拍手?関係ねぇな。



某日・南郷宅

 とある土曜の昼下がり。あまりに天気が良かったか、後に伝説と呼ばれる男アカギ(現在13歳)は、窓辺に転がってウトウトとしていた。
 そこに唐突にやって来たのは、本来の家主である南郷という男。その肉体美も(一部の輩にとっては)さることながら、心は伝説の男をも飼い慣らすピュアピュアクリーンなナイスガイだ。

「おおおいアカギ!」

 バタバタと慌てふためく南郷にも動揺せず、アカギは横になったままうっすらと目を開く。

「南郷さん、どうしたのさ・・・」
「い、いやなんかさっき連絡あってな、は、はは、拍手なんてありがたいもんくれた人が居るらしいんだよ!」
「・・・」
「いやぁビックリだよ!でもやっぱ嬉しいもんだなぁ!」

 眉尻を下げて、人の良さそうな満面の笑みを浮かべる南郷。彼が嬉しいのならばきっと良い事なのだろうと、アカギは無表情のままに思う。

「良かったね、南郷さん」
「あぁ!ホントにな!」

 アカギは再びまどろみに落ちかけていく。

「おいアカギ!寝るなって!」
「・・・なんで」
「俺達でやることあるだろ?」
「・・・夜になってからと思ってたけど南郷さんが良いなら」

 徐にアカギは起き上がり、ゆっくりとシャツのボタンに手を掛けた。

「うん、アカギそれ違う」

 仏のごとき笑顔。

「・・・違わないでしょ。俺とアンタですることって言ったら愛の営みしか」
「アカギの口から出そうもないワード来た!」
「ったく。じゃあ何」

 アカギは半開きの目のまま、欠伸を零す。だが南郷は、そんな気怠い空気もなんのその、太陽のごとき笑顔で言った。

「お礼だよ!」
「・・・は?」
「拍手お礼!俺達で拍手してくれた方にお礼するんだよ」
「お礼?」

 南郷は深く頷く。
 アカギは無表情のまま暫く南郷を見詰めた。だがやがて、また横になろうとして。

「関係ねぇな」

 とのたまう。
 南郷はそんなアカギを横にさせまいと、脇の下に手を入れてヒョイッと起き上がらせる。それからポンポンと頭を撫で、顔を覗いた。

「ほら、シャキッとしろ」
「・・・」
「わざわざ拍手してくださったんだぞ?」
「・・・」
「それに、拍手ってのは、その、俺とお前がここで、ず、ずっと一緒に居るためにも、大事なんだぞ」
「そうなの?」
「あぁ!」
「そいつは初耳だ」
「だから、俺は、その、拍手が嬉しいんだ。凄く・・・」

 南郷は少し照れ臭そうに眉を寄せ、視線を泳がせている。ほんのり赤くなっている耳と、握られた拳を、アカギはゆっくりと交互に見た。

「だからな、アカギ・・・」
「仕方ねぇな」
「アカギ!」

 パッと南郷の顔が明るくなる。

「で?お礼ってどうすりゃ良いの」
「え?あ、そうだな、何が良いのかな」
「あらら、分かんないんじゃ意味ないじゃない」
「俺の手料理!は、礼にはならんか」
「それは俺が食うから駄目」
「ん?あ、じゃあアカギの麻雀講座!」
「何ずれたこと言ってんだ」
「駄目か・・・」

 それじゃあ、と南郷は悩みだす。唸るその隣でアカギはまた欠伸を一つ。



▼あの、アカギさん。
「・・・何」
▼お礼はサービスショットが妥当かと。
「俺が脱げばいいの?別に良いけど」
▼あ〜、それも良いんですけど、例えば南郷さんのセクシーポーズとかね。
「・・・死ねば助かるのに」
▼いや、気配死んでませんから!バリバリ生きたがりっつかヤル気満々ですから!
「気分じゃねぇな」
▼いやだからアカギさんじゃなく南郷さんの気分・・・
「自分を捨てちゃいなよ」
▼すいません。あの、でもせめて、言葉苛めとか、それで身悶えて自分から誘っちゃう南郷さんとか。ほら、こちら音声だけですし。
「いつかなんて言わず今すぐやろう」
▼予想だにせず乗り気キタ!しかもこっちいつかとか言ってねぇ!


「アカギ?今誰と話してたんだ?」
「・・・猫」
「あぁそうか」

 納得するピュアハート南郷。さて早速アカギは南郷にソッと近寄った。

「何が良いかなお礼」
「南郷さん」
「うわっ、おまっ、近いよ」
「今更だなぁ」

 アカギはクックッと笑いながら、南郷の唇を吸った。

「んっ!な、なんだいきなり」
「ほら、猫ってさ、お互いの発情期が分かるだろ?」
「・・・」
「俺は今、アンタの発情期を感じたからさ」
「あ、明るいうちから何言ってんだ!」
「ほら、暗けりゃ発情するわけだ」
「違っ・・・!」
「昨日の今日で、違わないでしょ?」

 南郷は一気に赤くなり、咄嗟に俯く。

「昨日の夜、凄かったね、南郷さん」
「う、うるさい!」

 南郷は正座のまま慌ててアカギに背を向けて、肩を縮こまらせた。

「覚えてる?アンタ俺のを咥えたまま、自分で尻を」
「あ、アカギ!」
「こっちに早くって、さ」

 どうしてやろうかと思った、と言いながらアカギはその小さくなっている背中にピッタリとくっつき、太股で腰を挟むようにして密着する。そして腕が回り切らない南郷の胸に手を伸ばした。
 見た目には子供が大人の大きな背に甘えているようにしか見えない程、身体のサイズには違いがある。
 だが確かにこの13歳に、南郷はそういう意味で抱かれて居るのだ。恐るべし(後に)伝説と呼ばれる男。

「南郷さん、ここも好きだよね」

 言いながらアカギの掌が胸を撫でる。ただ柔らかく、広く、撫でるだけ。南郷は肩をビクッと揺らし、それから徐々に腰をモジモジと揺らし始めた。

「どうしたの?」
「な、なんでもないさ」
「また自分で弄っていいよ?乳首」
「っ・・・!」
「あぁそれとも昨日みたいに俺に、抓って欲しい?痛いくらいが好きだもんね」

 13歳設定に無茶が生じ兼ねない程の攻めっぷりである。
 南郷は、殊更に腰を震わせ、体温も少し上がったようだった。

「汗、かいてる」

 アカギが、南郷の肩甲骨辺りをシャツの上から甘噛みした。途端、ヒッと高い声を喉から零して南郷はますます身体を縮こまらせる。

「おまっ、ど、どうしたんだよっ、いきなりっ、なんかっ、変なことばっか・・・!」

 少し泣きそうな声。やり過ぎたかな、とアカギは眉を上げるも、その震える声にまたたまらなくソソられてしまうのだから、しょうがない。

「大体っ、そんなにっ、ぺ、ペラペラとっ、舌回るようなっ、お、俺のアカギはっ、そんなんじゃっ、な、ない!」
「え・・・」

 いや実際、夜の行為の最中は、アカギは南郷をつい苛めてしまうが故にそれなりに舌は回るのだが、確かにこんな唐突に日常から喋る方では無かった。
 だが南郷と居ることがアカギの心臓と脳を刺激して、口を開かせているのだということを、二人共気付いていない。発情期などよりも簡単に分かりそうな恋のメカニズムだ。
 だが今、アカギに取って重要なのはそこでは無い。

「南郷さん、もう一度」
「へ?」
「アンタ今、俺のアカギって」
「っ・・・!」

 南郷は自分のものと、出会った頃に約束はしたが、アカギ自身を南郷のものと言われることは滅多に無かった。似たような意味だが、言葉にすると全然違う。
 アカギは南郷の背中に額を当てた。

「南郷さん、ねぇ、もう一度・・・」

 そこには年相応の少年が一人。いや中身を覗けばやはりそれは違うことを知るのだろうけれど、南郷にはとても、大事にしなければならない者に見えた。

「アカギは・・・俺の・・・」
「あ、ちょっと待って」
「え?」
「お礼はここまでね。あとは俺のものだから」
「アカギ?」
「いいから、ほら、続き」

 照れ臭そうに口をモゴモゴさせる大きな人に、(後の)伝説の男は頬を緩ませるしか出来ないのだった。



▼え〜!いやもうちょいいきましょうよここは!
「実力行使しかねぇか」
▼ひいっ!差し込まれる!

END


いや、差し込まれる、って。
あ、えと、は、拍手ありがとうございました!

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