スナオ


「オラ、ベジータ見てっとムラムラすんだ」

 それは唐突だった。
 やはり悟空とベジータで修業中の事で「良い匂いがする」発言を彷彿とさせるシチュエーション。
 だが今は重力室がまだ直っていないため、悟空に組み手に誘われたベジータが渋々ながら(だが喜々として)やって来たパオズ山の頂上近く。
 しかも今はあの時のように組み手後ではなく、合間の休憩中。ベジータが水分を補給している瞬間だった。
 唐突なその一言に、当のベジータはもちろん思い切り水を吹き出した。

 ちなみに、今日は気紛れにも珍しくピッコロが地上へ降りて来ていて、悟空に誘われたのかその場に居合わせていた。さらにそのピッコロの気を感じ取った悟飯もが、作業を中断してそこにやって来ていて、もひとつオマケにクリリンまでもが、ベジータと修業するという話を聞いて、先日の悟空との話の件もあってか、心配が捨て切れず差し入れを名目にやって来ていたのだ。
 その全員の耳に届いた、悟空の台詞。空気が固まったのは言うまでもない。
 妙な沈黙に悟空は無邪気に首を傾げる。

「ん?どした?おめぇら」

 伝えるべきだと言われたし、悟空自身も考えるよりそのまま言ってしまった方が分かりやすいだろうと、修業の終わりも待たずにとりあえず思うままに言ってみたわけだが、事情知るクリリンと悟飯は、とにかく額に手を当てて「あちゃぁ」と心の中で盛大な溜息。
 タイミングから伝えられた内容から、とにかく全てが、悟空らし過ぎる。
 際どい空気の中で、だが何とか口を開いたのは、対悟空の精神的苦労に免疫があるのであろうクリリンだ。

「お、おい悟空、いきなり何言ってんだよ」

 ハハ、と弱い笑いを浮かべる。

「ん?だってクリリンも言えって」
「お父さん、あの、そういう話をそんなあからさまに・・・」
「えぇ?おめぇだって言えって」
「おい、孫」

 不意に口を挟んだピッコロは眉間に皺を寄せているが、小さく首を傾げながら問うた。

「ムラムラとはなんだ」

 性別のないナメック星人である彼は、どうやら他の二人とは違う意味で固まっていたようだ。

「ムラムラっつぅのはよ、なんかこう、ちん○んがな」
「うぉぉい!悟空!」

 慌てて突っ込みを入れるクリリン。さらに間髪を入れず、ピッコロの隣に居た悟飯が笑顔で続ける。

「お父さん。ピッコロさんには僕が教えておきますよ。ゆっくりと、丁寧に」

 眼鏡を指先で押し上げながら光らせ、最強の名に恥じないだけの気を妙な方向性で迸らせる男、悟飯。

「そっか!んじゃいいな」

 さらに快活に返答するその父。笑顔が眩しい親子の会話。笑顔の意味は全く食い違っているが・・・
 クリリンが遠い目で眩しそうに悟飯を見詰める。

「悟飯、お前はピッコロの事が絡まなければ真面目な常識人なのにな・・・」

 ピッコロがまた不思議そうに首を傾げる隣で、やだなぁハハ、と笑う悟飯。
 さてそんな和やかムード(?)を余所に、ずっとブルブルと身を震わせながら青筋を立てていたのは、そう、悟空にムラムラの対象だと言い放たれた当の本人、ベジータだ。
 周りがあれこれ話している間に着々と怒りは高ぶっていたらしく、それが最高潮に達した瞬間、一気に宙に飛び上がりながら少しのタイムラグも無く悟空目掛けてそれは放たれた。

「ギャリック砲っっっ!!!」

 わー、わー、とまるで一昔前の怪獣映画のように散る面々。
 クリリンはマジダッシュ。ピッコロは華麗に空へ飛び上がり、悟飯もそれを追って同じく飛び上がると、ピッコロの背中にくっついた。何気に一番得を得ているこのアルティメット。
 さて悟空はと言えば、特に動かずむしろ構えて、自分目掛けるギャリック砲を受け止めた。いや、といっても素直に喰らったわけではなく、練った気を掌に纏い、ギャリック砲を跳ね返したのだ。
 空高く、誰も居ないであろう天空へ。そして気弾は雲の上に達する前に爆発し、弾けた。
 いつもならもちろんこんな容易にベジータのギャリック砲を流せるわけではないが、感情が高ぶり過ぎてか気がコントロール出来ず、集中力なしの気弾だったため、悟空には容易に弾かれたのだった。

「あっぶねぇなぁ、ベジータ」
「黙れクソッタレ!」
「今の当たってたら、この山丸々無くなってたぞ」
「その前に貴様を粉々にするはずだったんだ!」
「おめぇどーしたんだ?」

 なんとか去った危機に胸を撫で下ろしつつ戻ってきたクリリンが、どうにもちぐはぐな会話をする二人に頬を引き釣らせてまた弱く笑う。

「いやそりゃ、お前がわりぃよ悟空」
「へ?オ、オラなんかしたか?」
「いやなんつーか・・・」

 なんかもういいや的な脱力声でクリリンが頭を掻いていると、上から、まだ宙に浮いたままの悟飯が合いの手を入れて来た。

「駄目ですよお父さん。そういうのはちゃんと順序立てないと。まずはベジータさんに押し倒していいか聞い」
「うぉぉい!悟飯!ていうか孫家!」

 最早この場でただの突っ込み担当になりつつあるクリリン。見上げた先には、ピッコロの背中にくっつきナチュラルに腹に腕を回している悟飯の姿が。抱き締めるというほどではなく、マントごと、フワリと、あくまで自然に。キュッと。
 もうどこから何をどう突っ込めば良いか分からない突っ込み担当クリリン。
 不意にピッコロからの問いが悟飯に向けられた。

