拍手?関係ねぇな。3
某日・(やはり)南郷宅
とある土曜の昼下がり。南郷に取っては本来なら休日である曜日なのだが、昨日やり残した仕事を片付けに午前中だけ出勤していたらしく、まだ明るいうちにスーツでのご帰宅。
暑くはないがスーツ完備で歩き回れば多少は汗が浮かぶか、部屋に帰ったら贅沢ながらも昼からビールでもやろうと、ご機嫌な南郷。勤労も午前だけだったので気力体力共にまだ有り余っている。
部屋に辿り着いてドアを開ければ・・・
「あれ?」
ドアを開けて、ということは鍵を開けていないはず。
スルーされた鍵はつまり掛けられていなかったことになる。
「うわっ!しまった!」
慌てて部屋に入った南郷の目に飛び込んできたのは、先日ようやくの再会を果たした愛しき悪漢。
「おかえり、南郷さん」
「あ、あぁ、ただ、いま」
「居ると思ってたのに、なんだい、仕事だったの?」
「あぁ、午前だけな」
「そう。じゃぁ早速」
「え?」
一応まだ本編では再会したばっかなため(待て)、19アカギが部屋に居るのは見慣れない南郷。目をぱちくりさせていればアカギが寄ってきて、腕を引っ張る。慌てて靴を脱ぎ、引っ張られるままヨタヨタと進めば、数歩で目的の場所か、アカギが立ち止まり、合わせて南郷も立ち止まる。
辿り着いたそこは同じ部屋の中。そして布団の上。
「よいしょっと」
「うわぁっ!」
はい、お約束。
押し倒される南郷。
もう合気道の師匠にでもなっちゃえよ、って言いたくなるほど人体の達人な男、アカギ。色んな意味でピカロ様。
「ちょっ、待っ、おい、アカギ!」
「待たないよ」
「な、なんで!?」
「あぁ、えっとね、拍手貰ったんだよ、たくさん」
「な、なにぃ!」
南郷、弱々しい抵抗だったはずが唐突にアカギを押しやる勢いで起き上がった。それなら最初から本気で抵抗すればいいものを、とは言ってはいけない画面越しの暗黙の了解。
「は、拍手いただいたのか!?」
「まぁね」
「た、たくさんっ?」
「あぁ」
「あ、ありがたいことじゃないか!」
「まぁほら、よ〜う〜や〜く、俺らの再会編始まったし」
「あ、あぁ」
南郷、嬉しそうに微笑んで、それから結末を思い出したか少しだけ赤くなった。
「そういう顔するとお礼どころじゃなくなるから南郷さん。また速攻で暗転にしちゃうから俺」
「へ?」
「とにかくね、随分と随分と随分と随分と待っていてくれた人達が居たみたいでね」
「わ、そ、そうなのか!やっぱありがたいなぁ!」
先ほどからチクチクチクチクと作者への責めを忘れないアカギ。すいません勘弁してください。
「だから、まぁ再会編開始記念というか、待ってましたコメありがとうお礼というか、拍手お礼を兼ねて、今回は特別なんだって」
「そ、そうか!よし!頑張ろう!」
「そうだね」
「あぁ、頑張って二人でお礼しような」
南郷の満面の笑み。
御仏でさえここまで神々しい笑顔は出来まい。
が、そんな癒しマックスな笑顔にさえ劣情マックスを抱く悪漢アカギ。
「じゃぁ頑張ろうか、今から」
「よぉし、それじゃぁ何を・・・ってオイ!」
「ん?」
「何脱がせようとしてんだ!」
「だからお礼・・・」
「な、なんか他にあるだろ!そ、その、毎回、こればっか・・・」
「いや実はなんだかんだで毎回いいとこで俺が暗転にしてっから」
「え?」
「俺だけの南郷さんだし」
「アカギ・・・」
い、いかん、このままではまた暗転にされてしまう!という画面越しの不安を解消するためにナレーションが頑張ります。
というわけで、気付けば再度押し倒されていた南郷。スーツの上着は肘まで降りていて、皺など気にする余裕もなく、そのまま背中で揉みくちゃにされてしまう。抵抗できない南郷のネクタイに手を伸ばしたアカギは、ゆっくりと、その白く細い指先でノットを解いていった。シュルリと響く衣擦れの音がどうにも艶かしい。
緊張にか、興奮にか、震える南郷の唇は、アカギ、と名前を紡ごうとしていて、それに気付きながらも、アカギは、強引にその唇を塞いだ。喉の奥から漏れる声は苦しげだが、すぐにそれが甘い音色に変わることを二人とも知っている。
咥内を万遍なく犯したアカギの舌がようやく南郷の咥内から抜けていき、顔を少し上げたアカギの視線が、南郷の胸に移動する。そこには、まだ触れてもいない胸の突起がシャツを押し上げて尖っている光景があった。
クッと笑いを零して口角を持ち上げたアカギの表情は酷く残虐そうで、かつ、興奮しているように見えた。だがその悪漢の顔が、南郷の熱を高まらせる。これからされる何かを期待してしまうからだ。
アカギは南郷の尖る突起にゆっくりと唇を寄せていき・・・
「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!」
「良いじゃない南郷さん。ナレーション頑張ってるし、もうちょい聞いてあげようよ」
「いやおかしいだろ!てか何このナレーション先行というよりナレーションのみな感じ!」
「てかどうせこうなるし」
「な、なるか!」
「・・・なるじゃない、いつも」
「そっ、それはっ、そうかも、しれない、けど・・・」
くっ、ナレーションの努力の何百文字より、本人の一言のが萌えちまう!くそぅ!
