ソノコロ


 カプセルコーポは今日は平和だ。重力トレーニング室が未だ大破状態にあるため、ベジータは普通のトレーニング室で気弾は放たず筋力トレーニングに勤しんでいるからだ。
 だがもちろん重りはベジータ用に作った通常よりも千倍は負荷のかかる特注品である。
 寡黙に単純動作を繰り返すベジータは多少息を乱しつつも、頭の中では重りを持ち上げた回数ではないことを考えていた。
 悟空の事である。
 平和な時が内面に影響を見せているのは、悟空だけでは無いようで。

「クソッタレ・・・!」

 派手な音を立てて常識外れの重りを強化壁に投げ付ける。乱れた呼吸のままにベジータは舌打ちを零し、タオルを手に取った。
 気が逸れたのか、いつもより早めにトレーニングを終え、汗を拭いながらキッチンへ向かう。冷蔵庫からミネラルウォーターを出した所でブルマが顔を見せた。

「あらベジータ。トレーニングは?」
「うるさい。あそこでは気が乗らんのだ。早く重力装置を直せ」
「壊した本人に言われたくないわねぇ。あれ無いとウチ静かだし、暫く放っておこうかしら」
「おい!」
「冗談よ。家壊されたら困るしね」
「あそこが無いとトレーニングが出来ん。カカロットも組み手だなんだとまた来るだろうしな」

 フンと鼻息荒く、ベジータはボトルを煽った。

「あぁ、孫君に会えなくて寂しいの?」
「っ・・・!!」

 思わず噎せるエリート王子。ゲホゲホと咳込みながらブルマを睨んだ。

「そんなわけあるか馬鹿女!」

 口許を腕で乱暴に拭いながら暴言を吐く夫に、妻はニヤニヤと笑みを浮かべる。

「カリカリしないの。涙目になっちゃって、可愛い」
「かっ・・・!」

 さすがはベジータの妻と言うべきあしらいである。

「と、とにかく早く修理しろ!」
「はいはい。ホントにアンタって孫君が好きねぇ」
「だ、黙れぇ!」

 どれだけ怒っても自分には手を出さないと分かっているからこそのブルマの態度ではあるが、つまりは、好きな子ほど苛めたい、の良い例である。
 ブルマは笑いながら、テーブルに置いてあった紙の束を取り、リビングから去りかけた。だがベジータがふと何か思い出したようにそれを呼び止める。

「待て」
「ん?何」

 振り返ったブルマに、ベジータはツカツカと歩み寄った。

「え、な、何よ」

 ベジータはブルマの目の前まで来ると、不意にその鼻先を妻の耳元に寄せた。
 ブルマは思わず頬を赤らめる。

「ど、どうしたの」

 顔を戻したベジータは、少し思案するように視線を動かし、そしてブルマに首筋を見せるように顔をやや横に向けた。

「俺から何か匂いがするか」
「は?」
「お前が付けているその香水のような匂いだ」

 ブルマは思わず目を瞬き、それから溜息を零した。

「するわけないじゃない。汗臭いだけ」
「汗臭いとはなんだ」
「何よ。良い匂いするわねって言われたいの?」
「っ・・・そんなわけあるか!」
「んもぅ、なんなのよ」
「うるさい!」

 ブルマは呆れたように肩を竦め、リビングを出て行った。

「まったく、相変わらず下品な女だ」

 ベジータは再びボトルを扇ぎ、水を飲み下す。

「カカロットの野郎・・・妙な事言いやがって」

 そのままドサリとソファーに身を預ければ、今度はリビングにトランクスが走り込んできた。

「あれ?パパ」

 見れば息子は上着を着ていて何処かに出掛ける所だったのが分かる。ベジータは小さく舌打ちをした。

「トレーニングはサボるな」
「はい!これから悟天とピッコロさんとこ行くんだ」
「・・・」

 ガキは皆あのナメック星人のとこに行きたがる。とベジータはまた小さく舌打ちを零した。

「パパもまた今度、稽古付けてね」
「生意気なガキだ」
「今日は悟飯さんも来るって聞いたから、絶対行かなきゃ」
「悟飯か。奴もよく行ってるようだな」
「はい!」
「ガキ以外にも懐かれてるとはな」
「悟飯さん、院生になって忙しいのに、ピッコロさんに会いたいからって言ってたよ」

 ベジータは片眉を上げて鼻で笑った。トランクスは見慣れた父の態度に対して、相変わらず可愛いな、としか思わない。自分がピッコロや悟飯を選んで悔しいのだと思っているらしい。あの母ありきのこの子である。

「それじゃ、行ってきます」
「待てトランクス」
「え?」
「こっちに来い」

 トランクスは首を傾げながらも父に歩み寄った。

「俺から何か匂いはするか」
「へ?」

 サイヤの血にしか感じないものなのではないかとベジータは思ったらしく、そこでトランクスに白羽の矢が立ったのだ。

「匂い?」
「そうだ」
「ん〜」

 トランクスは腰を曲げて、座る父に顔を寄せる。

「良い匂いはするけど」
「本当か!」

 やはりサイヤ人にしか分からない何かがあるのかとベジータは目を見開き、背を戻したトランクスを見上げた。

「でもそれ汗の匂いだよ。俺、パパのその匂い好きだから」

 まだジュニアハイにして何処か危険を孕んだ台詞を吐く少年、トランクス。

「・・・もう良い。行ってこい」
「うん。行ってきまーす」

 トランクスは笑顔でリビングを去っていった。
 結局ベジータは、悟空の言う「良い匂い」とやらが分からないまま悶々とする。

「くそっ!なんで超エリートの俺様がこんなことを考えなきゃならんのだ!」

 勢いで叩いたクッションは見事に破裂し、辺りに綿が散る。その綿に埋もれながら、ベジータはジタバタと身悶えるのであった。


身体は大人!頭脳はサイヤ!その名はツンデレ王子ベジータ!

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