「じゃあ、次は二位。二村菖さん」
呼ぶと強面のお兄さんが登場する。ただ霊が纏わりついていない分、怖さはさほどない。
「二位おめでとうございます。前回から一個順位が上がったとか」
「……あぁ」
さんきゅ、と顔を背けながら言われる。照れ……てる?? 寄せられた好きなところリストに目を通し、なるほどなと独りごちる。言われてる理由が分かった気がする。
「じゃ、好きなとこ読み上げますよ」
かっこいい。かわいい、強い、色んな物がつまってる。
ちょっと可愛いところ
なんだかんだいって由ちゃんにベタ惚れなところ
意外といいやつ。。
「〜〜〜〜ッ」
「すごいダメージ受けてますけど……。大丈夫ですか」
「大丈夫じゃねぇ……」
「第一回の時にもかわいいと言われたらしいですが……いや、かわいくはねぇだろ」
眉間の皺すごいし。
カンペを読みながら思わず呟くと、二村さんはそうだろうと頷く。
「気が知れねぇ……」
「かわいいっていうのはほら、センパイみたいな人を言うんですよ」
センパーイと手を振ると、ぼんやり男らしい顔で座っていたセンパイがころりと柔い表情に変わる。
「えっ、わら……っ! かわ……」
「いや、あいつもかわいくはねぇだろうに」
顔を覆って小さく叫ぶ俺に、二村さんの冷静な声が続く。くわっと顔を上げ、睨み付ける。
「めちゃめちゃ可愛いでしょう! 想像してください!? 好きな人が自分と目の合った瞬間に微笑むんですよ!??」
「……なる、ほど」
ぐぅと二村さんは唸る。理解してくれたようでなによりである。
「さて、では最後。第一位、椎名由さん」
登場したのは、先程物騒な人に視線を送られていた金髪の人だ。哀れみの目を向けると、金髪の人は不機嫌そうな顔になる。
「……なにか」
「先程甲斐さんに視線向けられてた気の毒な人だと思って。合ってますよね?」
「あぁ……」
理由を言うと、なぜかげっそりとした顔をされる。不機嫌そうな気配はなくなっていた。代わりに疲れた様子を見せる椎名さんに、何か悪いことを言ってしまったかもと自省する。
「すみません」
「いや、こっちこそ悪い。ビビらせた」
申し訳なさそうな顔をする椎名さんに首を振る。
「いえ。俺も悪かったので。……じゃ、なんですが。好きなとこ言いますね」
「おう」
存在がかわいい
誰よりも傷ついているのに誰よりも強くあろうと歯を食いしばって立っているところ
過去のことでトラウマを持ちつつもそれをできる限り表に出さず、また兄の円を陰ながら心配していることろ
強いのに暗い過去持ち主人公がどタイプすぎるので
幸せになって欲しい。何よりそう思えるキャラクターです。
不憫なとこ
幸薄そうなとこ
健気なとこ
トラウマを抱えてる主人公が好き
…えっっっち…すいませんでした。
なんか、こう…とりあえず可愛いです。
本当はお兄ちゃんを大事に思ってるところ
甘えベタが可愛い💕
喧嘩強いの素晴らしい
男前なところ
クールに見えて情に厚いところ
健気すぎるところ、たまにかっこいいところ
総受けポジションなところ
鈍感なところ
にぶちんは世界を動かす。トータルしてプリンセス。
「愛されてますね……。折角なんでコメント貰っても良いですか。最後なんで多めに」
「俺ので良いなら」
口元に手を当て、一つ頷く。
「まず。いつも応援してくれてありがとう。どの言葉もありがたく受け取った。どれも俺には過分な言葉だったけど……。期待に添えるよう頑張りたいな。これからも、よろしく……して、ほしい」
少し不安そうな椎名さんの手を取り、先に開票の終わったグループの方へと引っ張っていく。とん、と背を押すと一歩歩を進めた椎名さんをいくつもの手が受け止めた。
そのことに少し安心した俺は、さて、と背を向けカンペを読む。
「ここまでお付き合いいただきありがとうございました。以上で人気キャラ投票#2の結果発表を終わります。本当にたくさんの投票、ありがとうございました! 進行上紹介できませんでしたが、好きなキャラが多くて決められないとの声もいただき、嬉しい限りです」
くるん、と後ろを振り返り、笑いかける。
「じゃ、俺はこれからデートなんで! 皆さんお達者で!」
呆れたような声を無視し、壇上下のセンパイの元へと駆け寄る。
「センパイ! 行きましょう!」
「おー。お疲れ」
するりと絡められる指先にときめく。なんで自然とできちゃうかな。何度やっても慣れない甘いやり取りにふいと顔を背ける。
「センパイ」
小さい声で呼びかけたのに、センパイはなんだと当たり前のように返事をする。聞こえちゃうんだもんなぁ。
きゅんと胸の高鳴る感覚を無視して問いかける。
「椎名さん、いい人とくっつくといいですね」
見たところ彼を想ってる人が何人かいた。椎名さんは、誰を選ぶのだろう。考える俺の手をセンパイはぎゅうと握る。
「……大丈夫だろ」
根拠のない肯定だったが、センパイが言うなら信じられた。さ、とセンパイが明るい声を出す。
「デート行くぞ!」
「! はい!」
るんるんと浮かれた足取りでバス停へ行く。時刻表を見た俺は、思わずげんなりと顔を歪める。
「本数すっくな……」
「……これは……」
愕然とする俺とセンパイ。これじゃ碌にデートの時間が取れない。
「何の為に……早く終わらせたと……!」
二度と来ねぇ。固く誓った俺に、聞き覚えのある声が話しかける。
「……魚沼くん、だったか」
「あ。桜楠会長」
「……本数少ないだろう。良ければ車を手配するから乗っていくといい」
もしかして、この人それを言うために追いかけてくれたのか。めっちゃいい人……。パァ、と表情を明るくする俺と、「お願いします」と言うセンパイ。分かった、と言い電話をかけ始めた桜楠さんをよそに、センパイがこそりと呟く。
「浮気は感心しないな」
「やだなぁ、好きなのはセンパイだけ、なんて言わせたいんですか。スケベだなぁ」
「言ってほしいって言ったら言ってくれるのか?」
まさかの返しに思わず黙り込む。後でなら、と呟くとセンパイは満足げに頷く。
「なら、楽しみにしておく」
間もなくして門前に車がやってきた。すごく高そうな車で少し不安になるが、桜楠さんに促され乗車する。
「じゃあ。今日はありがとう。デート、楽しんで」
「はい。ありがとうございました」
ひら、とぎこちなく手を振る桜楠さん。ほんといい人だな。
走り出す車に前を向く。
……さて。デートの始まりである。
(5/10)