オベンキョウ


 ここは空高く高く、さらに高くに位置する神様の神殿。まだ幼き神様と、その守人、そして元・神様が住まう場所だ。
 その元・神様(それは半分とも言えるが)であるピッコロは、神殿の外にて青空の下、胡座のままやや宙に浮かび瞑想中だった。高い集中力は彼の瞑想をより深くしていき、その浮遊は微塵も揺らがない。

「・・・」

 まるで彫刻が浮いているようにも見える。確かにピッコロの肌は俄かに光沢のある艶やかな緑で、心身共に鍛えられた筋肉の隆起は、同じ様に鍛えあげられた地球人のものよりも曲線美が勝っていた。
 だが異形には変わりないか、その美しさよりも奇異感の方が人の目には強く映るだろう。けれど彼をそうは見ず、他と変わらず接する仲間が、彼の周りには多く居る。さらに言うなら、彼を綺麗だと言って引かない青年も一人身近に居た。まぁその話はまたの機会にするとして・・・
 とにかく瞑想中であったピッコロは、ふと何かにそれを邪魔されたらしく、尖った耳が一瞬ピクリと揺れ、それからゆっくりと目を開けた。

「珍しいな・・・」

 数時間振りに声を発したピッコロはそう呟くと、胡座を静かに解き、その長い足を床に降ろした。それから神殿の方に顔を向ける。

「ポポ」

 さほど大きい声でも無かったが、すぐに神殿の方から黒い守人がポテポテと歩いてやってきた。

「どうした」
「客人が一人来る」
「悟飯か」
「いや違う。茶の用意を頼む」
「分かった。その客人甘いの食うか」
「何故だ?」
「今ポポ、ケーキ焼いてた。タイミングとても良い」
「そうか。何でも喜んで食うやつだ。しかも大量にな」
「ポポ嬉しい。神様たちあまり食べない。でもポポ料理好き」
「いつもガキ共や悟飯が食っているだろ」
「ポポ二人に食べて欲しい」
「・・・分かった。たまには頂くとしよう」

 根負けしたピッコロがそう言うと、ポポは平面的なその顔の口元だけをニコォッと笑みにし、お茶用意する、と言って神殿へと戻っていった。
 ピッコロは肩を竦めながら腕を組む。

「あんなに喜ぶなら、たまには料理を食ってやれば良かった」

 どこかワザとらしく大きめの声でそう言うと、クルッと後ろを振り返る。

「お前のようにな。デンデ」

 短い間の後、ピッコロの視線の先にあった小振りの木の後ろから、デンデがゆっくりと現れる。それからバツが悪そうに苦笑しながら頭を掻いた。

「やっぱりバレてましたか」
「当たり前だ。ポポに妙な入れ知恵しやがって」
「違いますよ!ポポさん、ホントにピッコロさんにも食べて欲しいって言ってて、僕も皆で食事とかもっとしたいなって・・・」

 多少は成長したがまだ幼い神様が、照れたようにはにかむ。ピッコロはやがてフッと笑みを浮かべた。

「まぁいいさ」

 デンデは今度は満面の笑みで、はい、と良い返事。

「あ、そういえばさっき言ってた客人って、悟空さんのことですよね」
「あぁ。分かるか」
「えぇ、あの方の優しい気がこちらに向かってます」

 デンデは嬉しそうに微笑んで、まだ姿は見えないが心地良い気の感じる方向を見た。

「それじゃあ僕、ポポさん手伝ってきます」

 そしてデンデは神殿へと駆けていった。それを目で追っていたピッコロは、だが悟空の気が近いことに気付き、顔を先ほどのデンデと同じ方角へ向ける。程なくして輝く物体が見えた。目視出来ればそれは数秒でピッコロの真上まで来て、それから落ちてくる。着地したのはやはり悟空その人であった。

「よぅピッコロ」
「珍しいな、孫」
「そうか?こないだも桃饅頭持って来たろ」
「そうじゃない。飛んで来るのが珍しいと言ったのだ」
「あぁ、瞬間移動使うとなんか皆怒るからよ」
「驚くんだろ。あれは相手の状況構わずだからな」
「オラ構わねぇのに」
「だろうな」
「そういやいつだったかベジータんとこに瞬間移動したらちょうど風呂入っててよ」

 あっはっは、と悟空は頭を掻きながら豪快に笑う。

「オラも風呂ん中にドボンしちまっておでれぇたなぁ。ベジータかんかんになってよ。すぐ追い出されちまった」
「俺が言うのもなんだが、デリカシーとやらはベジータのがあるようだ」
「でり・・・?それ美味ぇのか」
「まぁ、食えんな」
「なんだぁ」

 ピッコロはクッと喉で笑いながら、マントを翻して神殿の方へ踵を返す。

「茶を用意してもらってる。何か話があるんだろう」
「お、サンキュー」
「ポポの菓子もあるそうだ」

 やった、と嬉しそうに笑いながら、悟空も後を付いて神殿へと入っていった。それから、大きな窓と吹き抜けのある風の心地良い一室に通され、二人向かい合うように椅子に腰掛けた。すぐにデンデとポポが淹れたての紅茶と焼きたてのシフォンケーキを手に現れ、悟空は漂う甘美な香りに、歓喜の声を上げる。

「うひゃぁ〜!美味そうだ!」
「悟空さん、こんにちは」
「悟空、よく来たな」
「よぅデンデ、ポポ。元気か。これ美味そうだなぁ」
「まだまだあるから、いっぱい食え」
「やったぁ!」

 途端、悟空はケーキを手掴みでガッツく。うめぇうめぇと、くずを零しながら夢中になっている悟空に、ピッコロは咳払いを一つ。

「で、話とは何だ、孫」
「へ?あ、そうだった」

 ケーキにむしゃぶりつく悟空を楽しそうに見ていたデンデとポポだが、それを聞いて、僕たちお邪魔ですね、と去って行く。

「ポポ!また後でこれ食っていいか」
「あぁ、また持ってくる」

 二人が部屋を後にすれば、ピッコロは改めて悟空を見た。

「先に言っておくが、お前の考えていることは分かるがよく分からん」
「どっちだよ」
「お前が聞こうとしていることは俺たちナメックにはさらに理解出来んことだ」
「おめぇ神様の記憶もあんだろ?なら分かるかと思ったんだけどよ」
「・・・」
「男同士で子作りって出来んのか?」

 その瞬間、少し離れた所からドガシャーンと盛大な騒音。

「ん?なんだ今の」
「多分デンデだ。気にするな」
「でぇじょぶかな」
「怪我はない」
「はは、おっちょこちょいだなぁ」
「貴様のせいだがな」
「へ?」
「いや」

 特に声も潜めず吐かれた悟空の問いは、発達した聴力を持つナメック星人ならば簡単に聞こえただろう。同じ建物内なら尚更だ。
 瞬間的にテレパシーで無事を確認したピッコロは慌てはしないが、楽しそうに笑っている悟空には少し呆れてしまう。
 デンデはピッコロよりも地球の文化に興味を持っていて、さらに勤勉であるが故に、悟空の言葉をピッコロよりもより地球人に近い思考で捕らえられる。そのためのズッコケであった。

「孫」
「ん?」
「結論から言うと、子作りという行為は可能だ」
「そっか!」
「だが子は出来ん」
「おぅ、それは分かる。赤ん坊産むのは女だもんな」
「その通りだ」

 性別のないナメック星人には分からないが、地球人はそういう仕組みで、悟空やベジータを見ればどうやらサイヤ人もそれに適応しているようだ、というピッコロの(正しくは神様の)知識と見解。そしてマイノリティではあるが同性間でもどうやら性行為は可能であるという事。ピッコロがそれを伝えれば悟空は、実はあまり理解はしていなかったが、ベジータとエッチが出来るということは分かって、よっしゃ、とガッツポーズ。

「だがな、孫」
「おぅ」
「相手はベジータだろう?」
「おぅ」

 すると再び少し離れた所からドガシャーンと同じ騒音。いや、今の方が先ほどよりやや盛大か。

「ん?またデンデか?」
「あぁ。今のはどうやら俺のせいみたいだがな」
「なんでだ」
「気にするな」
「そっか」
「それより、ベジータの方はどうなんだ」
「何が?」
「お前との性行為を望んでいるのか」
「せい・・・?」
「セックスだ」

 ドガシャーン、と再び。いや三度か。

「デンデどうしたんだ」
「気にするな」
「でもよぉ」
「それより」
「あぁ、てかセックスってなんだ」
「・・・子作りだ」
「あぁ!セックスって言うのか!やっぱおめぇ物知りだなぁ」
「・・・」
「ん〜、わっかんねぇけど、こないだ子作りしてぇって言ったらでけぇ気弾投げられた」
「やはりあの時のでかい気はベジータか」

 ピッコロは溜息を一つ。そして悟空に向かってビシッと言った。

「いいか、貴様らのレベルになると喧嘩一つで地球まで危ないんだ。子作りするのは勝手だが、無暗に争うなよ」
「そうだな!分かった!」

 このときデンデが、そこじゃないピッコロさん!、と突っ込んでるのは届いていない。

「ところでよピッコロ」
「なんだ」
「男同士ってどうやんだ」

 ドガシャーン。
 最早二人とも気にも掛けないデンデの安否。

「そんなこと俺が知るか。知っていても恐らく説明が出来ん。人に寄って様々らしいからな」
「そうなんか?」
「悟飯にでも聞け。学者ならば教えるのも上手いだろう」

 なるほど、と悟空は納得に頷き、それから紅茶をガブガブと飲み干した。

「ピッコロ、ありがとな」
「あぁ」

 穏やかな空気が流れる一方、デンデは頭を抱えながら、僕は一体どうすれば、と唸っているのであった。

「ポポー!さっきの美味いやつくれー!」

 ご機嫌にドアから駆け出す悟空に、ピッコロは小さく笑う。気持ちの良い風が吹いていた。

「平和だな、まったく」

 確かに世界は平和だ。世界は。


ピッコロさん!デンデ!デンデが!

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