「なぁ悟飯」
「はい!なんですかピッコロさん!」

 良い笑顔で良いお返事。いやいつもそうだが、ピッコロ相手だと何処か高ぶる悟飯の下心的なものを感じるせいか、思わずクリリンやや引き。
 それに全く動じない、いや気付かないピッコロに、慣れって怖ぇな、と思わずには居られない。

「お前は何故いつも俺の腹に腕を回すんだ?」
「あは。今更だなぁ」
「・・・まぁ、構わんのだがな」

 いやそこは構えよ!と今度は声に出さず心で突っ込む可哀相な突っ込み担当クリリン。
 さて悟空とベジータはと言えば、相変わらず首を傾げる蟹頭と、青筋立てるM字デコのまま、噛み合わない会話中だ。

「なぁベジータ、オラ何かおめぇ怒らせるようなこと言ったか?良い匂いするっつったときもおめぇすぐ怒って」
「げ、下品な物言いはやはり下級戦士だな!」
「へ?」
「貴様の下半身が動物並なのは構わん!」
「ん?」
「だがしかし!あろうことかこの、お、俺様にっ…た、対してっ…などっ…」

 ブルブル震えながらも徐々に顔が赤くなっていくベジータを見ていれば、悟空はやはり同じ言葉が口から出てしまう事を禁じ得ない。

「やっぱオラ、ベジータ見てっとムラム」
「ギャギャギャリック砲っっっっ!!」

 再び放たれた気弾はどうやら先ほどより威力増大の傾向であるらしく、やはりクリリンは「いやぁ〜!」と悲鳴を上げて走り出す。
 ピッコロは咄嗟に悟飯を庇うようにマントを被せ、その中で思わず頬を緩めるちょっと変態学者様。
 悟空は再度、ベジータの気弾を跳ね除けた。だがさすがに今のは威力があったか、少し時間とパワーが必要だったようで、気弾が空に飛んでいった頃にはエネルギーの余波で辺りの木々が一面なぎ倒されていた。

「ふぃ〜。落ち着けよベジータ」

 跳ね除けられたことにますます怒りを露にするエリート王子。

「貴様ぁ!」

 このままでは被害が増大すると慌てたクリリンが悟空に叫んだ。

「や、やるならもっと人居ないとこ行けよ悟空!」
「お?そっか、そうだな」

 悟空は一気に飛び上がり、ベジータに掴み掛かる。すぐさまベジータは攻撃を繰り出すが、頬を掠めつつも悟空はそれを避けて腕を掴んだ。

「ちょっと行ってくるわ!」
「カ、カカロッ・・!」

 ベジータが言い切る前に悟空は額に指を当てていて、次の瞬間には消えていた。
 そして静寂。

「え・・・あ、悟空・・・は、話し合い、をだぞ・・・」

 クリリンの声は当然ながら虚空へ吸い込まれていく。

「まさか、いや、まさかな」

 軽んじた己の一言に激しく動揺し始める、お人好し突っ込み係。

「おい、孫は一体どうしたんだ?」
「何でもないですよピッコロさん。それよりせっかく下に降りて来たんだし、これから一緒に何処か行きませんか」

 動じないどころかしっかりと己の欲望を見据えている悟飯に、成長したな、とクリリンは流れてもいない涙を拭った。

「奴等は放っておいて大丈夫なのか」
「大丈夫ですよ。ね?クリリンさん」
「え・・・あ、うん、多分、な」

 ベジータは分からんが、と付け足すクリリンに、悟飯は苦笑を浮かべ、地面へと降りてくる。

「大丈夫ですよ。遅かれ早かれ、こうなってたでしょうし」

 どうやら悟飯は父の想いを、その本気さを、知っているようだと気付いたクリリンは、俯きながら呟いた。

「だからこそ、だろ」
「え?」
「こうなるって分かってたからこそ、もうちょい準備させられたかもしれねぇじゃねぇか」
「クリリンさん」
「ブルマさんとか、チチさんとか、ベジータ自身にも・・・」

 悟飯は、父を羨ましく思った。なんて素晴らしい友を持って居るのかと。

「でもやっぱり、お父さんが動き出さないと何も始まりませんから。今までみたいに」
「・・・やっぱ悟空の息子だな、お前」

 苦笑するクリリンに釣られて、悟飯も笑みを零した。
 ピッコロは状況が掴めず、ただ首を傾げる。

「おい悟飯」
「あ、はい!えっと少し先に凄く景色の良い」
「奴等はつがうのか?」
「はい?」

 ピッコロが意外な台詞を吐きながらゆっくりと地に足を付ける。

「だが悟空にもベジータにも既に嫁が居るだろう。まぁ子作りは可能かもしれんが」

 恋愛に関して疎いのは悟空に並ぶピッコロだが、性的行為に関しては知識があるらしい。

「ピ、ピッコロさんの口から子作りなんて言葉聞いたら、僕、僕っ・・・」
「ん?どうした悟飯。気が乱れているぞ」
「ピッコロさぁぁん!」

 ガバッと抱き付いてきた弟子に一切動じず身動ぎもしないピッコロに、クリリンはもうなんか何もかもどうでもいいかも等とややヤケを起こす。

「俺、帰っていい?」
「どうぞどうぞ!」
「差し入れ置いてくから、良かったら悟飯持っていって」
「わぁ、ありがとうございます!ピッコロさん!ピクニックしましょーね」
「あぁ、俺は構わんが」

 孫家すげぇな、と呟きつつ、クリリンはパオズ山を後にするのであった。


身体はナメック!頭脳は神!その名はピュアグリーンピッコロ!

戻る


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -