、しりとりやったことないなぁ」

 そして、今に至るという訳だ。
 青、神谷、二村、橙、俺の順である。二村はやらないと散々拒否した割に神谷の「ごますり」に続くものを一生懸命考えているようである。

「リス」
「すき」

 隙か……。えっと、きだから……。

「協調投資」
「し、シグマ!」
「……まり」

 神谷は本を片手にさらりと答える。二村はゲ、と呟くとまた考えはじめる。

「リーダー」
「あい」

 なるほど、長音は母音として扱うのか。えーっと次は、iだから『い』か……。

「インシュアテック」
「蜘蛛」
「も、森」
「テッメェさっきから『り』ばっか狙いやがって……」

 二村は不機嫌そうに鼻を鳴らす。なるほどな、そういう勝負の仕方もあるのか。

「陸」
「苦しいほどに愛してる」

 ……ん?

「……セリフってありなのか」

 青に聞く。青はうーんと唸った後、ありにしようか、と答える。

「じゃあ『る』だろ……?」
「オイ待てやアホかこのダボ!」

 とん、と俺の頭に軽くチョップを置く。(チョップを『入れる』と言うべきなのだろうが優しすぎて『置く』の方がどう考えても適切だった。)

 息巻く二村になんだ、と問うも、「なんだじゃねーだろうがッ」と怒られる。

「お前! 漆畑! こいつさっきからずっと好きだの愛だの甘ったるいことばっかほざきやがると思ってたら遂にセリフか! アホか! こんの脳内お花畑が!」
「……自分が言えないからって抜かすなチンピラ」
「言えねぇ云々以前にルール違反だろうがッ」
「許可出たし」

 ハンッと鼻で笑う橙に、二村はますますいきりたつ。そろそろ宥めるかと二人の間に入る。

「まぁまぁ、気にすんな。それより『る』だろ? えーっと」
「お前は気にしなさすぎな!! 気にしろ!!」
「あ、ルックイースト政策」
「聞けや!!!」

 何に怒ってるかいまいちピンとこないので、とりあえず二村の頭を撫でておく。二村は不満そうな顔をしつつも押し黙った。じっとりとした視線を感じ、ちらりと周囲を見る。

「……なんだよ。次青だろ。『く』だぞ」
「クソ羨ましい」
「……居残り」
「一人本音漏れてンぞ…」

 ぐったりとソファにもたれる二村。り、り……呟く声に、リーマンショックとかどうだ、と勧める。

「赤、経済用語縛りしてるのか?」
「ビンゴ」

 言い当てた青にぴん、と親指を立てる。笑って構えられた手のひらにいぇーいとハイタッチ。

「よし、リリース」
「好き」
「……さっきも言ってなかったか?」

 ノータイムで言う橙に呆れつつ指摘する。

「さっきのは隙間の方の『すき』だから」
「ん、あー、そっか」
「おい騙されんな、こいつ両方とも『好き』だぞ」

 二村の言葉に橙は口角を上げ嘲笑う。……ま、いいや。証明のしようがないし。

「き、機能別組織」
「き〜、き、キツツキ」
「き、きこり」
「り……リユース」
「好き好き大好き」
「また『き』か……」

 ふむ、と考え込むと青がいや、と口を挟む。二村はそうだろうと頷き同意を示す。

「さすがにこれはアウトだろう。好きはさっきも言ってたし」
「そうだけどそうじゃねぇんだよなぁ……」

 項垂れる二村。どうやら思っていた方向性と違ったようである。

「そっか、じゃあ橙、言い直してくれ」
「愛してる」
「違うそうじゃない」

 誰が告白しなおせと言った。橙のことだから俺が何を言いたいか理解した上でわざと告白しなおしたのだろう。全くもってタチが悪い。

「好き……こそものの上手なれ」
「レート」
「橙だけじゃなく俺にも構って」
「手毬」
「り攻めやめろ……リサイクル」

 橙の番だと視線を送る。ばちり、目が合う。橙はふ、と無表情を和らげ俺の顎先を摘む。

「Look me.」

 はぁ、と俯き溜息を吐く。ガシガシと頭をかき、もう一度視線を合わせる。にこり、笑い言い放つ。

「み、か、ん!!! 終わり!!! もうやらん!!」
「えええ!!!!」
「うるせぇー!!! 順番が来るたび口説かれるとか照れ臭くてやってられるか!!!」
「お前あれで照れてたのかよ!!」
「そりゃ俺だって多少は照れるわ!!!!」

 わぁわぁと大声の飛び交う風紀室のドアが控えめに開かれる。

「……あの、これなんの騒ぎですか」
「なーんもないなんもない。見回りお疲れ様ー」

 困惑顔の一年生を迎え入れる。ハテナマークを浮かべる後輩から見回りの報告を受ける。後ろでは相変わらずわぁわぁと言い争う声。うるせぇ、と一括し、また溜息を吐く。しりとりは当分やりたくない。



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