「ほら、ナレーション悔しがってる。あーぁ、可哀想に」
「えぇ!?おかしくね!?」
びえーん、びえーん。
「泣かせたぁ。南郷さんが悪いんだぁ」
「いやだから!え?何この1対2な構図!今ここに居るの二人だよね!?ナレーションが台詞になってるのおかしいだろ!」
「んじゃナレーション抜いて、二人きりでちゃんとお礼しようか」
「あ、あぁ、それなら、まぁ」
まんまと口車に乗せられる南郷。
少し前とほとんど同じ流れだと気付いていない。
「二人で頑張ってお礼しようね、南郷さん」
「なんかアカギに似合わない台詞出たけどとりあえずそうだな」
▼やりましたねアカギさん。
「まぁね」
▼いやぁ、演技に熱入れた甲斐がありますよ。
「なるほど、凡夫だ」
▼きた凡夫発言!
「まぁ南郷さんヤル気に出来たし、良かったんじゃない」
▼いや南郷さんはお礼に関してはいつもヤル気ですよぉ、良い人ですからぁ。
「俺は違うと」
▼ひぃ!魔法のかかった牌で単騎待ちされる!
「しないし。じゃぁ何、今の作戦って無意味なわけ」
▼いえいえ、今回のお礼は南郷さんから誘う感じで行こうかと。ですからいつも以上にヤル気を出していただいてぇ。
「へぇ、いいねそれ」
▼うわっ、今悪い顔しましたね!ピカロ!ピカロ出た!ピカロ!
「それ連呼すると変な動物の鳴き声みたいだからやめたら」
▼あぁアカギさんになら冷酷な台詞を浴びせられるのも良い!
「腕一本もらおうか」
▼賭け事さえしていないというのに!?
「とりあえず黙って」
▼はいすいませんでした。
「アカギ?誰と話してるんだ」
「ナレーション」
「えぇ!?」
「釘を刺しておいたから」
「な、何?」
「俺の南郷さんで勝手に遊ばないでくれる?って」
「・・・お、お前、は、恥ずかしいこと、言うなよ」
「本当のことじゃない。俺のだろ?南郷さん」
「・・・あぁ」
悪漢のごときアカギの笑顔が、初めて、暖かいそれに変わる。
緩まる刃の如き彼の気配は、その切れ味を潜めさせることが出来るのは南郷だけだと、示していた。
「じゃぁ、勝手にナレーションに進められる前に、ね?」
「ど、どうするんだ」
「スーツ、下だけ脱ごうか」
「っ・・・!」
自分が脱がしたいのは山々なアカギだが、一応、南郷からお誘いという今回のテーマにある程度乗っ取ってくれるらしい。
「し、下だけって、そ、そんなの・・・」
「スーツなんて着てるあんたが悪い」
「え?」
「大体さぁ、スーツ姿で再会って、何、俺を犯罪者にしたいの?」
「は?」
「もういつ襲ってやろうかと」
「ん?」
「ネクタイとかさぁ、え?何?拘束しろってこと?」
「いや常識!社会人ネクタイ常識!」
「それとも目隠し?リーマン陵辱的な展開?」
「話聞いて!てか戻ってこい!」
「もう俺、ホントにさぁ・・・」
アカギは、ハァと深い溜息をついた。
まるで闇を知らない自称博徒にギャンブルを挑まれたときのような、溜息。
「アカギ?」
「アンタを手放したつもりだったのに」
「・・・そんなこと、言うなよ」
「つもりだっただけなんだって、分かったよ」
「え?」
「ずっと、手放せてなんかなかった」
「アカギ・・・」
「責任取れよ?」
「せ、責任?男同士は、その、結婚は出来ないから」
「相変わらずだな。ずれたこと言ってやがる」
「それじゃぁ・・・」
「死ぬほど犯すから」
「っっ!!」
「もちろん死なせないけど。一生俺のもんだ」
一縷の恐怖が背筋を走ることを禁じ得ない南郷。だが仕方がない。悪魔に魅入られてしまったのは、自分なのだから。
「南郷さん・・・」
「アカギ」
「ほら、脱いで」
「うっ」
「下だけ、ね」
「で、でもアカギ」
アカギの瞳に焔が灯る。
こうなったら、南郷でさえ止められない。逆を言えば、南郷の前でしか灯らない、焔なのだから。欲情という名の、焔だ。
どんな抵抗をしようと、最後はいつも一言で、有無を言えなくされる。そう、いつもの・・・
「いいから」
これだけで、南郷は逆らえない。
きっと心のどこかで自分も望んでいるからなのだと、そう思ってしまう。
「そうだよ、南郷さん」
まるで心を読んだような、アカギの言葉。
「アンタも、望んでるんだ」
「・・・あぁ」
「だから、南郷さん」
「アカギ、俺を・・・」
抱いてくれ、と囁きながら、南郷は自分の服に手を掛けた。
「当たり前だろ」
▼うおっ!やった!とうとう!
「はい、ここまでね」
「アカギ?」
「こっからは、俺だけのもん」
暗転。
▼くそぅっ!またかぁ!まぁ分かってたけどねぇ!(号泣)
「地獄へ堕ちやがれ」
▼ひぃ!刀で背中ザックリやった状態なのに目で殺される!
END
いや殺されねぇよ・・・
てかザックリはお前がやられてしまえ。
あ、えと、は、拍手ありがとうございました!
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